masquerade

26 太陽の花

「よし、ここまで来れば大丈夫だよ」
「当然だろうが」
「そこはあえて突っ込まないでほしかったなぁ」
 サリカさんがそう言ったら、ノストさんが呆れた様子で言った。サリカさんは苦笑い。
 それもそのはず、サリカさんは街に入った途端、こう言った。確かに当然っちゃ当然だ……。
 で、その街っていうのが、例のミディアなんだけども……、
「……なんか、ここ……街っていうか……」
 そこに立ち尽くして、街全体を見てみて……1つ思ったのは、ここ、街、じゃない。
 そんな印象を私を受けていると見透かしたサリカさんが、クスクス笑って言った。
「そうだよ、ここは街、じゃない。ここは、1つの宮殿が1つの都市になってるのさ」
 ……そう、宮殿だ。
 ミディアに正面から入ってみて……まず目の前に見えるのは、私が両手も広げてもまだ足りないくらいの一定間隔で立ち並ぶ白い柱。足元は、ツルツルピカピカした長方形の白い石で敷きつめられている。セントラクスにも負けないくらい……いや、セントラクス以上に、神聖で厳かな雰囲気が漂う、そんな真っ白な宮殿の入り口。
 だから、つまり……サリカさんの言う通り、1つの宮殿が、1つの都市になってるんだ。……って!?
「ちょ、ちょっと待って下さい!ってことは……見た感じじゃわかりませんけど……この宮殿、馬鹿デカイんじゃ……?」
「お、いいとこに気付いたね。そのと~り☆ オルセスの4分の1はあると思っていいよ~」
 よ、4分の1!? それでもまだまだ広いじゃん!オルセスは、港とかもあって凄く広い街としても有名。その4分の1って……アルフィン村×5くらい!? それで宮殿1つ?! で、でかっ……!

 やっぱりぐるぐる巻きのカノンフィリカを背負っているサリカさんは、私とノストさんに言った。
「それじゃ、私は用事済ませてくるから。二人は、そうだなぁ……見学でもしてったら?出入りは自由だから」
「あ、じゃあ、せっかくですし、ノストさんっ」
「一人で行け」
「えええー?? ど、どうしてですか?」
 まだ何も言ってないのに、絶妙なタイミングで拒まれた。私は縋るような目でノストさんを振り返る。ノストさんはくだらなさそうに私を見返す。
「教団は賞金稼ぎと同じだ」
「ってことは……」
「もしかして、教団が危険な賞金首を狩ってるっていうのを警戒してるのかい?まぁ確かにお前は賞金首ではあるけど、危険ではないだろ?」
「……ざけんなよ」
 うわわっ……低い声。何か気に障ったらしく、ノストさんは物凄く凶悪な目でサリカさんを睨んだ。
「俺自身が危険だろうが危険じゃなかろうが、ジクルド自体は危険物に変わりねぇ」
「……やれやれ、参ったね。何かと思えば、そういうことか」
 ノストさんの言葉をマジメに聞いていたサリカさんは、聞いて損したと言わんばかりに肩で息を吐いた。軽く扱われたのが気に入らなかったノストさんは、カノンフィリカを背負い直してこちらに背を向けるサリカさんから、睨む目を離さない。
「誤解を解くために言っておくよ。確かに教団は、お前を監視してる。あのグレイヴ=ジクルドの片割れを持ってるんだからね、当然だ。……けど、それだけだ。別に、お前を殺して奪おうなんか思っちゃいないよ。万が一、お前が死んだ時には、ジクルドを保護するだろうけどね。まぁ、ないと思うけど」
「………………」
 肩越しに話してくるサリカさんの言葉に、ノストさんは考え込むように黙り込んだ。横に立っている私が怖々横目で見てみると、さっきまで怖かった目つきが普段に戻っていた。
「こんなこと話して、簡単に信じられるわけないだろうからね。ま、好きにしなよ。ステラはどうする?」
「あ、私は見学したいですけど……だ、大丈夫ですかっ?私、ルナさんと似てますし……」
「あぁ、大丈夫大丈夫。ルナは別に危なくないから。むしろ正義のヒーローだねぇ。あ、ヒロインかな?」
 せ、正義のヒーロー……じゃなくて、ヒロイン?どういうことだろ……?
 ルナさんは、スロウさんにとって追いかける対象で、教団?にとっては正義のヒロイン?よくわかんないや……まぁ、今はいっか。とりあえず、見学しに行こうっ!
「じゃあ、行きたいです!」
「おーし、それじゃ行こうか~」
 私がぐっと拳を握り締めて言うと、サリカさんは正面奥に見える宮殿の入口へ歩き出す。私はそれを追おうとして踏み出し、二歩目を踏み出しかけて……、ノストさんを振り返った。
 ノストさんは、まだそこに立ったままだった。もう考え事は終わったのか、私が振り返ったことにすぐ気付いていた。
「あの、ノストさん……」
「知らん。さっさと行け」
「え、えぇっ!まだ何も言ってないじゃないですか!別に何も聞きませんよ!」
「行かねぇぞ」
「わかってますよ!それも違います!」
「なら何だ」
 多分、最初は、さっきの話の詮索を拒否ったんだと思う。で、次は行こうって誘いを断った。
 でも私が言いたかったのは、そんなんじゃなくて。ノストさんは本気でわからないらしく、少しいらついた様子で聞いてきた。
「え、えっと……」
 すぐ言うつもりだったんだけど、なんだかノストさんと話してたら話が大きく(?)なっちゃったから、言いづらくなった。私は今更恥ずかしくなってきて、少しごもごもしてから、でもやっぱり覚悟を決めて言った。
「い、行ってきますね!」
「………………」
 ノストさんは、今まで警戒した分の溜息を吐き出した。

