nostalgia
34 差
………………こ、来なきゃ良かった。
うつむいた顔が、かぁーっと熱くなっているのがわかる。足元だけ見て、ほとんど並んでるけど少し先を歩くノストさんの後に続く。
傍目から見れば、大層惨めに違いない……そう思いながら歩いていたら、足元だけを映していた視界に、突然綺麗な花の咲き誇る花壇がっ!!
「っきゃぇえ!?!」
前なんて見てなかったから、当然、私はつま先を花壇にぶつけて!
ぐらっと前に倒れかけ、変な声を上げながらも何とか持ちこたえて、その場で一回転する奇妙なステップを披露して花壇から離れた。よ、よかった……綺麗な花がグシャグシャになるところだったよ……。
「っノストさんッ!! 仕組みましたね~っ!?」
「お前の運の良さを高く買った上でだ」
上手い具合に自分だけ花壇を避けていたノストさんは、私を振り返ってそう言った。
よく言うよ、この人……私が倒れようが倒れまいが、面白ければそれでいいくせに。こ、こっちは出したこともないような変な声を上げてまで……。
……と、そこで私は気付いてしまった!
私を軽蔑した目でちらちら見る、綺麗な服を着た女の人たち。はっと辺りを見渡すと、左の方には、同じ目をした、やっぱり高そうな服を着た男の人。
カーッと顔が赤くなって、私はどうすればいいのかわからなくて、とりあえず目を逸らした。もんのすごく注目浴びちゃった……は、恥ずかしい!ただでさえ、この街で私は浮いてるっていうのに……うう、ノストさんの馬鹿馬鹿っ。口に出したら殺されそうだから心の中で。
セル君の制止を振り切ってマオ山脈を越えた私とノストさんは今、貴族の街フェルシエラの、入口から入って目の前にある広場にいた。
その広場の奥の方には幅の広い階段が伸びていて、上にはまた広場があり左右にいろいろ大きな建物がたくさん並んでいた。2階(?)の広場の奥にも、さらに上に続く階段があって、やっぱり似たような作りになっている。縦に長い街なんだなぁ……。
で、もう一度言うけど、私がいるのは一番低いところにある広場。広場は何処であれ、基本的に憩いの場所だ。そしてまた、視界が広いから注目を集めやすい場所でもある。
広場にはこれまた高級そうなカフェがあって、そこでティータイムを満喫中らしい貴族っぽいカップルとか、白い日傘を差して散歩中の女の人とか、とにかくさまざま。そんな人達は、広場に立ち尽くす、明らかに庶民ですって感じの私を軽蔑した目で見てくる。
みんな、私なんかよりお金持ちのはずだから、この上から目線は当然っちゃ当然だけど……ど、どうしよう……私、本当に浮いてる。
何で私ここに来たんだっけ?いや、わかってるけど……まず、カルマさんに会いに来たんだ!【真実】のことも気になるけど、まず先にそっち。
「の、ノストさん……」
一方、ノストさんは、当たり前だけど平然としていた。いろんなところから向けられる視線を感じながら、私が弱々しく彼を呼ぶと、ノストさんは周囲に目を走らせてから。
「人気だな」
「ノストさんのせいじゃないですか……」
「はぁ?お前の芯に染みついた田舎臭さのせいだ」
「うっ……そ、それもあると思いますけどっ!とにかく……カルマさんって、何処にいるんでしょう?フェルシエラってしか聞いてませんよね」
「………………」
「ノストさん?」
花壇の脇に立つ私達。私がとりあえずノストさんに聞いてみると、ノストさんは途端に黙り込んでしまった。意味ありげな沈黙に、私が首を傾げたら。
「ディアノストっ!!?」
「え?」
横の方から、大きな声がした。ノストさんが立つ右側の方からだ。
そっちを振り返った時、かすかにノストさんの表情が変わったのが見えた。……嫌そうな顔。
自分が呼ばれたわけじゃないのに、私が身を乗り出して見てみると……誰かが駆け寄ってくるのが見えた。
高く2つに結い上げた、つややかな桜色の長い髪をなびかせながら走ってくるのは女の人だ。淡い赤のドレスに身を包んでいて、走りやすいようにドレスの裾を掴んでいる様がお姫様みたいで綺麗だった。
「ディアノスト!ディアノストよね!?」
駆け寄ってきた女の人は、まるで逃がさないというふうに、ノストさんの腕に抱きついた。……だ、抱きついた!? な、なになに~!?
