exodus

94 空白の軌跡

 くすりと、「ステラ」が微笑んだ。
「―――なるほど。それは面白いですね」
 少女は、ユグドラシルの暗闇の星空のような世界で語る。
「ステラの下僕。つまりそれは、あの子の剣であり盾であるってことですね?」
 いちいち答える義理はない。こちらは精神統一するので手一杯だ。睨みつけたまま無言を返すと、満足そうに少女は嫣然と笑んだ。
「わかっていますか?それがどれだけ難しいか」
「………………」
「貴方とステラの間には、決定的な違いがある。人間と神子。貴方は時間を持つ。ステラは時間を持たない」
 ――知っている。世の中が移り変わる中、ただ一人、時間を持たないのがどんなものか。
 まだステラの正体がわからなかった頃は、立場が逆だった。彼女は時間を持つ。自分は時間を持たない。
 心は時を経るごとに成熟する。だから彼女は少し寂しそうに、でも前向きに時を刻んでいこうとしていた。
 しかし、自分はそれではダメなのだ。時を経れば、剣は、盾は、こぼれてしまう――

「その境界がある以上、貴方は剣にも盾にもなれません。それに……貴方は、もう敗北してるでしょう?この『私』に」
 ステラの姿をした神が、そう言った瞬間。

 リィィ――ン

 声以外、無音だった世界にベルのような澄んだ音が反響した。
 襲来してきたグレイヴ=ジクルドの刃を、神は瞬時に出した山吹色の剣で受けた。
 交差させた刃の向こう、息遣いが乱れているノストに言う。
「数日前のヒースさんとの戦いで、随分疲れてましたね。破壊ロアの連発と血液不足。すぐに治るものじゃないでしょう?」
「……っ……」
「そんな状態で、わたしに敵うと思ってますか?」
 そんなこと言われずともわかっている。息をする両肩の震えが止まらない。正直、立っているのがつらい。切りかかる際に飛び出せたのが不思議なくらいの状態だった。
 そんな自分の両足を、かろうじてでも支えているのは、プライドと――反抗心か。
 余地を広く残す神は、拮抗する刃越しに……ふわりと微笑んだ。

「気付くのは早めの方がいいですよね。―――そのプライド、折ってあげましょう」

 危険を感じ反射的に剣と身を引く、懐ががら空きになるほんの一瞬。
 そこに捻じ込むように放たれた山吹色の一突き。
 弾かれたように首を捻ってかわすと、耳元で風が爆ぜる。
 揺らいだ重心のバランスを取ろうと片足を一歩下げたら、踵に何かが当たった。
 それが何なのか知る前に。
 上げたままだった神剣に強い衝撃が襲った。真正面からの斬撃をまぐれにも受けたらしいが、その余波をもろに受け、腕は痺れ、体は圧倒される。
 ノストは、床も見えない黒い世界に背中から着地した。
 ――受身を取り損ねた。目測と違ったのだ。背後にあった見えない何かにつまずく形で倒れたのだから。
 認識と実体の間に生じるズレ。呆然としていると、仰向けに倒れた自分の傍らにしゃがみ込んでいた少女が微笑した。彼女に奪われたグレイヴ=ジクルドは、威嚇か警告のようにノストの頭の傍に突き立てられている。
「言ったでしょう?『貴方が世界を認知できない術式』だって。貴方の認識が変化しているだけで、ここは貴方がいたあの部屋ですよ?」
 位置関係を思い出せばわかる。ノストが背にしていたのは、恐らく自分が寝ていたベッドだ。
 不覚さに呆れたのも一瞬、ただでさえ休息を求めている体なのだ。もう起き上がる気力はなかった。
 それでも、神剣だけでもと手を伸ばそうとする彼に、神は真摯に、淡々と語る。
「神子がどういうものか、わかっていますか?わたしさえも超えてしまう、途方もない無限の可能性を秘める一方、人間よりも脆い。人間と違って自然治癒力はないので、体でも心でも、深い傷を受ければ崩壊死してしまう」
「………………」
「その神子を守る剣が、盾が、どれほど重要かわかっていますか?」
 ―― 一度、彼女の心が壊れて死にかかったことを忘れはしない。
 頭を過ぎった過去の記憶に、ノストは思わず動きを止めた。少女は、その耳によく届くように身を少し屈め、囁くように告げた。

