monophobia

13 破壊者

 最初、目を開いた時、真っ白が見えた。
 ボーっとそれを眺めていると、だんだんと視界がはっきりしてきて、凹凸がわかるようになる。視覚的にも感覚的にも、多分これは……ベッドだ。それもかなりフカフカの。どうやら自分はそんな高級ベッドの上にうつ伏せで寝ているらしい。
 わわ、天国!気持ちい~♪ ……じゃなくて。
 何で私、高級ベッドに寝てるの?このフカフカ感、その辺りの宿屋さんにもない。ここ、何処だろう……?

 なんとなくだるい体をのそのそと動かして、私はベッドの上に座り込んだ。かけられていた布団が背後に落ちる。
 真横を見ると、細かな意匠がされた窓があった。きっとお城とかの窓は、全部こういう造りに違いない。近付いて窓の外を見てみると、綺麗に整備された庭園が見えた。
 壁には上品なランプがさがっていたり、女性の小さめの肖像画がかかっている。ベッドの脇にある机には、高級そうな花瓶に生けられた盛花。……どうやら何処かの客室らしい。それも超豪華な。
 ふと自分の状況を見ると、私は神官服を着たままだった。とりあえず着替えようと、のろのろ神官服を脱ぎ出す。普段着の上にそのまま神官服を着たから、脱げばいいだけ。
「う……あたたっ……」
 脱いだ神官服をベッドの上に畳んで置いた時、不意に、お腹の……上?辺りが少し痛んだ。そこを摩りながら、私ははて、と記憶を手繰る。
 何だろ……?この痛さ、外から殴られた……って………………、
「……あ、ああぁッ!!!」
 なぜか肖像画の女の人をびしぃ!と指差して、私は悲鳴に近い声を上げた。
 全部思い出した!私は、セル君にお城に連れてってほしいって頼んだんだ!それでセル君が変なことしようとして、私が思わず抵抗しちゃったら、鳩尾を殴られて昏倒させられちゃったんだ!
 と、ということは……ここはイクスキュリア城!? これからスロウさんに会うの!? ちょ……こ、心の準備がぁあ!
「……やっと起きたか」
 私が頭を抱えて悶えていると、部屋のドアが開く音がした。それから聞き覚えのある声。振り返ると、やっぱり真っ黒な男の子……セル君。
 彼は呆れた顔で、肩で溜息を吐いた。
「お前、2日間丸々寝てたぞ?」
「え、えぇ!? そうなの?!」
「昏倒慣れでもしてなきゃ、確かに1日寝込むかもしれないが……2日は寝過ぎだぞ」
「そ、そういえば……なんか……物凄く、お腹空いてるような……」
 お腹がぐるぐる鳴りかけて、私は慌ててお腹を抱えた。意識したら、さらに空いてきた……し、死ぬぅう~!
 セル君は「だと思った」と言って、私に背中を向けて言った。
「飯出すように言っといたから、ついてこいよ」
「えっ、本当!? ありがとうセル君!命の恩人だよ!」
 さっきまで燃料切れで動けなかった私。その言葉を聞いた途端、ベッドから飛び降りて、我ながらすっごく嬉しそうな顔で言った。お腹空いてる時のご飯の味は格別だよね!
 するとセル君は、一瞬ギクッとしたような顔をして、慌てて私から距離をとった。
「さ、さっさと行くぞ!」
 カランコロン下駄を鳴らして部屋から出ていきながら、妙に動揺した声で言い捨てていった。両手の拳を握り締めて立つ私は、首を傾げる。
 セントラクスでもそうだったけど、一体何なんだろ?もしかして、結構照れ屋さんなのかな?それか、もしかしてちょっと嫌われてる……?うーん……。

