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23 涙の理由

 ふわふわした金髪が、ステンドグラスのせいでさまざまな色になった光に煌く。こちらを向いて立っているカノンさんは、山吹色の左眼と蛇の赤い右眼で私達を見つめていた。
『来たわね』
「あらら、嗅ぎつけられていたのはお見通しか」
『当然よ。私を人間と同じように見ないことね』
 私の前のサリカさんが「参ったね」と、全然参ったふうじゃない、むしろ楽しそうな口調で言った。
 さっきの言葉からして、どうやらサリカさんの尾行にカノンさんは気付いていたらしい。私達をおびき寄せるために、あえて気付かないフリをしたみたい。
 カノンさんは、すっと人の左手を少し上げた。すると、一振りの青い剣が背景から滲み出すように浮き上がってきた。その柄を握り締め、カノンさんはヒュっと剣を振り抜く。
 えっ、ちょ……やる気ですかッ!? と思ってノストさんを振り向くと、彼の手にもいつの間にかジクルド!こ、この人もやる気だ!! で、でも、まだ距離あるし大丈夫かな……。
「あ、あの、カノンさん!」
 目の前のサリカさんを避けて、私は彼女より前に出て言った。しかし、青い身の剣を片手に持ったカノンさんは私を無視し、戦いやすいように私の横に進み出てきたノストさんのジクルドに目を留めた。
 納得が行かなさそうな厳しい目で見て、言う。
『昨日から思っていたけど、アンタのそれ……ジクルドね?どうしてグレイヴ=ジクルドが壊れているの?』
「!!」
 カノンさんが、当たり前のように口にした言葉に……私は息を呑んだ。ノストさんも、少し警戒の色を濃くするのが空気を通じて伝わってきた。
 この人……神剣の存在、知ってる。しかも、今はウォムストラルが砕けてジクルドだけっていうことまで見抜いた!たった数回しか見てないのに……どうして!?
「カノンさんっ、貴方、一体……っ!」
『答えなさい。どうしてグレイヴ=ジクルドが壊れているの?』
「あ……」
 カノンさんは私の問いをあっさり跳ね除け、ノストさんをまっすぐ見据えて問う。彼女の問いに、私は今更そのことに気付いた。
 そういえば、私も……グレイヴ=ジクルドが壊れた理由を知らない。私にとっては、ジクルドはジクルドでしかないから、気付かなかった。でも確かに言われてみれば……何でだろ?
 私も気になって、隣のノストさんをそろーりと盗み見ると、彼は何かを思い出しているのか、目を伏せて黙り込んだままだった。

 ……しばらくしてから、ノストさんはその重い口を開いた。
「………………いろいろあった」
『答えになってないわ』
「てめぇには関係ねぇだろ。それよりも、方をつける」
 一方的に話を打ち切り、ノストさんは剣を握るカノンさんを見て言った。カノンさんと同等だったっていうことに苛立っているらしく、その目はアスラで最後におっさんに向けたものと同じだった。
 これ以上は無駄と判断したのか、カノンさんは追及しなかった。青い身の剣を少し引いて構える!
『私の剣と同等の人間なんて初めてよ。アンタ、本当に人間?』
「はぁ?当然だ」
『信じられないわね……まるで化物だわ』
「自分は棚の上か」
 ……きっと、ノストさんは、その「化物」と並ぶカノンさんも「化物」だって言いたかったんだと思う。
 だけどカノンさんは、その意味を取り違えた。
『っ……知ってるわよ!だからこそ憎いのよ、ステラが!!』
 そう叫ぶカノンさんには……さっきまでの冷静さがまったくなかった。戦闘態勢すらも崩れて、金の左眼と蛇の赤眼が悲しげに揺れる。右の鳥の翼を見て、ぎゅっと目を瞑った。
『どうして……どうして私はっ、こんな不気味な姿なの?人は、私を見ただけで恐れるわ……!4年間、このシャルティアを歩き尽くしたけれど……みんな、怖がって近付こうとすらしない!!』
「………………」
『だから私は……1年前、この街を乗っ取って、魂だけの街にした……意のままに動く人形なら、感情のない魂なら、私を恐れることはないから!狙い通り……みんな、私を恐れることなんてない、忠実な僕になったわ。だから、アンタ達にこの街を壊させるわけにはいかないの!!』
「……カノンさん……」
 ―――それは……なんて、悲しい選択なんだろう。
「…………寂しく、ないですか?」
『……!?』
 盲目的なお人形さん達に囲まれて……それで、満足だなんて。誰一人、言葉を交わせる人すらいないのに。
 それじゃ、いくら回りにたくさんお人形さんがいても……一人ぼっちなのと一緒だ。
「言いなりのお人形さんは、便利かもしれません……貴方を恐れないかもしれません。でも……それで、いいんですか?寂しく……ないんですか?」
『さ……寂しくなんかないわよ!寂しく、なんかっ……私には、それくらいしかできないんだもの!仕方ないじゃない!私は……醜い化物だから……っ!!!』
 吐き出すように叫んで、カノンさんは青い剣を投げ出して髪の上から両耳を押さえた。それ以上は聞きたくない、と言わんばかりに。
 カノンさんは……ずっと、寂しかったんだ。
 その姿故に、人から怖がられて……寂しくないって言って、お人形さん達に囲まれて……でも、ずっと、一人ぼっちだったんだ。
 ……私と……少しだけ、似ている気がする。
 外見だけで「化物」って見られて、怖がられるカノンさん。外見だけで「ルナさん」って見られて、追いかけられる私。