 

 

 

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 宮殿に入ると、床が眩しかった。もう、ツルツルのピッカピカ。やばいやばい。
「うわぁ……」
 田舎者って思われるかもしれないけど、私は物珍しげに中の広い空間を見渡した。
 入って正面には大きな窓ガラスがあって、いろんな草花の咲いた中庭が青空と一緒に見えていた。見上げると、吹き抜けの高い天井にぶら下ったシャンデリア。見たところ、二階建てらしい。
「はは、綺麗だろ?ここはセフィスの住む宮殿、兼、街なんだ」
「え……ええぇえっ!!? ってことは、ここに聖女様がいるんですか?!」
 サラリと言ったサリカさんのセリフは、衝撃的だった!セフィスって言えば、グレイヴ教団の頂点に立つ聖女様のこと!そんな凄い人がここに住んでるってー!? しかも普通に見学できるし!ど、どういうこと~!?
「そう。だから大聖堂より綺麗なのは当然なんだ」
「な、なるほど……でも、聖女様がここにいるなら、信者さん達がこの付近に集まって、こっちの方がセントラクスより栄えるはずでしょう?でも、この辺りには……」
 村も町も、何もない。ロウラ川を越えたところの道と同じく、森を切り開いて作られたこのミディア。だから、四方は森で囲まれてる。本当に……誰もいない、辺鄙な場所で。
 私の思っていることを読んだらしいサリカさんは、少し驚いたように目を瞬いてから、楽しそうにクスリと笑って。
「ステラって、いっつもノストに馬鹿って言われてるけど、本当は頭良いでしょ?」
「え、えぇえ?? 私、馬鹿ですよ?」
「フフ、まぁそれはいいか。……うん、そうだね。この辺には、村や町は1つもない。一番近くて、さっきのウェンド村だ。森の中にあるっていうのもあって、外部からはあまり見ることはできない。まさか森の中に、こんな豪華な宮殿があるなんて誰も思わないだろ?」
「それもそうですね……」
 やっぱ宮殿へ続く道って、整備されてて綺麗なイメージがあるから。まさか、あんな何処にでもあるような土の道が、この宮殿に繋がる道だとは思わないだろうね。
「それに、このミディアは地図には載ってないから」
「……え?えぇ!? の、載ってないんですか?!」
「うん。セフィスがここに住んでるってバレたら、やっぱりいろいろ面倒だからねぇ~」
 の、載ってないんだ!そりゃ気付けるわけないよ!す、凄いなぁ……ちゃんと考えていろいろ作られてるんだ。
 サリカさんはぐるぐる巻きのカノンフィリカを背負ったまま、玄関から左にあった扉の方へ歩き出した。
「それじゃ私は、フィレイア様に用があるから。ステラは自由に見学しててよ」
「えっ、ちょ、サリカさ……」
 歩いていくサリカさんに一方的にそう言われ、私は思わず手を伸ばして、慌てて声をかけたけど……その前に、サリカさんは扉の向こうに消えてしまった。バタン、と扉が閉まる音が妙に大きく響く。そして、しーんと静寂。
 ………………って、え!? な、何でこんな静かなの?! こ、この部屋、誰もいないの~!?
 見渡してみたら、確かに誰もいない!この部屋にあるのは……大きな窓のすぐ近くにあるソファーと、その左にある上へと続く階段と、サリカさんが消えていった扉と、それと正反対の方向にある扉。
「………………」
 ……なんか、違和感がする。
 ここは聖女様の家なんでしょ?なのに……どうしてこんなに誰もいないの?警備隊とかいないのかな?
 はっ……ま、まさか、私に対するイジメ!? ルナさんに似てるからって!
 ……一人で勝手にそう思って、なんだか空しくなった。まさか、このでっかい宮殿を聖女様が一人で使ってるのかな……それってなんだか、寂しいような……。