「貴方は弱い……もし人間と神子という境界がなくても、貴方では、ステラの剣にも盾にもなれません」
「―――ッ……!!!」

 身を灼くような苛立ちに歯噛みしかできない。それがステラの声だったからか、尚更腹立たしかった。
 自分が欲しいものは、最初から手に届く距離になかった。
 一番近いと思っていたのはすべて錯覚で、それは一番遠い――
 グレイヴ=ジクルドを持って、ステラの姿の神が立ち上がる。
 ふと、その柄の辺りのウォムストラルが足掻くように光を放った。しかし少女は慌てもせず、おもむろに剣を見やるだけで、以前のように透けもしない。
「前は霊体だったので、再生ラシュファで強制送還されちゃいましたけど……今回は、ちゃんと体がありますから。神の軍と同じです」

―――だめだわ ノスト……!!

 ウォムストラルの声に、隠し切れない焦りが浮かんでいた。
 ――グレイヴ=ジクルドは、神や神子、生粋のボルテオースの存在によって真価を発揮する。
 それが今、神子の姿をした神の手にある。
 まるで創生時代の再演。

 破壊
ロア
を使われたら――

 ふわ、と銀の弧を描いて掲げられる神の剣。
破壊ロアの真価は、文字通りの破壊です。人間なんて一瞬で消えちゃいますからね。そして寿命を全うしなかった魂たちは、ユグドラシルに拒絶されて消失します」
 未来永劫の消失。
 破壊
ロア
はまさしく――その魂の破壊だ。
 少女が、ノストを見て微笑む。
「ズレは消すべきですよね?」

 その言葉が、最後まで言い切られた瞬間だった。
 突如、下方から走る白い稲妻。黒い世界に縦に入った白いヒビは天上まで広がり、ガラスのような涼やかな音を立てて黒が砕け散った。
 黒い雪のような残滓が降り注ぐ白い世界で、少女はある方向を振り向いた。
 表面的な笑顔の奥に、何処か懐古の色を混ぜて。

 世界に色が戻ってきた。
 漆黒の星空でも、純白の闇でもない。自分が寝ていた、何の変哲もない一室。
 ベッドの上に倒れていたノストが倦怠感に抗って身を起こすと、グレイヴ=ジクルドを持った「ステラ」はこちらに背を向けていた。
 その正面では、ドアが開け放たれていた。
「……破壊
ロア
は使わせないわ」
 まばゆい金色の波を引き連れた少女が、明らかな敵意を宿した瞳で神を見据える。それに対し、少女かみは形式的に微笑んだ。
「お久しぶりです、アルトミセアさん。それだけのために、ナシア=パントから出てきたんですか?」
「それだけなんてよく言うわ。生粋のボルテオースの存在がグレイヴ=ジクルドを一振りすれば、代償なしに国の1つや2つは滅ぼせる。その気があればね。人間なんて当然残っちゃいない。貴方に、ノストを消させるわけにはいかないの」
 憂えるように瞳を伏せ、初代聖女アルトミセアは紡ぐ。彼女はドアの境界に立ったままで、それ以上は踏み込もうとしない。
 ――アルトミセアは、破壊ロアだけ詰め込んだ術式で、神が展開していた『認識を惑わす術式』を破壊した。そして今、神が破壊ロアを使おうものなら、反属性の再生ラシュファで対抗しようと様子を見ている。
 思わぬ加勢に心強いとは思いつつも、ふと思い出した予感を、神が裏付けた。
 くすりと笑んで、淡々と告げる。
「ナシア=パントから出たことで、貴方が展開していた術式はすべて壊れちゃいましたね?わたしは貴方を認知できるようになったし、貴方はエオスを視ることができなくなって、そしてわたしの干渉も制限できなくなった……」
「………………」
 アルトミセアが自分を軸に展開していた、誰もが彼女を認知できない術式、エオスを見守る術式、神のエオスへの干渉を制限する術式。それらはすべて、オースが満ちるナシア=パントから出た途端、脆く壊れてしまう。
 つまり今、彼女は、エオスは――丸腰だ。