『なのにっ……!』
 耳を塞いでうつむいていたカノンさんは、ばっと顔を上げた。キッと私をそのオッドアイで睨んで、一歩前に出て叫ぶ。
『なのにっ、どうしてステラは、私と違うの!? アンタは、私の妹……!でも、私みたいに醜くない、私みたいに一人じゃないっ……!羨ましいのよ……憎いのよっ!!』
「カノンさん、でも、私も……」
「嫉妬ってヤツか~、怖いねぇ。ただ1つ言わせてもらうけど」
 私も一人なんだよってことを言おうとしたら、背後からのサリカさんの声に遮られた。そう言いながら私の隣に並んだサリカさんの口調が、不意に厳しいものとなる。隣を見ると、横顔も冷め切っていた。
「誰でも、生まれたからにはその姿で生きるしかないんだ。生い立ちや容姿を嘆くのは、時間の無駄だと思うけどねぇ?」
「さ、サリカさんっ……!」
 確かにそれはそうなんだけど、その言い方はかなり挑発的だった。思わず私がサリカさんに小さく抗議の声を上げると、カノンさんはその言葉に怒りを掻き消されたように静かになった。ただ、その双眸が、凶悪な目つきで私達に向いている。
 カノンさんは少し屈んで、落ちていた青い剣を握り。半歩下がって構え、私達を睨みつけて叫んだ。
『いいわ、来なさい。全員、殺してあげるわ!!』
「ちょ、ちょっと待って下さいっ!!」
 そう言われたノストさんもノストさんで、何も言わずに戦闘態勢に入ろうとするから、雰囲気ブチ壊れで悪いんだけど、私は慌ててノストさんの前に飛び出した。ノストさんは呆れた顔で戦闘態勢を解く。
「お前の趣味は妨害か?」
「ち、違いますけどっ!こんなことするために来たんじゃないでしょうっ!? 少なくとも私はそうですよ!」
 それから、いきなりの介入にポカンとしているカノンさんをばっと振り返って、
「カノンさんもっ、ノストさんを刺激するようなこと言わないで下さい!ただでさえ、プライドが傷ついてて不機嫌なんですから!」
「やかましい妨害女。引っ込んでろ邪魔だ」
「うっ!な、名前増えた……でもでも、嫌です!私は、カノンさんと……!」
「!」
 その瞬間、意気消沈して動く気配のなかったノストさんが、いきなり動いた!
 頭のすぐ後ろでギィン!と金属の音がした。その音に後ろを振り返ると、一瞬で私の真横に移動していたノストさんのジクルドが、いつ迫ってきたのか、私の真後ろにいたカノンさんの剣を受けとめていた。ギチギチと嫌な音が、刃がクロスしているところから鳴る。
『ちっ……!』
 そうした押し合いで、刃を交差させたまま、剣を下ろす二人。戦闘には疎い私だけど、どうやらお互いに、相手の攻撃を封じ合っているらしい。
 同時に二人は、お互いの剣を弾くように剣を引く。
 すぐにカノンさんが、ノストさんに袈裟懸けに切りかかる。ノストさんはそれを防ぐ。
 それから二人は、目に見えない速度で何度か打ち合い、最後にはノストさんのジクルドがカノンさんの青い剣を押さえつけた。
『くっ……邪魔よ!』
「さっさと下がれ!」
「で、でも私っ!」
 ノストさんも、今回ばかりは余裕がないのか、大声だった。それほど聞かない彼の大声に、私はビクッとしながらも反抗する。ノストさんが面倒臭そうに舌打ちし、こっちに向かって左手を伸ばしたと思ったら。
「きゃ!?」
 どんっ!と、突き飛ばされた。強い力で押されたから、バランスを保っていられなくて、私はズデンっと尻餅をついた。すぐ傍にいたサリカさんに、「大丈夫?」と声をかけられる。
 わけがわからなくて、呆然と顔を上げた時。カノンさんの青い剣の刃が、ノストさんの右腕に掠ったのが見えた。