 さて、っと。サリカさんに道聞こうと思ったんだけど……さっさと行っちゃったから、仕方ないや。サリカさんは左の扉に行ったから、私は右の方に行ってみようかな。
 シックな造りの扉の片方を、同じくシックな造りの取っ手を引いてみて、
「わあ……」
 思わずそんな声。
 扉の向こうは、通路だった。この部屋と比べるとかなり天井が低く、横幅も狭いけど、中庭側の壁が全っ部ガラス張りで、凄く明るくて綺麗だった。こ、こんなの初めて見た……!
 通路に出て、扉を後ろ手に閉める。やっぱりバタンという音が、通路のずっと奥まで響く。……この通路、結構長いみたいだ。
 ゆっくり歩き出すと、カツカツと靴底が鳴る。うわぁ、なんだかお嬢様になった気分……!
 中庭のさまざまな花を見ながら、通路を奥へ奥へと歩く。花が咲き乱れる花壇の傍に、木の実がなる木が植えられていた。
 あれは多分、小さいけどリオルの木じゃないかな。甘酸っぱくておいしい紫の丸い実がなる木。よく森に採りに行ってたなぁ。
 通路が左に折れていたから、私もそれに従ってカクッと曲がった時、見たことのある花を見つけた。花壇に咲いてる、丈の長いピンクのあの花。
 あっ……イルの花だ。私の家の近くにも咲いてた花。この季節になると、たくさん咲くんだ。私はその花をたくさん摘んで、よく村の女の子達に冠を作ってあげてた。
 ……家、帰れなくなっちゃったんだもんね。もう、見れないかなって思ってた……なんだか、嬉しいな。……うーん、やっぱりさすがに摘んじゃダメかなぁ。
 しばらく歩くと、ようやく正面に扉が見えてきた。長い通路だったなぁ……いろいろ考えてたのもあるかもしれないけど。
 扉を開くと、これまた広い空間に出た。真ん中に、食卓らしい細長いテーブルがあって、背後の壁にはグレイヴ教団の白い紋章。……もしかしてここでご飯食べるのかな、聖女様。
 右の方に階段があったけど、とりあえず私はその食卓に近付いた。辺りを見渡すけど、やっぱり誰もいない。
 ……やっぱり、なんかおかしくない?どうしてこんな静かなんだろ……と、テーブルの上の燭台を意味なく持ってみて、何で燭台なんて持ってるんだろ……と我に返って元に戻す。