 緊張の色を濃くするアルトミセアに対し、少女は剣先を下ろし、身を強張らせている初代聖女の横をすっと通り過ぎた。
 拍子抜けして、アルトミセアとノストが少女を振り向くと、彼女は肩越しに言ってきた。
「グレイヴ=ジクルドも回収しましたし、私は帰りますね」
 ――ユグドラシルに、帰る。
 帰って、壊す。
 用済みの破壊者を。
 小さな焦りが身を叩く。しかし動けない。倦怠と、硬直と、畏怖とで。
 二人はただ、これから起こり得る最悪の事態を思いながら、立ち去る小柄な背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

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 神様と人間の戦争は、きっと今この瞬間も続いてる。
 神様は、グレイヴ=ジクルドを回収しに行った。きっと誰も敵わないから、確実に持って帰って来る。
 そしたら……私は消される。
「………………」
 膝を強く抱いて、この暗闇の向こうに思いを馳せる。
 今、エオスはどうなってるの?
 神様は何処に向かったの?
 ノストさん達は――?

 神様は、この場所からエオスの様子を視ることができるらしい。私もできたらよかったのに、できないから余計に不安になる。
 ……そう、「できない」。エオスもユグドラシルも、内包している情報量は膨大だから。それらを人間、そして人間を模した私は、受け止めることができない。単純に容量超過キャパシティオーバーで、内側から壊れてしまう。アルトさんはある程度制限を設けた上に、長いこと生きてるから適応していったらしいけど……。
 私達には視ることのできない世界の全体像を、神様は視ている。だからこそ、”神”なんだろうな。
 でも神様は、何もわかっちゃいない。
 すべての情報を一度に得ている神様は、確かに全知かもしれない。
 だけども貴方には、未知に怯える恐怖や、貴方が魂を使ったことに対する憤怒や、そして今、私達が貴方の救済を拒否する理由はわからないでしょう。
 生の情報を、貴方は知らない。知ろうともしない。
 だからこの戦争は、きっとお互いに理解できない。神様はあまりに無慈悲で、私達の声を理解し得ない。アルトさんの言うように、衝突が免れないことは明らかだった。
 私達が神様に蹂躙されるか、神様が私達に制限されるか。

 ……でも、本当?
 他に選択肢はないの?
 顔を上げ、魂の星空を見上げて思う。
 本当に、それだけしかないのかな?

「それはお前次第だろ」
 真横から男の人の声がした。檻の向こうで座り込んでいるヒースさんは、私を見てニカっと笑った。
「お前がそこ・・から出ようと思えば、選択肢は増える。自分でわかってるだろ?」
「………………」
「いつまでも囚われの未熟なお姫様でいいって言うんなら、俺は止めねぇけどな」
「……私は、お姫様じゃないです」
 優しげな口調でそっと突き放すように言う彼に、私はつい反射的に呟いた。
 そしたら不意に、少し前に投げかけられた質問が思い返された。

『ステラ、貴方にとって、ノストはどういう存在なの?』

「………………ふふっ」
 あの時は凄く悩んだのに。今、連想的に思いついた単語に、思わず笑いがこぼれた。ノストさんが聞いたら、なんて言うんだろう?