 ぱっと、血が舞った。

「……え」
 目を、見開いた。
 ……血。そうだ。知っていたつもりだった。だけど、「つもり」でしかなかった。
 戦いって、もっとこんなふうに、怖いものなんだって。
 今までそんなことを感じなかったのは、ノストさんが尋常でなく強いからだ。だから、たくさんの賞金稼ぎに囲まれても、そこまで怖い思いもしなかった。
 今、ノストさんが傷を負ったのは、私のせいだ。きっと、私を突き飛ばした一瞬を見極められた。すぐ傍に私がいることがハンデになってるんだ。
 でも……私は、引き下がれない。
 私は、カノンさんと話し合いに来たんだ。こんなことをするために来たわけじゃない!
 だから、だから……私は引かないっ!!
「ノストさん、カノンさんっ!! やめて下さいッ!! 争ったって意味なんかないでしょう!!」
 凄い剣戟を繰り広げている二人に叫んで、立ち上がった時……私の耳に、声が届いた。

哀………神…
 ………よ
 響……て
 ……の歌を

 ううん……声というより、歌。ホッとするような、あたたかな、不思議な言葉の歌。
 前にも一度、聞いたことがある。ノストさんがスロウさんに負けて帰った時。その時は、よくわからなかったけど……今なら、少し意味がわかる。何でだろ。何言ってるのかは、全然だけど……。
 でもこの歌が聞こえたなら、答えは1つ!私はすぐさまスカートのポケットから、ウォムストラルを引っ張り出した。
「『!?』」
 ノストさんとカノンさんの注意が、私が出したウォムストラルに集中したと同時に、ウォムストラルはあの時同様、白く光り出した。柔らかなその優しい光が、どんどん周囲を覆っていく。
 それがフッと消えて……すぐ。