 ……と、その時。
「……?」
 高い、歌声が聞こえた。
 いつものウォムストラルのヤツじゃない。人間の……女の子の声だ。
 音量が小さくてあまりよく聞こえないけど、声は、この部屋の、中庭側に向いて作られた扉の向こうからしていた。
「……綺麗な声……」
 無意識のうちに、呟いていた。誘われるように、フラフラとその扉に近寄る。
 歌声を掻き消さないように、静かに扉を開いた途端、声は急に大きくなった。やっぱり、歌っている主は中庭にいるらしい。
 通路があんなに長かったから、比例して中庭も大きかった。中庭の真ん中には大きな土台つきの女性の像が立っていた。大きな花壇や木が生えているところ以外の地面は、すべて芝生で覆われている。
 通れるくらい扉を押してから、キョロキョロと見渡してみたけど見当たらない。何処にいるんだろ……?
 扉を閉めることも忘れて、私は中庭に踏み込んだ。幸いなことに芝生だから足音が出ない。って、暗殺者か私は……。
 注意深く辺りを見ながら、私は慎重に進んでいく。そうやっているうちに、女性像の目の前まで来てしまった。
 ……歌声は、大分近い。というか、すぐそこだ。

 ……え、ちょっと待って。
 これって……歌ってる人、像の土台を挟んで向こう側にいるってことじゃない?覗いた瞬間気付かれるじゃんっ!どど、どうしよう~!?
 私がドッキドキしながら像の目の前に立ち尽くしていると、歌が終わったのか、歌声が止んだ!
 や、やばい!こっち来たらどうしよう!とりあえずっ、上手い具合に像に隠れて凌ごう!
 とか考えて、よしっと私が拳を握った時。

「……誰か、いるんですか?」

 ……私は、固まるしかなかった。
 声の主は、そこから動くことなく私の存在に気付いた!
 いや見学自由だから、やばいってわけでもないんだけど!でも何だか慌てた私は、すぐに駆け出して花壇の横を通ろうとして、
「ひゃあっ!?」
 アホなことに、花壇の角につまづいて顔面から転んだ!な、なんか久しぶりな気が……でも芝生だったから、あんまり痛くなかった……うーん、草の上に寝転がるっていいよね。太陽もポカポカで気持ち良いなぁ。
 って、こんな場合じゃなーい!はっと私がうつ伏せの状態で、背後を見やると……女性像の土台の影から、こちらを見ている女の子がいた。
 後ろ髪を何房かに分けて金色の装飾品で飾った、淡い赤の髪。白い神官服の上着のようなものの下に、暗赤色の、やっぱり神官服っぽいワンピース。年は……同じくらいかも。
「ルナ……?!」
 女の子は淡い青の瞳で、呆然と自分を凝視している私を見てそう発し、少し駆け出した。けど、すぐに歩調が緩み、なぜか女の子は悲しそうな顔をして立ち止まった。
「……いえ、違いますね。あなたは……」
「あ、あの……」
 私が立ち上がって服についた草を払いながら声をかけてみると、女の子はさっきの悲しい顔は何処へやら、ニコリと微笑んだ。まるで木洩れ日みたいな、優しい微笑。同い年くらいなのに、その笑顔は、なんだかお姉さんみたいだった。
「こんにちは。見学ですか?」
「あ、うん……そうなんだけど……でも、何処行けばいいかわからなくて……」
「ふふっ、あまり行くところなんてないですよ。ここに来たなら、1階は大体見たでしょう?2階があるのは2箇所だけで、そのどちらも寝室ですから」
「えっ、そ、そうなの?!」
「ええ」
 う、うそっ……!もっと凄いかと思ってたら、意外とあっさりしてるんだな、この宮殿……凄いのは装飾だけかいっ。
 期待が外れてショックを受けている私が面白かったらしく、女の子はクスクス笑って言った。
「なら、この中庭を見学していったらどうですか?各地の花を集めたり、配色を考えたり、割と凝ってるんですよ」
「じゃあ、そうしようかなぁ~。さっき通路を歩いてる時に、イルの花を見かけて、摘んで冠つくりたいなーって思ったんだけど……やっぱり、摘んじゃダメだよね?」
 まだイルの花の冠が諦められなくて、とりあえずダメもとで聞いてみた。ここで断られたらすっぱり諦めるつもりだったんだけど、女の子は微笑みを崩さずに答えた。
「いいえ?全然構いませんよ」
「え、ええっ!? い、いいの?勝手に決めちゃって……」
「ここの庭の手入れは、私がしてますから。大丈夫ですよ」
「え、えっと……じゃあっ、摘んじゃいます!完成したら、冠あげるね!」
「……ええ……」
 花壇の花を摘んじゃうのは少し気が引けるけど、作りたいっていう気持ちに負けた私は、なんとなく挙手して言った。だけど……女の子は、なぜか少し寂しげな顔をした。
 何だろ……?と私が心の中で疑問に思った頃には、女の子はさっきまでの笑顔に戻っていた。
「イルの花でしたね。こちらです」