女の人は、明るい翠色の瞳でそこからノストさんを見上げ、嬉しそうに微笑んで彼にくっつく!ちょ、あの……わ、私はどうすれば!? どうしよう、こっちが恥ずかしいよ!
対して、されるがままになっているノストさんは、呆れたような面倒臭そうな、そんなふうな顔で、一言。
「離れろ」
「絶対嫌」
「………………」
一言を一言で一蹴されたノストさんは、疲れたように小さく息を吐いた。
……う、うそ……あのノストさんが負けてる!? なになに~!? これは夢なの!? 夢でしょーっ?!
とりあえず、この女の人はノストさんの知り合いで、今は感動の再会中……ってことはわかる。
「3年ぶりね。会いたかった! ……あら」
「あ、えと……こ、こんにちは」
ふと、女の人が私の存在に気付いて、こちらを見た。ばっちり目が合ってしまった私は、オドオドしながらなんとなく挨拶する。女の人はやっぱり見下した目で私を見て、ノストさんに聞く。
「この子、誰?」
「連れだ」
…………え。
私、連れってことになってる?ノストさん、そう思ってる?
確か初めて会った時、連れ未満って言われなかったっけ……少しずつ、ランク上がってる?なんかちょっと嬉しい……こんなことに嬉しさを見出す私も私っ!?
「ふーん……」
ノストさんのだるそうな言葉を聞いて、女の人は見定めるように遠慮なく、なんだか緊張している私を見てくる。……私、多分この人苦手だ。
それから興味を失ったように私から目を離し、女の人はノストさんに言った。
「それにしても、本当に何も変わってないのね。あの頃と」
「あ……」
「何?」
「な、何でもないです」
ようやくノストさんから離れた女の人は、ノストさんの全身をざっと見てそう言った。
きっとそれは、ジクルドの不老効果のせいだ。彼女は、知らないんだ……と思って、私が思わず声を上げたら即行睨まれた。びくっとして引っ込む私。
「私は18歳になったのに……貴方は、17歳のままなのね……」
「…………え?」
女の人が、何処か寂しげな表情で言った言葉。私は目を瞬いてポカンとした。ノストさんさえも、思わず女の人を見た。
ノストさんの視線に気付いた女の人は、寂しげな表情のまま微笑んだ。
「……カルマから、すべて聞いたわ。3年前、貴方がこの街を去った後のこと……」
「あ……」
その言葉に、私は……なんだかショックを受けた。
私が知らない、3年前の出来事。それを彼女は知っている……当事者であるノストさんのすぐ傍にいる私がそれを知らないのは、ノストさんが話したがらないからだから、仕方ないってわかってるけど……なんだか嫉妬しちゃう。……あ、いや変な意味じゃなくてね!
ノストさんが自分から語ろうとしないことだ。だからノストさんは、やっぱりあまり知られなくなかったらしく、少し黙り込んでから、珍しく話を逸らした。
「……カルマは何処にいる」
「貴方の家に雇われているわ」
「え……」
「………………」
間を置かず返答した女の人の言葉に、私が思わずノストさんに目をやると、ノストさんは、今度こそ黙り込んでしまった。
貴方の家って……ノストさんの家だよね。ノストさん、行きたくないんじゃ……でも、私一人でカルマさんに会うなんてできないし……。
行きたくなさそうなノストさんの横顔を見て、女の人は安心させるように微笑んだ。
「3年前と変わらない容姿が怖れられるとでも思っているの?大丈夫よ。わたくしも、ラスタ様も、アリシア様も、使用人たちも……貴方を心待ちにしてたんだから」
「………………」
彼女の言葉は、本心からのものだった。ノストさんもそれがわかったらしく、少し驚いたような顔をしていた。
……なんだか安心した。ずっと前、ノストさんに家族は怖がりません、逆に嬉しいですよって言ったら、ノストさんにそんなわけないって切り捨てられた。
でも、この女の人は怖がっていない。私が思ったことは綺麗事じゃなかったんだって……そう思うと嬉しい。だからノストさん、びっくりしてるんだ。
「ほらっ、ノストさん、言った通りでしょう?行きましょうよ!もし怖がられたりしたら、私がなんとかします!」
表情にも嬉しいっていうのが出て、私は笑顔だった。するとノストさんは、左側の私を横目で一瞥し。
「お前に何ができる」
「え?え、えっと……場を呆れさせることですか?」
「自覚してるのか。いい傾向だな」
「じ、自覚させてるのはノストさんでしょうッ!」
だって私が喋れば、この人、大体溜息吐くんだもん!それで気付かないっていうのも鈍感すぎだよ!