 ―――ゴトンッ、

「え……?」
 ……ノストさんの足元に、青い剣が落ちていた。それは、さっきまでカノンさんが持っていたもの。目線を上げると、カノンさんは自分の両手を見て、ひどくうろたえた表情をしていた。
『い……いやっ……どうして、いきなり……!!』
「か、カノンさんっ!?」
『私は、私はっ…………帰りたくない・ ・ ・ ・ ・ ・っ!!』
 自分が何をしたのかわからない私は、もしかして逆効果だったんじゃないかと慌てた。カノンさんは人の手と鳥の翼で頭を抱えて、子供みたいに何かに怯える。
 そういえばカノンさんの姿が、さっきよりほんの少し薄くなった……気がする。周囲を見渡すと、礼拝用の長イスの間に立つ魂さんが少し濃くなったような……やっぱり気だけだけど、する。
 これって、もしかして……カノンさんの力が、弱まってる!?
「ノスト、今のうちに!」
 サリカさんのそんな声が響いて、私は我に返った。サリカさんは、今のうちにカノンさんを切れって言ってるんだ!
「ダメですっ!!」
 私は微動したノストさんの横を抜け、しゃがみ込んでいたカノンさんの前に、両手を広げて立ちはだかった。また邪魔されたノストさんは、大分苛立った目で私を見る。
「どけ妨害女」
「嫌です!もうこんなに弱ってるのに、切ることなんてないでしょうっ!」
「甘ぇよ」
「私は、カノンさんを信じてます!カノンさんはっ……ひゃっ!?」
「「っ!!」」
 その言葉の先は中断させられた。背後から首に腕を回されたかと思うと、ぐいっと引っ張られて少し息が詰まる。いつかのおっさんの時みたいだ。回された手には、いつの間にか小さなナイフが握られていた。
 カノンさんは私の首筋にナイフの先を突きつけて、疲労の色が濃い表情で言う。
『ただでは消えないわ……消えるのは、ステラ、アンタを殺してからよ!!』
「ステラっ!!」
「ちっ……!」
「大丈夫です!!」
 思わず駆け出しそうになったサリカさんと、舌打ちしてそのサリカさんの動きを制したノストさんに、私は負けないくらい大きな声でそう返して……、くるっと後ろを向いた。
『!?』
 これは予想外だったんだけど、カノンさんの腕の拘束力は、私でも振り解けるくらい弱かった。だから振り向くのは簡単だった。
 私の思わぬ行動に、カノンさんがびっくりした顔をしたのを見てから、両手を広げてちょっと背伸びして。私より少し高いだけの、半透明のカノンさんの背に腕を回し……私は彼女を、ぎゅっと抱き締めた。

『……あ……』
「……怖く、ないですよ」
 半透明な体に触れられるのかどうかは、あまり自信がなかった。だけど、カノンさんは確かに形を持っていた。姿が半透明なだけなのかも。少しだけ、体温らしい温かさを感じた。
 抱き締められたカノンさんはしばらく呆然としてから、はっと我に返って翼の右手で私を引き離そうとする。バサバサと羽根が舞う中、私はぎゅーっと腕の力を強くして、粘り強く離れない。
『さ……触るなっ!! は、離れなさいっ!! 殺すわよ!!』
「私は、怖くないですよ。貴方の妹ですから。だから、怖がらないで下さい」
『私は、怖がってなんか……!』
「貴方は、自分が傷つくのが怖いんです。怖くて……自分から行動を起こせなくて、待っていることしかできなかったんですね。自分を受け入れてくれる人が現れるのを、待つことしか……」
『………………私、はっ……』
「一人ぼっちは……寂しいですよね。……怖いですよね」
『……怖く、なんか……』
 ……気が付いたら、カノンさんの抵抗が止んでいた。それに気付いた時、足元の絨毯の上に何かが落ちる音がした。目だけで下を見ると、さっきまでカノンさんが持っていたナイフが、さっき落とした青い剣の隣で、真っ白な塵となって消えていくところだった。
 耳元で、しゃっくりが聞こえた。
『……ステラ……アンタは、甘すぎるわよっ……ごめんなさい……っ』
 カノンさんは震えた声でそう言って、謝ってきた。カノンさんの肩が揺れて、その拍子に落ちたらしい涙が首筋に落ちる感覚がした。
『本当は、怖いくせに……』
「そんなこと、ないですよ」
『アンタも、何処かにいなくなっちゃえばいいのに……!』
「貴方が心配だから、いなくなれないです」
『……どうすればいいか、わからないじゃないっ……!!』
「ふふっ……そういう時は、素直に甘えればいいんですよ、お姉ちゃん」
 片手でカノンさんの頭を撫でると、ふわふわした髪が気持ち良かった。子供を宥めるお母さんみたいだな……と自分で思ってから、私は腕を下ろしてカノンさんから離れた。
 予想通り、カノンさんはポロポロ泣いていた。やっぱり姿が薄くなってきているらしく、さっきよりも確実に輪郭が薄くなっていた。
『アンタが羨ましい……容姿だけじゃなく、心も綺麗だなんて。私は……どっちも、醜いわ……』
「カノンさん……」
『私も、そうなりたい……』
 人の左手で涙を拭いながら、カノンさんは言った。それから、私をまっすぐ見て。