 

 

 

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 イルの花の咲いている花壇に案内してもらってから、数分後。
「ん~……っよし。できたっ!」
 私が摘んだせいで何本か減って、少し彩りが薄れた花壇の前に座って冠を作っていた私は、最後の仕上げをして、それの出来を確かめてから言った。うーむ、我ながらイイ出来っ!
 女の子は、その花壇の横の方にしゃがみこんで、スコップで花壇の土を掘り返している。肘の辺りまで折った長い袖がどうやらすぐ落ちてくるらしく、土で汚れた手で邪魔そうにたくし上げて、再び作業を開始する動作を何度もしている。着替えればいいのに……ちなみに、彼女が掘り返してるのは、私が摘んだイルの花の根。
 時折、髪も邪魔そうに払うから、顔にも少し土がついて黒くなっていた。特に右頬の辺り。まるで農業に精を出している人みたいな顔を、女の子は私の声に反応して上げた。
「できましたか?」
「うんっ、完璧!イルの花が綺麗だから、綺麗にできたよ♪」
「それはよかったです」
 私が立ち上がりながら言うと、しゃがんでいる女の子は嬉しそうに微笑んだ。
 野生のイルの花と違って、花壇で育てたイルの花は少しおっきいんだな……この子の努力もあるのかもしれないけど。
「はいっ、あげる!」
 大ぶりのピンクの花でできた冠を、女の子の頭にのせようと、私が手を伸ばして彼女に近付いた時。
「あっ、だめ……!!」
 女の子はびくっとして、突然焦った様子で私から距離を置こうとした。え、何?と思いながらも、その時には私は女の子の目の前にいて、私は何事もなく女の子の頭に冠をのせた。
 ……女の子の動作が、止まった。
「……? どうかしたの?」
「……うそ……」
 急に大人しくなった女の子の顔を、私が覗き込んで聞いてみると、彼女は、今度は驚いた顔で私を見つめていた。
 女の子が驚愕していたのは、ほんの少しだった。彼女は黒くなった手で、首から下がっているペンダントをぎゅっと握り締め、何かを悟ったように呟いた。
「―――……やはり……貴方は、祝福されし者なのですね……」
「え?」
 女の子の言葉に、私がキョトンとした時。
「ここにいたんですか。おや、ステラも……、……!」
 聞いたことのある声が、私と女の子の間を通り抜けた。声の方を振り向くと、用事とやらはどうしたのか、カノンフィリカを背負っているサリカさんが立っていた。
 サリカさんは、私と女の子との距離を見て、はっと息を呑んだ。そしてすぐ……嬉しそうに微笑んで、女の子に向かって言った。
「フフ、どうやら彼女は、リュオスアランの排除外のようですね。よかったじゃないですか、フィレイア様」
 ………………え、今、何て?
「ふぃ、フィレイア様って……!」
「あ……ごめんなさい。そういえば、名乗ってませんでしたね」
 今度は、私が驚く番だった。その名前を聞いて、もう何も言えなくて固まっている私に、イルの花の冠を頭にのせた女の子は立ち上がって言った。
 まるで慈母みたいな、優しい微笑みを浮かべて。

「私は、フィレイア=ロルカ=ルオフシルと申します。グレイヴ教団の現セフィスを務めている者です」

 ……偶然なのか、必然なのか。イルの花の花言葉は、確か「『太陽』のような君」だった。