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51 【真実】と「不変」
音が……聞こえる。
とても綺麗な音色。この曲……『祈りの夜』だ。
……目をゆっくり開く。私は寝転んで、木の天井を見上げていた。
そのまま、バイオリンの音色が聞こえてくる横の方に顔を向ける。演奏者より先に、バイオリンが目に入った。
紺青色のバイオリン。
——デストレノ。
「………………ッ!?」
ややあって、私はがばっ!と跳ね起きた。
デストレノが弾かれてるって、それじゃ、みんなに支配がっ……!!
演奏を止めさせなきゃって思ったら、演奏者が目に入った。……デストレノを弾いていたのは、ノストさんだった。
「のっ……ノストさん!? そ、それっ……」
「喋るな騒音女」
「そ、騒音って、そんな大声じゃないでしょう!」
「曲を遮る音はすべて騒音だ」
「うっ……た、確かにそれは一理あるかもしれませんが!って、そんな場合じゃなくて、ノストさんっ、そのバイオリン……!!」
「聞こえるぞ」
瞳を閉じて演奏していたノストさんは、目を開いて横に視線を送った。目で示された方向を見ると、コンロの辺りで紅茶を作っているレネさんの姿があった。
私の声が聞こえていないのか、彼女はノストさんの演奏に耳を傾けたまま、手を動かしている。
「あ……」
……そういうことか。聞こえるぞって。
このデストレノは、とんでもないアルカだ。でも、レネさんにとって、これは、お兄さんの大切な形見で。
そのバイオリンが、そんな恐ろしいものだったなんて………………言え、ない……。
「……ところで……どうしてノストさんが、デストレノを持ってるんですか?」
「頭を回すことも覚えろ凡人」
「うっ……そ、そうですね。脳のトレーニングですね!」
私がベッドの上に座り直しながら聞いてみると、ノストさんは器用に、演奏しながらそう返答してきた。
負の感情を呼び起こすアルカ……デストレノ。それの音色は、そんな怖い効果があるなんて思えないほど綺麗で。レネさんも耳を傾けてるし。
……あれ?レネさんって、そういえば、デストレノの支配、受けないんだっけ。
あ……ってことは……。
「もしかして、デストレノの支配を受けるのは、この中だとノストさんだけだからですか?だから、自分が持っておけば、自分が支配されて面倒になることはない……ってことですよね」
「上出来だな」
「……へ?え、えと……あ、ありがとうございます……」
なんだか凄くはっきり褒められて、びっくりした。よくわからないまま、なんとなくお礼を言う。
おっかしいな……いっつも大体、褒め言葉の頭に、「意外と」とか「お前にしちゃ」とか、絶対馬鹿にする言葉がつくはずなんだけど。どうした!? う、嬉しいっちゃ嬉しいけど、なんかその……反応に困る!
うつむいて、ううう~~と一人で考え込んでいたら、静かに『祈りの夜』が終わった。それから、鼻をくすぐるいい香りがして、顔を上げると。
「あら、起きたのね~。気分はどう?」
「あ……はい。大丈夫です……って!! れ、レネさんこそ大丈夫でしたか!?」
「私は平気よ~。あの時は、怖かったけど……ケガもしてないし、気絶してただけだから大丈夫よぉ」
お盆にカップとポットを載せてやって来たレネさんに、わけがわからないままそう答えてから。私はようやく、コンサートホールでの出来事を思い出した!
そ……そうだった!私、レネさんの演奏を止めに行ったんだ!!