 私にとって、ノストさんってどういう存在?
 相棒じゃない。私は助けてもらってばかりだから。
 居場所じゃない。私は彼の隣にいることはできない存在だから。
 それでも、いなくなったらなんて考えられないほど大切で、ずっと信じてる人。

 ――きっと、王子様だ。
 いつも物理的、精神的に何かしらの檻に囲まれる私を、それとなく外へと導いてくれる。
 とても賢くて強くて格好良くて、ちょっとだけ口の悪い王子様。
 いつも貴方にばかり頼ってごめんなさい。
 私は「未熟」からも、「お姫様」からも、卒業したい。出たい。
 そうすることで見えてくる、未知の道があるから。

 伸ばした右手が、檻を象る山吹色の雷をしっかりと握り締めた。
 一瞬、意識が飛んだのがわかった。あまりの痛みに頭が真っ白になって、私は呆然として、それでも雷を掴んだまま。
 脳内を吹き荒れる嵐のような激痛に歯を食いしばり、私は必死に精神を統一させようとする。
 山吹色はボルテオースの証。ボルテオースの術式。
 でも私のクロムエラト、そしてこの神界の力があれば……壊せ……るっ……
「―――きゃぁあッ!!?」
 その思いさえ挫くように、一際強力な痛みの波が来た。手のひらが緩んで雷から手が離れた。宙を泳いだ自分の手を見て、もう痛みを受けない安堵と、それ以上の言い表せないくらいひどい絶望が心を支配する。
 ……やっぱり、ダメなの?
 私じゃダメなの?
 私は、未熟なお姫様のままなの……?

 その手を、横から入ってきた影が覆ったのが見えて、そこまでだった。私の視界は暗転する。
 激痛で気絶したのかと思った。でも思い出したように激痛が体を這ったことで現実に引き戻され、何も見えない中、体が強張る。
「ここで手を離したら、もうチャンスはねぇぞ?」
 頭の後ろで、突然ヒースさんの声がした。そこでやっと、彼が私の視界を手で覆っているのだと気付く。
「目を閉じろ。すべて感覚に委ねろ」
 ヒースさんは、有無を言わさぬ強い口調で言った。それから、再び檻に掴ませた私の手と目元から手が離れるのがわかった。
「いいか、なるべく深呼吸して集中しろ。痛みを感じる暇があったら、すべて精神統一に回せ。そしたら見えてくる」
 そのはきはきとした声は呪文みたいだった。迷いない指示に導かれるように、痛みの感覚さえ削ぎ落とし、私の意識は細く収束していく。
 何も聞こえない。何も見えない。何も感じない。
 見えるのは……瞼の裏の暗闇に浮き上がった、この檻の術式。
 円状の山吹色の文字の羅列。何が書いてあるかなんていちいち読まなかった。

 拡け、クロムエラト。
 壊れろっ――!!

 パキィ―――ィン

 まるで氷が儚く折れるように、瞼越しに控えめな音が弾けた。同時に、体全体を覆っていた不可視の負荷も霧散する。
 音の余韻が止んでから、私は恐る恐る目を開く。軽く握り締めた拳は、もう何も掴んでいなかった。
 意識をしていなかっただけで、体はしっかりあの激痛を受け止めていた。思い出したように疲れてきて、体が重くなる。
 ……檻……壊せたんだ。神様の術式を……壊しちゃった。
 …………あはは……なんだか、現実味ないや。疲れてるのかな。
 それに……、
「悪ぃな、急に。お疲れさん。ノストに見られたら犯罪とか言われそうだな……ったくあの野郎は……」
 一息吐く私の傍で、バサリと布がはためく音がした。振り返ると、立ち上がったヒースさんが参ったように笑って頭を掻いていた。
「……どうして……」
 当然のように私を助けて、当然のようにそう言う。だから困惑が唇からこぼれた。
 わからないんだ。ここに連れて来られてから、ヒースさんもエリナさんも、敵対している相手とは思えないくらい親身で。警戒心を和らげるための作戦なのかなって、ちょっと不気味でもあった。
 初めて会った時から……ううん、記憶にある時から、今の今まで。彼の態度は一貫して変わらない。