私がプンスカ怒って言うけど、ノストさんは完璧スルーして歩き出す。私が慌てて追おうとしたら。
「待ちなさい!!」
「へ??」
あの女の人が、途端に苛立った大声で叫んだ。
私がびっくりして振り返ると、女の人は、18歳って言ってたけど、もっと大人びて見えるその綺麗な顔には似合わない、怖い顔をして私を見ていた。……え、な、なに??
足を止めた私に、女の人はツカツカ歩み寄ってきて、すぐ目の前で立ち止まった。なんだか対抗心が燃えているような目で私を睨みつけ、聞いてきた。
「貴方、名前は?」
「え……す、ステラ……ですけど」
「そう、ステラね。覚えておくわ」
「あ、ありがとうございます」
聞いてきた方がまず先に名乗るもんじゃないのかなとは思ったけど、その迫力に押されて答えてしまった。そしたら女の人がそう言ったから、とりあえず嬉しいことだと思って私はお礼を言う。
しかし女の人はその言葉は耳に入らなかったらしく、びしっ!と私を指差して。
「いいこと?よーっく聞きなさい!アンタなんか平民に、ディアノストは渡さないわっ!!」
「…………………………は??」
物凄く、理解するのに時間がかかった。女の人は、相変わらず敵意の目で。
……えっと?まず、女の人は、本人も言ってるけど、見た感じノストさんが好きなんだろう。で、私は……ライバル視されてる?!
ななな、何で何で~~っ!!? だって最初、本当に貴族と庶民って感じだったのに、突然ライバルとか対等になったよ?! 私、何か思わせぶりなことしたっけ??
その声は、広場にいた人達にも当然聞こえていた。途端に少し騒然とし始めた周囲の人の目を気にすることなく、女の人は続ける。
「いいえ、渡せないと言った方がいいかしら?私とディアノストは、婚約してるんだから!!」
………………へ???
「こ……こ、こんにゃく……?!!」
「こッ、婚約よ!! 妙なボケかまさないで!」
「か、噛んだだけですよっ!ボケじゃないです!!」
私が愕然としながら喋ったら……噛んだ。こんなシリアスな場面で何やってんの私!我ながら気の抜けるその言葉に、女の人もさらに怒ってしまう。悪循環。
いや私も私で、何でそこ衝撃走るの?本能的に「婚約」って言葉でボケができそうで、感動で衝撃が走ったのかな……いやいやまさか!