 後を追って部屋の外に出ると、モフッとした感触が靴の裏からした。足元を見ると、床に敷かれてる赤い絨毯がすっごくモフモフいってる!わわっ、面白い!すごい田舎者!
 城内はとても大きかった。天井が物凄く高くて、比例して壁も物凄く縦に長い。その長い壁には、主に大きめの絵画やレリーフが飾られていた。王様とかの趣味なのかな?
 セル君と二人、広い通路を歩いて行くと、城の入り口付近らしい大広間に出た。その真ん中を、奥へと続く階段が縦断していた。その前を通りすぎ、さっき私達がいた棟と反対側にあった棟へ歩いて行く。
 その間、使用人らしい女性や男性、そのほか軍人さんとすれ違った。思ったより城内にはいろんな人がいる。彼らは私を物珍しげに一瞥するけど、セル君がいるからか何も言ってこない。中には、セル君に簡単な挨拶をしてくる人もいる。やっぱセル君、お城の人なんだ。
「……そういやお前」
「え?」
「アイツはどうした?一緒じゃないのか?」
「アイツ……?」
 私の前を歩きながら、セル君が聞いてきた。絨毯の上を歩いているから、下駄の良い音は鳴らない……残念。なるべく隣に並ぶように努力しながら、私がオウム返しに聞くと、セル君は一言添えた。
「ディアノストだよ」
「……あ、ノストさん?」
 今、すぐにピンと来なかった。そうだよね、あの人、本名はディアノストだよね……ノストさんはノストさんだったから忘れてた。
 私はちょっと悩んで、自分で首を傾げながら答えた。
「えっと……アスラで、別れた……?」
「別れたぁ?」
「私が夜中に勝手に出てきた……っていうか……」
「はぁ?! お、お前なぁ……それ、狙って下さいって言ってるようなもんだぞ?」
「そ、そうだけど……」
 セル君の言い分はもっともだ。サリカさんにも似たようなこと言われたし。
 でも、やっぱり……ノストさんに迷惑かけたくなかった。今思えばあの時、サリカさんに会わなかったら……私、どうなってたんだろ。別のルートでこの場にいたのかな。
 ……と思っていたら、なんだかいい匂いがしてきた。ふわぁ……空腹の今は魅惑の毒ガスみたいだ……つ、つらい。ご飯食べたいーー!!
 立ち止まった部屋のドアに手をかけて、セル君が言う。
「ということは、ディアノストが今、何処にいるかはわからない……か」
「うん……」
「……まぁ、探す必要もないだろうが」
「え?っていうかセル君、ノストさん知ってるの?」
 なんだか親しげにも聞こえる、セル君の口調。さっきから気になっていたことを聞くと、彼は「いや」と否定した。
「話で聞いていただけで面識はない。お前から見てどういう奴?」
「えっと……悪魔の化身?」
「は?」

 

 

 

  //////////////////

 

 

 