『でも……その綺麗な心は、いずれ災いを招くわ。【真実】を知った時、アンタはきっと壊れてしまう』

「…………え?」
 唐突な【真実】の話に、私は反応が遅れた。言っている意味もよくわからなくて、慌てて問い返す。
「ど……どういうことですか?壊れてしまう、って……」
『それほどまでに、【真実】はアンタにとって重いもの。……今のアンタはきっと、その重さに押し潰されてしまうわ』
 カノンさん、前も……【真実】は、残酷だからって言ってた。そんなに、つらいものなのかな……大体、【真実】って何?私とカノンさんの関係について……?
『世の中には、知らなくてもいいこともあるわ。壊れるのが怖いのなら、知らない方がいいでしょうね。私としては……その方が安心だわ。私のところなんかに来たら、今度こそ殺すわよ』
「あれ……カノンさん、何処かに行くんですか?」
 そういう口振りだったから、そう聞いてみた。すると、答えは背後から返ってきた。
「神界ユグドラシル―――すべての魂が還る、母なる混沌の無限世界」
『そうよ』
 振り返って確認するまでもなく、サリカさんだった。でも振り返った私に、サリカさんにこっと小さく笑いかけた。
 ……何だろう。サリカさん、タイミングよすぎっていうか……なんか、引っかかるっていうか……うーん。そういえばサリカさん、私が危なくなったら少し焦ってたみたいだけど、その他はずっと傍で見てただけだったな……。

『……そろそろ限界かしら』
「えっ!?」
 そんなカノンさんの呟きに、再びカノンさんを振り向くと、彼女は自分の両手を見ていた。カノンさんの姿は、もう輪郭しか見えないくらいに薄くなっていた。そういえば周りの霧も晴れてるし、長イスの前に立っている魂さんも、触れるんじゃないかって思うほど姿がはっきりしてきていた。
 もう、カノンさんの力が及ばなくなってきたんだ。それほどまでに弱ったカノンさんを見ると、カノンさんは私を見て……薄くてよく見えなかったけど……微笑んでくれた気がした。
『ウォムストラルを使いこなせるようになりなさい。アンタでも、次第にわかるはずよ』
「か、カノンさんっ……」
『ステラ、ありがとう。……それから、さようなら』
「待っ……!!」
 思わず、輪郭しか見えないカノンさんに手を伸ばした。でも、その手がカノンさんの輪郭だけの姿に届く前に……彼女の姿は、ナイフと同じように、崩れるように山吹色の塵になった。そしてその塵も、床に落ちる前に、青い絨毯に溶け込むように跡形もなく消えた。
 そう……消えた。

「………………」
 ……カノンさんの残像を呆然と見ていた私の横に歩いてきたノストさんは、さっきまでカノンさんが立っていた場所に目をやり。そこに落ちていた青い剣の存在を一瞥してから、正面を向いて。
「姉ってのは本当だろ」
「え?」
 ……どういうこと?何で、ノストさん……言い切れるんだろ。
 突然な言葉に、私がノストさんを見返すと、彼は私を見て、無言で私の顔を指差した。なんとなく向けられたまま、頬に片手を当てて……ようやく、濡れていたことに気付いた。
「……あ……私……なんで……」
 ……いつの間にか、泣いていたらしい。
「あ……うっ、ぁ……っく……」
 そのことがわかった途端、急にどうしようもない悲しみが襲ってきた。溢れてきた涙が、次々に青い絨毯に黒いシミを作る。二人に見られたくなくて、私は顔を両手で覆ってうつむいた。

 ……カノンさんは、知らない人だ。確かに、仲良くなれそうだとは思った。
 でも、それだけで……こんなに悲しくなるの?
 こんなに悲しいのは……やっぱり、彼女が私のお姉ちゃんだから、なのかな……。