支配を受けた観客の人達に囲まれたレネさんを助けようとして、私はクロムエラトを信じて突っ込んだ。……でも……クロムエラトは発動しなくて、私も捕まって、首を締め上げられて。
思い出しても、ぞっとする。本当に殺されると思った。苦しくて、全身に力が入らなくて。
そしたら……誰かに助けられた。誰かはわかってる。きっと……デストレノの音色が止んでから、戻ってきてくれたんだ。
「………………」
ノストさんを見る。彼は、よその方を見ていた。でも、私の視線に気付いてるはずだ。
ホールに戻ってきて……多分、ジクルドの3段階目、昏倒現象を使ったんだ。それで私以外、みんな気絶させた……レネさんも、気絶してたって言ってるし。
私は……本当に、彼に助けてもらってばかりで。
「……あの、ノストさん……私、任されたのに、何も、できなくて……」
『お前が行け』
あの言葉。状況が状況で、仕方なかったっていうのもあるけど……嬉しかったんだ。
私、初めてノストさんに頼られたって。期待されてるって。
なのに……私は、その期待を見事に打ち砕いた。
……悔しい。
ノストさんは、くだらなさそうに言った。
「ハナから期待なんかしてねぇよ」
「……っ!!」
放たれた言葉は、私の胸に深く突き刺さった。
……わかってる。ノストさんは、他人に頼らない。だから、期待もしない。
だから……その言葉は、彼にとって、大した意味はないんだってこと。わかってる。
でも……私、ノストさんの役に立ちたい。……期待されたい……。
どうして私、上手くできないんだろう。
「でも、びっくりしちゃったわぁ……発表してたら、みんな怖い顔して近付いてくるんだもの~。本当に怖かったわ~」
「そ、そうですね……」
近くにあったテーブルにティーセットを置いたレネさんが、頬に手を当てて言うのを聞いて、思わず無言になっていた私は苦笑した。なんだかレネさんの口調だと、全然怖かったように聞こえない……。
「でも、どうしてみんな、怖い顔してたのかしらぁ……変ねぇ~……」
カップに紅茶を淹れながら、レネさんは不思議そうに呟いて、溜息を吐いた。私は答えられなくて黙り込む。
でも、その後に続いた言葉は予想外だった。
「初めてのコンサートがこんなことになるなんて~……残念だわぁ」
「……えっ?レネさん、コンサート初めてだったんですか?」
「あらぁ、言ってなかったかしらぁ?」
ベッドに座ったままの私が、驚いてレネさんを見ると、彼女は首を傾げて振り返った。
そして、笑顔で語り出した。……とんでもないことを。
「わたしの夢はねぇ、お兄さんのバイオリンでコンサートに出ることなの~。今年は中途半端に終わっちゃったけど、来年は絶対、成功させてみせるわぁ」
「………………え……」
頭の中が、真っ白になった。
……声が、出なかった。
お兄さんのバイオリン……デストレノで、コンサートに出ることが、夢だった。だから彼女は、コンサートにデストレノを持っていった。
今回はダメだった。だから、『来年は絶対、成功させてみせる』……その夢を。
……叶うはずがない。そのバイオリンを弾いたら、最悪、殺されてしまうのに。
また、昨日のことが繰り返されるんだ。今度は、私達の知らないところで。
「あ~、よかったら、来年見に来てねぇ~♪」
「……っ」
「あらぁ?」
ポットを置き、笑顔でそう言うレネさんを見ていられなくて、私は視線を逸らした。私の様子に、レネさんが不思議そうにそう言うのが聞こえる。
……ダメだ。このままじゃ、ダメだ。
でも、言えない。言えないよ……。
このバイオリンが、お兄さんが殺された原因だなんて。
絶対、悲しむはずだ。今まで大事にしてきた、バイオリンの正体を知って。
そんな顔……させたくない。見たくない……!