「ごちそうさまでした♪ 凄くおいしかったです!」
「そうかい?ははは、なんだか嬉しいな」
 両手を揃えて、私は上機嫌の満面の笑みでそう言った。コック帽をかぶったおじさんが、少し照れ臭そうに頬を掻く。
 セル君に連れて来られた厨房には、コックのおじさんと、見習いらしい若い男の人がいた。私達が着いた頃には、すでにテーブルにはおいしそうな食事が並んでいた。賄いとかじゃなく、ちゃんとした一式メニューだった!びっくり!!
「私のためにわざわざありがとうございます!」
「そんなに喜んでもらえたら嬉しいよ。最初は彼の依頼だからって作ったけど、いやぁ、作ってよかったよ」
 私の隣に立つセル君を目で示しながら、おじさんは嬉しそうに言う。
 ふわぁ、本当においしかった~♪ やっぱりお城の料理人さんは違うね!オムレツのふわふわとした食感……うーん、凡人にはマネできないよ。
 厨房の二人に別れを告げ、部屋を出る。ほわほわ満足げな私に、セル君が声をかけた。
「飯食ったんなら、次行くぞ?」
「へ?」
「……スロウんとこだっつの!」
「あっ」
 ……本来の目的、忘れてた。
 セル君に一喝されて、私は一度目を閉じた。
 おいしいご飯を食べて人とお話したせいか、さっきより落ち着いていた。心の準備を整えるのと、考えを整理していく。
 スロウさんに会って、何から聞こう。答えてくれるかくれないかは、とりあえず考えない。
 ルナさんのこと。お父さんのこと。私を投獄した理由。……聞きたいことはたくさんある。
「………………よし」
 目を開いて、私はぐっと拳を握った。よし……思う存分、食らいつくぞっ!
「いいよ、セル君。スロウさんのところに連れてって」
「……本当にいいんだな?」
「うん。聞きたいこと、たくさんあるから」
 やっぱり心配してくれるのか、念押ししてくるセル君。私がはっきり言うと、セル君は深い溜息を吐いて歩き出した。さっきの広間の方へ向かう。
 その広間の中心にあった階段を上りながら、彼は言う。
「スロウに気を許すなよ。アイツに情は通じない。事実のみで対抗した方がいい」
「うん。……えへへ、心配してくれてありがと、セル君っ」
「ばっ……そ、そういうんじゃ……!」
 セル君は赤い顔で言い返してきたけど、しどろもどろになって結局ぷいっとそっぽを向いた。なんだか可愛い!
 階段を上り切ると、正面に大きな扉が鎮座していた。大きさだけで威圧感を覚えるそれは、きっと、謁見の間の扉だ。
 思わず、ごくりと唾を呑み込んだ。そこを通るのかと思ったら、セル君はその扉を無視して左の方に曲がった。……あ、あれれ??
 そちらを見ると、その謁見の間の扉と比べると小柄なドアがあった。まるで舞台の控室みたいだ。
「スロウは参謀だから、ここで仕事してることが多い」
「あ、そっか……」
 簡単な説明をして、セル君が、控えめに装飾がされたそのドアレバーを掴む。私は今更緊張してきて、強く拳を握り締めていた。
 押し開かれるドア。息を吸い込んで、私もセル君の後に続……
「わっぷ!」
 ……こうとしたら、ぶつかった。進んだと思ったセル君が立ち止まっていて、その背中に思いっきり顔面から激突した。
 鼻を擦りながら様子を窺うと、セル君は肩で大きく息を吐きだした。
「いねぇ……」
「……え? い、いないの??」
 え、ええー?? 肩透かし食らった気分!セル君の後ろから、そろーりと室内を覗いてみるけど、確かに人の気配はない。
「仕方ねえな、ったくあの野郎……探してくるからここで待ってろ」
「わっ!? ちょ、ちょっとセル君!?」
 彼は面倒臭そうに頭を掻きながら、私を避けて部屋から出た。かと思うと、私をどんっと室内の方に突き飛ばして、ばんっとドアを閉めてしまった。
 たたらを踏んで勢いを殺してから、私は慌ててドアに駆け寄った。こんな広い城の中で一人にされるのは不安だ!追いすがって文句を言おうとドアを開く。
 けど……、
「あ……あれ……??」
 セル君は、もうそこにいなかった。部屋を出てキョロキョロと人影を探すけど、あの真っ黒で目立つ姿は何処にもない。は、速っ……もう階段下りたのかな?見失った……。
 いろいろ不安でいっぱいだったけど、一人で城内を歩き回るのも怖いし、言われた通り部屋で待つことにした。ドアを閉じて中に戻る。
 事務室内は、わりかし綺麗に整頓されていた。採光窓で明るいデスク周りは、書類や本、ランプが置いてあるくらいで無駄なものはない。
「あれ……」
 ふと、整頓されたデスクの隅に、伏せられた写真立てがぽつんと置いてあることに気付いた。興味半分でそれを立ててみる。
 三人の人が映った、少し古ぼけた写真だった。間に立った大柄な男の人が、両側の二人の肩に腕を回して笑っている、微笑ましい光景。ちょっと長い灰色の髪を結ったその男の人は……お父さんだ!記憶の中、そのままの。
 その二人の、私から見て右側に立っているのは、20代くらいの男の人。暗めの青髪と紫の瞳。静かに笑って、お父さんの馴れ馴れしい行為を許している。
 もう一人の、男の人は……、
「気になるか?」
「っ!?」
 私が息を呑んだ瞬間、耳元で声がした。反射的に写真立てを倒し、ばっと振り返っていた。
「これは失礼」
 いつの間にか、すぐ横に人がいた。驚きと警戒で素早かった私の行動を見て小さく笑み、その人は少し離れる。
 長身の男の人だった。まっすぐな暗めの青髪、細められた紫の瞳。さっき写真で見た容貌。
「……貴方が……スロウさん……?」
「いかにも」
 声を絞り出して聞いた私に、彼は何処となく妖しい笑みを浮かべた。