 ヒースさんは最初、何のことかわからなかったらしく不思議そうな顔をしてから、合点したように1つ頷いた。そして、ふっと淡く微笑んだ。
神の軍は敵じゃない・・・・・・・・・、ってことだ。親は、いつだって子供のことを想ってるんだぜ」
「え……?」
 彼のわかりづらい言い回しの意味が理解できなかった。なんとか理解しようと頭を回転させるけど、そんな暇を与えないと言わんばかりに、ヒースさんは虚空を見上げ、おかしそうに笑った。
「ほれ、アイツ、グレイヴ=ジクルドを奪われて大ピンチだぞ。下僕を助けに行ってやれよ、女王様」
「…………え、え?じょ、女王?」
「お姫様が昇格したら女王だろ?ノストを下僕呼ばわりしてたしな、ちょうどいいだろ」
「そ、そーですけどっ……!!」
 女王様って……!冗談でもそんな風格じゃない!それにあれは、とっさに言い返しただけで、ノストさんに向かって命令なんてできないよ……!!
 だから私は言い返した。でもやっぱりちょっと恥ずかしかったから、頬が紅潮した顔で。
「の、ノストさんは王子様です!! 私は一庶民として助けに行くんですー!!」
 必死に恥ずかしさも呑み込んで言ったら、ヒースさんは唖然として、直後にブッと噴き出して大声で笑い始めた!
「ぶははははっっ!!!!! アイツが王子!そりゃ大変な国だなあ!!」
「き、きっとすっごくいい国ですよ!? 剣と音楽を愛する質実剛健な王国です!!」
「はははっ!他人に無関心なアイツがやれたモンじゃねーけどな!」
「ひゃっ!?」
 豪快に笑いながら、ヒースさんはどんっと私の背中を押した。トトンっとたたらを踏んでから振り返り……私は息を呑んだ。
 さっきまではなかった、細かな星。ヒースさんの体が、末端から光の粒に変わって散っていく。
 彼は、ゆっくりほどけていく手のひらを見て嘆息した。
「やっぱり『引っかかってた』か……まぁいいか、今更』
「ど、どうなってるんですか!?」
『制約の術式だよ。神にとって口外したらマズイことを言った途端にボンだ。けどほれ、この世界は想いがじかに働くんだろ?それでボンじゃなくて、じわじわ来てるみたいだな」
 ……え?制約の術式がはたらいたってことは……彼は今、何か神様にとって都合が悪いことを言った?いつ?

 エオスでは、まっすぐ天へと昇っていった光の粒子は、今はふわふわとヒースさんの回りを漂っている。まるで蛍だ。
 その光たちに囲まれながら、今はその名を譲ったかつての剣聖は、微笑んだ。
 私の記憶にもない、満足げな優しい微笑は、間違いなく、今ここにいる私に向けられたものだった。
『行って来い、ステラ。お前の好きなようにすればいいさ』
 ……ユグドラシルの特性で、彼には私の心が見えていたのかもしれない。
 私が考えた、どうなるかもわからない道。ある種の賭けだって自分でもわかってる。
 でも――私は進む。
 その上で見守ってくれる彼に、私も微笑み返した。

「はい……本当に、ありがとうございました。私の―――お父さん」

 一瞬、彼が驚いた顔をしたのを見てから、私はしてやったりと笑んで、たんっと一足駆け出した。すぐに浮遊感に包まれ、ユグドラシルではない別の真っ白な世界に身を委ねる。
 天も地もわからない純白の世界は、何処を歩いているのかもわからない。これからの私が向かう道みたいだって、ちょっとだけ思った。
 でも大丈夫。私には道しるべがある。今も、これからも、大丈夫。
 大切な人達を思い描いて、私は目を閉ざした。