でも、レネさんの手元に、デストレノがある限り……彼女は、その夢を諦めない。
それなら……、
「………………馬鹿みたい」
「え?」
立ち上がって小さく呟いた私の言葉に、レネさんの問い返す声。無邪気な声が、ひどく、耳に、心に痛くて。
もう……戻れない。
私は、顔を上げて、笑った。
……自分が知る限りの、嘲りの笑みで。
「馬鹿みたいですね。こんな見知らぬ人間を、簡単に受け入れて。この辺りに人なんて通らないでしょう?それなのに、やってきた私達……何か目的があって来たんじゃないかって、思わなかったんですか?」
「……え……?お嬢、ちゃん……?」
「私達は最初から、そのバイオリンを奪うために、貴方に近付いたんですよ」
「……っ……!?」
カーマインの瞳が、大きく見開かれる。傷ついた顔。
私は、顔を逸らした。そして、ノストさんの方に歩いていって、彼の横に置いてあったデストレノを手に取って。
「このバイオリンは、もらっていきますから」
「い……いやぁっ!! だめぇ!」
一瞬、放心状態だったレネさんが、泣きそうな声で叫んだ。そして、こっちに駆け出そうとして微動した直後。
ヒュっと風を裂く音がして。
「動くな」
私の隣にいたノストさんが、レネさんに向かって、何処からともなく取り出したジクルドを突きつけた。レネさんは、びくりと身を震わせて止まる。それを見てから、私はデストレノを手に、彼女に背を向けた。
聞こえてくる嗚咽を、しばらく無言で聞いて。
……小さく、口を開いた。
「………………さようなら」
もう二度と。
二度と……会うことは……できないだろうから。
「いやぁっ……!返して……返してよぉ……!!」
泣き叫ぶ声から逃げるように、私は小屋を飛び出した。
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森を、歩く。
デストレノを手に、ゆっくり……ゆっくり。
足が、思うように動かなくて。
そのうち……立ち止まって。
足から力が抜けていって……ぺたんと座り込んだ。
「……ノストっ……さん……」
足音なんてしないけど、きっと、背後にいる。
震える声で、私は振り向かないで呼びかけた。
デストレノを見下ろす。表面が、ところどころ光っていた。……濡れてるんだ。
「わた、しっ……ほんとのこと……言えなくて……っ」
「………………」
「こうするしか、ないって……思ったのに……レネさんをっ……傷つけて……!!」
ポロポロを落ちる雫が、デストレノに降っていく。このままじゃ汚しちゃうのに。涙は落ちるばかりで。
私、なんて馬鹿なんだろう。
本当のこと言えなくて、でもこのままじゃダメだって思って。自分が悪役になるしかないって思ったのに。
なのに……結局、レネさんのこと……傷つけた。
これなら、傷つくのは自分だけだって思ったのに、レネさんを泣かせてしまった。
甘かった。考えが……浅かった。
もう、レネさんとお茶できない。私に会う資格なんてない。
せっかく、紅茶を淹れてもらったのに。あのままお茶してたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
「わたしっ……ど、して……こんな、馬鹿……なんでしょうっ……」
どうして、もっと上手くできないんだろう。
もっと、方法はあったはずなのに。
今気付いたって、遅すぎるのに。
私が、掠れた声でそう呟くと。珍しく、背後から足音が聞こえた。隣を、荒々しく草を踏む音が通って。
「っ!?」
突然、ぐいっと胸倉を引っ張られて、濡れたままの顔を上げさせられる。ノストさんの顔が目の前にあった。
ダークブルーの瞳は、なんだかいつもより目付きが悪い。……怒ってる?
「………………」
「………………」
だけど、彼は無言。
だから、私も無言。
ただノストさんに、至近距離で睨まれている。
……しばらくして。ノストさんは静かに目を伏せ、すっと手を離した。
最初から最後まで、一言も発さずに。
「え……」
そのまま立ち上がり、ノストさんは背を向ける。
……歩いていく。遠ざかっていく……。
急に、心に冷たい風が吹き込むような、そんな感じがした。
私……今、見捨てられた?呆れられた?