 まるで神官服を真っ黒にしたような服だった。肩には灰色の羽毛の飾りがついている。ちなみに、セル君とは違って変な模様はない。腰には、白い柄と黒い柄の刀が左右に一本ずつ刺さっていた。この人……双刀使いなんだ。
 ……なんだか息苦しい。目の前にいるだけなのに、圧倒されてるのか、緊張してるのか、体が強張る。なんとなく、サリカさんやセル君が危険と言ってた意味がわかった。
「一度、上手いこと籠から逃げ出した鳥が、わざわざ舞い戻ってくるとはな。さらには、私に会いたいと来た。愚かだな」
「き……危険は承知の上です!」
「それもそうか。村を焼かれてしまえば、帰る家もないだろうからな」
「!? どうしてそれを……」
 ぞっとした。どうしてこの人がそんなこと知ってるの……!?
 直後、脳裏に閃いた言葉があった。

  『国の兵士達が来て、村に火の矢を降り注がせたんだよ!!』
  『シャルティア参謀のスロウ=エルセーラ。シャルティアを……こう言っちゃなんだけど、愚鈍な王を操って牛耳ってる黒幕だ。3年前に職についてからずっとさ。ルナの指名手配をしているのも奴だ』

 村でのクレアさんの言葉と、セントラクスでのサリカさんの言葉。
 それらが組み合わさって浮かび上がってきた、1つの可能性。私は気付かないうちに、拳を強く握り締めていた。
「………………まさか……貴方が……!!!」
「思ったより察しが良いな」
 私の言わんとしていることを先読みして、スロウさんは意外そうに言った。
 その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「何で!? 何でですかっ!! どうしてっ、村を焼いたんですかっ!!!」
 無意識に身を引いていた分の距離を一気に詰めて、私はスロウさんに荒い語気で問い詰めていた。
 この人が……この人がっ、いい加減なこと言って、国の軍を動かしたんだ!そして、村を焼いたっ……!!
 しかしスロウさんは、動揺も後悔も表情に浮かべることなく、淡々と返してきた。
「何に怒っている?」
「それは、貴方が村をっ……!」
「お前は村人達を信用していた。お前は村人達に信用されていなかった。ただそれだけのこと。やつあたりは醜いぞ」
「……っ……!」
 ……認めたくなかったことをはっきり言い当てられて。今までそうして自分を支えてきた私は、崩れるように動揺した。