「とにかくっ、誰にも割り込ませないんだから!!」
「ブリジッテ」
女の人……ブリジッテさん?いや、相手は貴族だから「様」の方がいいかな……。
どんどん怒りが激化していくブリジッテ様を宥めるように声を挟んだのは、先に行ってしまったとばかり思っていたノストさんだった。前を向くと、ノストさんは階段の前でこちらを向いて立っていた。
……凄くいいタイミングで呼ばれたらしい。途端に肩から力が抜けていくブリジッテ様が、呆然とした様子でノストさんを見る。
注目を集めてるのに、やっぱり平然としているノストさんは、静まったブリジッテ様に目をやってから、私を見て言った。……そういえば、周囲の目を気にしないのは二人とも似てる。
「遅ぇよ」
「え……あ、はいっ……」
ブリジッテ様を置いてっていいのかなと思ったけど、とりあえず素直に従う。たくさんの人が見つめる中、私は緊張しながら、階段を上り始めたノストさんの後を駆け足で追いかけた。
階段の途中で彼の隣に追いつき、そこで私が肩越しに後ろを少し振り返ると、ブリジッテ様はそこに立ち尽くしたままだった。
「……いいんですか?ブリジッテ様」
「ほっとけ。やかましい」
「や、やかましいって……フィアンセなんでしょうっ?」
「違う。許婚だ」
「許婚ってことは……ご両親の決めたこんにゃく……こ、こんやく、ってことですかっ?」
「……わざとか?」
「違いますってば!!」
ちゃんと「婚約」って言ったつもりなのに、自分でも「こんにゃく」にしか聞こえない……発音ヘタだな私。
「でもでも、婚約者には変わりないでしょう?」
「昔の話だ。不老だったらそんなの関係ねぇだろうが」
「あ……」
『私は18歳になったのに……貴方は、17歳のままなのね……』
さっきの、ブリジッテ様の寂しげな表情が蘇った。
そう、だよね……ノストさんはどうだかわからないけど、ブリジッテ様はノストさんが好きだ。3年前までは、ノストさんが17歳、ブリジッテ様は逆算で15歳だったのに、ノストさんが不老の今、ブリジッテ様はノストさんの年齢を追い越してしまった。自分だけ年をとっていくなんて、寂しいに決まってるよね……。
そしてそれは、ノストさんにも言えること。自分だけ年をとらないで、景色が移り変わるのだけを見るなんて……寂しい。凄く……孤独だ。
口にこそ出さないけど……ノストさん、本当はすっごく寂しいんじゃないのかな。
最初の階段を上り切りながら、そう思っていると。
「おい、ちょっと君!」
「止まれ!」
「え?」
突然、男の人の声がして、ザッと目の前に2つの人影が立ちふさがった。青い縁の神官服。グレイヴ教団ゲブラーの、紺髪、赤髪のお兄さんが、私の前に立っていた。
「平民は、これ以上の進入はできない」
「さぁさぁ戻った戻った!」
言い方は違えど、二人とも、私に戻れと言っていた。え、何でいきなりっ?そんなこと言われても……。
助けを求めるようにノストさんの方を見ると、私が引っかかったことに気付いて、すでに振り返っていたノストさんが、面倒臭そうにゲブラー二人に向かって言う。
「通してやれ。俺の下僕だ。後で証書でも渡せば問題ねぇだろ」
「しかし、正式な手続きを踏まない以上、これはルールに反することに……」
「お、おいお前、相手わかってんのか!?」
紺髪の頭の固そうなお兄さんがノストさんに反論しようとしたら、赤髪のお兄さんが慌てた様子で、小声で相棒を制した。紺髪のお兄さんはわからないらしく、首を傾げるだけ。赤髪のお兄さんが紺髪のお兄さんに耳打ちすると、サーッと途端に彼は顔を青くして、「し、失礼しました!」と、私の前からどいてくれた。……ノストさん、そんなに地位高いのかな……。
どうでもいいけど、ノストさん、「通してやれ」って貴族っぽくてカッコイイんだけど、下僕って……さっき連れじゃなかった!? 突然格下げっ?
二人のお兄さんがどいた前を、私はなんだか妙な気分で通りすぎ、前を向いたノストさんの隣に並び直す。
「フェルシエラは、階層で住む貴族が決まってる。普通、庶民の下の下のお前は、下流貴族の最下階しか入れない」
「庶民の下の下って……それをノストさんが何とかしてくれたってわけですね……違法で」
通れたからよかったけど、なんだか後ろめたいなぁ……この人、ルールを何だと思ってるんだ。
フェルシエラが階層で住む貴族が決まってるってことは……今、上った真中の階には中流貴族が住んでるってことかな?で、一番上は上流貴族って感じかも。わかりやすくていいね。
ノストさんは、さらに上の階へ続く階段を上り始める。ってことは……やっぱりっていうか、この人、上流貴族?