……はは……そっか。そう、だよね……私、最低だもん。見捨てられて……当たり前。
でも、
……やっぱり、かなしい。
ノストさんにだけは、嫌われたくなかった。
嫌われたく、なかったのに……
……………………
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「……元人間を名乗る猫、か」
立つ私の視線の先で、イスに座るイソナさんは、いつもの厳しい表情のまま呟いた。彼女の前のテーブルには、私が手渡したデストレノが置いてある。
泣きそうな気分のまま、私はノストさんと、薄暗くなってきた森の中を通って、タミア村に戻ってきた。そして教会の奥で、今日の礼拝を終えたイソナさんにデストレノを渡して、簡単ないきさつを説明したところ。私の後ろには、ノストさんもいる。
「このナシア=パントは、不思議な土地だからな。オースの気まぐれで、予期せぬことが起きることも多い」
「オースは……この土地にいるものすべてに宿るって、聞きました」
「そうだ。オースは、結合しやすい上に、馴染みやすい性質だからな。……まず、オースを宿した猫が、外傷以外の要因で死ぬ。それから間を置かず、そのユーリというオースを宿した人間が死に、さまよった彼の魂が、この土地の気まぐれなオースの手助けを得て、猫のオースと結合した……と考えるのが妥当だろう。殺されたのなら無念な魂もさまよう」
ということは……ユーリさんの猫の体は、ほとんどオースでできている。だから、アルカとよく似た性質になった……のかな。
それからイソナさんは、私を見た。無表情というより、厳しい顔。目付き。
「……これでわかっただろう?真実を告げるということが、どれほどのものか」
「……えっ?」
何か、その言い方が引っ掛かった。
真実を、告げる……って……、
「も、もしかしてイソナさんっ……最初から、そのバイオリンがアルカだって知ってたんですか!?」
「当たり前だろう。アルカはその姿を見ない以上、アルカであると断定はできない」
「あ……」
私が驚いて問い返すと、イソナさんは肯定して、淡々とそう説明してくれた。
確かにアルカは、一目でも見ないとアルカだってわからない。だからその時に、もう、どんな形状なのかってわかっちゃうんだ。
それを知った上で……イソナさんは、私を試した。今、私が置かれている状況を、理解させるために。
「隠されている真実は、残酷なものだ。残酷だからこそ、いつの世も真実は隠される。今までそうだと思っていたものが、真実を知ることによって、突然、姿を変えてしまう。お前の【真実】も、このバイオリンの真実もな」
イソナさんは、少し姿勢を崩しながらそう言い、まっすぐ青緑の瞳で私を見据えて。
言った。
「先に言っておくが、私はお前が嫌いだ」
「……っ……、はい……」
……薄々は勘付いてた。だけど、口で言われると、やっぱりその言葉は痛い。
イソナさんは、ルナさんのお義姉さん。だから……ルナさんに似てる私は、存在自体が目障りなんだろう。いつかのサリカさんみたいに。
「お前がどうなろうが、大して興味がない。だから、お前が壊れるとしても、私は躊躇なく【真実】について語るだろう。……そこで重要なのは、お前の意志だ」
「……私の、意志?」
「私は、いつでも口を開くことができる。しかし……お前がそれを望まぬと言うのなら、この口、閉じておこう。私なりのけじめだ」
……イソナさんなりの、けじめ。私が嫌いだって言う感情だけに振り回されないように……ってことかな。
【真実】を聞けば……今まで、そうだと思っていたものが、根本から覆される。急激な変革。それについていけないから……真実は残酷だって、そうなる。
私……その変化に、ついていけるかな……?
……なんて言う迷いが顔に浮かんでいたのか、イソナさんは私から目を逸らした。もう真っ暗な窓の外を一瞥し、カタンと席を立つ。
「迷うのなら、答えは明日でいい。今日はもう休め。アルカの回収、ご苦労だった」
「あ……はい……」
そう言って、イソナさんは部屋から出て行ってしまった。パタンとドアが閉まる音が響いて、静けさが部屋を満たす。
……【真実】を知る、覚悟。まさか、レネさんの一件でこんなに揺らぐなんて、思ってなかった。
レネさんは、お兄さんの形見だって大事にしていたバイオリンが、実はお兄さんが死んだ原因だなんて知ったら……どうしただろう。
でも、忘れちゃダメだ。
私、セル君に何て言ったの?何も知らないでいるのはつらいって……そう言ったはずでしょ。
確かに怖いよ。【真実】を知るのは。だけど、何も知らないのは、やっぱり……何か違う気がする。
けど、やっぱり壊したくないよ。
今の……ノストさんの隣にいるっていう、この「不変」。嫌われても……壊したく、ないよ……。
どうすればいいんだろう?