 そう……スロウさんの言う通りだ。
 私は、みんなを信じてた。温かく迎えてくれるって信じてたんだ。
 でも、みんなは……私を信じていなかった。ずっと信じていたのに、村から追放された。私は裏切られた気持ちでいっぱいで……私が怒っているのは、信じてもらえてなかったことに対する、やつあたりなんだ……。
 きっと村のみんなみたいにお互いに信じあえてたら……こんなことがあっても、みんな、あんなに冷たい目をしないよね。やっぱり私は……信用されてなかったんだ……。
 何も言い返せなくてうつむいた私に、彼は静かに語る。
「村を焼いたのは、表面上は、ルナ=B=ゾークを匿った罪に対する村への処罰だ。だが本当の目的は、お前を村から放つため」
「私を、村から放つ……?」
「お前がルナに似ていたせいで処罰を受けた村は、当然お前を追放する。お前には、帰る場所がなくなる……」
「………………やめて……下さい……っ」
「するとお前は、自分に似ているルナに興味を抱く。帰る場所もない、当てもないなら……ルナを探した方が、まだ自分を保てるだろう?」
「やめて下さい……っ!!!」
 それ以上、聞きたくなかった。耳を目を塞ぎ、数歩後ろに下がってデスクにぶつかったところで、私は縮こまった。
 知ってるよ、これは私が、自分のためにしていることだって。哀しいことを思い出したくないから、ルナさんを追いかけているんだって。自我を保つために、していることなんだって。
 閉じた瞼の裏で、クスクスとスロウさんの笑いが響き渡る。
「だが、まさか私を訪ねてくるとはな。なぜ私を訪ねた?」
「………………牢屋から出て……貴方のことを知って、戻ってきたんです」
 少し落ち着いてきた私は、うっすらと目を開いて小さく答えた。耳を塞いでいた手を下ろし、さっきより少し離れたスロウさんを、できるだけ強い目で見上げる。
「……貴方に、聞きたいことがあります」
「ほう?」
 スロウさんはそこに立ったまま、興味深そうに私の言葉を待つ。恐怖を感じる自分を、大丈夫だと宥めながら、私は声を開いた。
「昔……貴方は、おと……剣豪ヒースの弟子だったって聞きました。それから……ルナさんも」
「フ……懐かしい話だ。確かにそうだ」
「ならっ……貴方はヒースとルナさんを身近に知っているはずです。私は……ルナさんのことを知りませんでした。でもルナさんは、貴方の言う通り、赤の他人には思えないくらい、私にそっくりで……」
 怖い……というより、何でって気持ちの方が強かった。
 何で知らない人が、私と同じ顔なんだろうって。
 知りたいけど、知りたくない、でも知らなくちゃ。

「ルナさんは……一体、何者なんですか?!」

 心の準備をした時に、話す順序を決めたはずだった。でもまだ完全に冷静じゃないせいか、その順序を思い出せなかった。
 とっさに口を突いて出たのは、一番聞きたかったこと。
 ……言ってしまってから、「私にとって」という言葉が足りなかったと思った。スロウさんにとってルナさんは同門くらいの存在だろう。完璧に自分視点の言い方だった。
 スロウさんは考えるような間を置いてから、私の警戒した目を見下ろして言った。
 紫の瞳を、楽しそうに笑わせながら。

「聞いてどうする?破壊者ステラよ」

「……え?」
 その先を問おうとしたけど、できなかった。

 突然、慌ただしく部屋のドアが開け放たれた。私とスロウさんが振り向くと、一人の軍人さんらしき男の人がいた。敬礼をしたその人が口を開くより前に、スロウさんは身を翻していた。
「客だ。お前も来るといい。いい物が見られる」
「客……?」
 身を引いた軍人さんに続き、スロウさんもそう言い残して部屋を出ていった。ちょっと悩んだけど、私も後を追った。
 スロウさんは、軍人さんと手短に話をしながら階段を下りていく。付かず離れず、私は二人の後ろを行く。
 大広間まで下りてくると、軍服を着た人達が足早に歩きまわっていた。それぞれが剣や槍など武器を持って、城の大きな扉を睨み据えるように陣を敷いている。緊迫した空気が漂う。
 スロウさんはその軍人さんたちを掻き分けて進み、最前線へと出る。そのままついてきちゃった私もその横にいたけど、よく考えたら私……とっても場違いじゃ!?
 だって何か、物々しい雰囲気だ。まるで、何かが攻めてきたみたいな……。
 途端に緊張してきた。軍人さんにつられて、私も扉を凝視する。

 やがて――
 その大きな扉は、思いのほか静かに開かれた。
 向こうに、ひとつの人影が見えた。