階段を上り切ると、目の前に、物凄く大きな屋敷があった。その屋敷の左右に、この屋敷ほどじゃないけど、またまた大きな屋敷が2つずつある。どうやら上流貴族っていうのは、5軒しかないらしい。しかも真中の馬鹿デカイ屋敷の主が一番偉いと見た。
そのまままっすぐ歩くノストさんについていく。……え、まっすぐ?ってことは……。
ノストさんは、目の前のあの馬鹿デカイ屋敷の入口……アーチ型の門に近付いた。左右に立っていた門番らしい鎧を着込んだ二人が驚くのも気に留めず、その開け放たれている門を当然のように通り抜ける。対して私はオドオドしつつ、ひょこひょことノストさんの後を追う。
屋敷へと続く、広い庭を横切って作られた幅の広い道。それの途中まで歩いた時、何個も並んだ花壇のうち、近くの花壇を手入れしていたおじいさんが、ノストさんを見てびっくりした声を上げた。
「ディアノスト様!?」
「……アルモ」
足を止めたノストさんにおじいさんは駆け寄ってきて、嬉しそうな笑顔で頭を下げる。
「ああ、見まごうことなきそのお姿……ディアノスト様、お懐かしゅうございます。こんな老いぼれを覚えてらっしゃるとは、アルモは光栄ですぞ。お変わりないようで安心いたしました」
「………………」
……きっとこの人は、ノストさんが不老だってことを知らない。3年前と変わってないことに気付いていない。変わらぬノストさんに再会できて、喜んでいる。
私は、ちらっとノストさんの横顔を盗み見た。……何処となく、いつもと少し違った表情をしていたような気がした。
「貴方がお帰りになったと聞けば、ラスタ様もアリシア様も、お喜びになるでしょう。……して、その小娘は?」
と、おじいさん……アルモさんかな?は不意に、私に目を向けてノストさんに聞いた。その「小娘」って言葉……なんか少し「庶民」ってニュアンスが入っているような気がするんですけど。人のこと言えるのか、アルモさん。貴族に雇われてる分、私よりは凄いんだろうけど……。
そう聞かれてノストさんは、私を振り返って、見定めるようにじーっと見た後。
「……一応、客人だ」
「一応……?」
「い、一応って何ですかっ!一応以上も以下もないでしょう!」
多分「下僕」だと、カルマさんと会う機会もないだろうなと思って、仕方なく妥協した結果がこれなんだろう。今までの付き合いから私が思わず食いかかると、
「こりゃあっ!!」
「はいぃっ!?」
真横からアルモさんに即行怒鳴られた。
目を白黒させてるだろう私に、アルモさんが怒った顔で説教し始める。
「いくら客人と言えど、ディアノスト様に向かって何たる言葉!! この方を誰だと思っておるのか!!」
「え、え?? ……えーっと……誰、なんですか?」
「!!!」
実際、本当にノストさんが何者なのか知らなかったから、物凄く聞きづらかったんだけど……苦笑いしながら聞いてみた。するとアルモさんは、面白いくらいカッチーンと石化する。
「な、な、な……ま、まさか知らんとは……!!」
「だ、だってノストさん、教えてくれないんですもん!」
「なな、よもやディアノスト様のせいにするとは……しかも何たる呼び方!良いか小娘、とくと聞くがよい!!」
怒った表情から、突然誇らしげな表情に変わるアルモさん。忙しい人だなぁ……。
ノストさんは終始素知らぬ顔。何はともあれ、ようやくノストさんの正体がわかるっ!
わくわくしながら言葉を待つ私に、アルモさんはえっへんと胸を張り、びしぃ!と私を指差して言った。
「ディアノスト様は、ラウマケール第一位、レミエッタ公ラスタ様のたった一人のご子息じゃ!! わかったか?!」
「………………」
………………えーっと。
ラウマケールは、前も出てきたけどわからないから置いとくとして……レミエッタ公ってことは……!!
「…………こ、ここって、公爵様の家~~っ!!!?」
「こりゃああーーッ!!!!! 驚くところが違うわあああぁ!!!」
私のズレた驚きよりも大きなアルモさんの突っ込みが、レミエッタ公爵家の屋敷の庭に響き渡った。