ふと、ガチャリと、ドアが開く音がした。
イソナさん、忘れ物でもしたのかな……?と、うつむいていた顔を上げてみると。
「や、お二人さん。久しぶり~」
その人は、爽やかーな笑みを浮かべて、ひらひらと手を振ってきた。
………………え。
「……えっ、ぇええ!? さ……サリカさんっ?サリカさん!? な、なんで?何でここにいるんですか~ッ!?」
「お、予想通りの反応」
そう言って、相変わらず長いエメラルドグリーンの髪のサリカさんは、オリーブの瞳を細めて笑った。服装も、相変わらず神官服。何も変わっていないサリカさんが、さっきイソナさんが立ち去ったドアから出てきた!ど、どういうことー!?
「……てめぇ……」
まだ混乱する私の背後。低い声と、もんっっのすごくドス黒い殺気を感じて、びくっとして振り返ると……やっぱり、もんっっのすごく凶悪な目付きをしたノストさんが!
そ、そっか……私達は、別れ際、彼女に……っと……そ、そういや男だっけこの人……。
とにかく!私達は、別れ際、サリカさんに出し抜かれた。で、その時に、ノストさんは、「今度会ったら殺す」って凄く怒ってて……や、やばいやばい~ッ!?
「おおお久しぶりですねぇえ~!! サリカさん、ミディアに残るんじゃなかったんですかっ?!」
ノストさんとサリカさんの間にさり気なく割って入りながら、私はバレバレな話題転換を図った。サリカさんも当然、その殺気に気付いていたけど、彼はむしろ楽しそうにノストさんを見ている。ううう、そういう態度がノストさんの神経を逆撫でしてるって気付いて……やってるんだろうな……きっと。
「1週間くらいミディアにいたんだけど、イソナから、アルカを回収したって連絡受けて取りに来たんだ。ここの教会、ゲブラーがいないからね」
「あ、そうなんですか……でもイソナさん、今は臨時で一人、ゲブラーいるって言ってましたよ?」
「あぁ、そいつは、いろいろあって忙しいらしいよ」
そういえばイソナさんも、その人は忙しいからって、私達にアルカ……デストレノの回収を任せた。思い返してみれば、一度もそれらしい人に会ったことないし、やっぱり忙しいのかな。
気が付けば、後ろの殺気が薄れていた。少しホッとして、私は肩の力を抜く。
「本当は、セントラクスの奴らに取りに来させようかと思ったけど……君らの様子見も兼ねて、私が来たんだ」
「……え?サリカさん……私達がここに向かうって、わかってたんですか?」
確かに……言われてみれば、ミディア所属のサリカさんがわざわざ来なくても、ここから近いセントラクス所属のゲブラーが来ればいい話だ。
でも、あえてサリカさんが、私達の様子も見に出てきた。ということは……ミディアを出た後の私達の行き先を、悟っていたことになる。
1週間前って言えば……フェルシエラで過ごしていた頃かな。私達は、カルマさんの「タミア村に行くといい」っていう言葉に従って、ここへやって来た。なのに、何でサリカさんがそれを知ってるんだろう。……はっ!まさか教団の裏情報網をフル活用したとか!? ……あ、あるのかな……そんな情報網。
私が聞くと、サリカさんはくすりと不敵に微笑んだ。
「言っただろ?私は部外者だけど、全部知ってる。【真実】を語れるのは、今、イソナと、もう一人だけしかいないということもね。だからここに辿り着くと思ったんだ」
……もう、一人。カルマさんが言っていた、『あの人』のことだと思う。一体、どんな人なんだろう……。
「まぁ、とにかく、そういうことだから。少しの間、こっちに滞在するよ」
「はぁ?ざけんな詐欺師消えろ」
「おやおや、嫌われてるねぇ~」
私の後ろから発せられたノストさんの一言に、サリカさんは面白そうに笑う。
「ま、今日は、もう休もうか」
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———そして、夜が来る。