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17 綺麗事のカタマリ

「本当に、妙な街だねぇ……」
 レストランのテーブルについて、サリカさんが焼いた鶏さんを食べながら呟いた。
 街を一通り見て回った頃には、すでにお日様は沈んでいた。私達は、やっぱり中には幽霊さん達がいるレストランで、勝手に食材を使って料理して夕ご飯中。
 メニューは、炊きたてご飯と、焼き鳥さんと、野菜スープ。ちなみに料理人は私っ!一人暮らしだから家事はお手のものなのだ!厨房にコック姿の幽霊おじさんがいて、びくびくしながら作った……こ、こ、怖かったあぁ。あと、勝手に食材使ってごめんなさい、店の人達。代金は払います!ノストさんが!
「生存者がゼロとはね……」
「あ、えっと、ちょっと思ったんですけど……」
 サリカさんの疲れたような言葉に、料理を口に入れようとしていた私は、そう言って入れるのをやめた。
「何て言うか……幽霊さん達に、生活感があると思いませんか?」
「生活感?」
「えっと……厨房にいる幽霊さんはちゃんとエプロンしてるし、建設途中の仕事場にいた人達は、服とか汚れてましたよね?なんか、それってまるで……」
 まるで――、
「……この街で暮らしていた人間達が、ある時刻を境にすべて魂になっている。その辺にウヨウヨいる霊体は、幽霊じゃなく魂だ。まだ生きている人間のな」
 野菜スープを飲んでいるノストさんが、私の先を勝手に継いだ。彼の言葉に、言うのをためらった私は小さく頷いた。
 ……そう。なんだか、そんな気がした。足まで見えるし、まず幽霊じゃないって思ったら……それしか考えられなくて。それでもかなり非現実だけど……。
「じゃあ……ユスカルラで消しちゃった魂は……やっぱり……」
「……消え……ちゃったん、ですね……」
 ノストさんの言葉を聞いて、悲しそうに目を伏せたサリカさん。その言わんとしていることを私が小さくつなげた。
 神話に出てくる神界ユグドラシルは、死した魂しか受け入れない。幽霊さん達が消えたあの状況だけじゃ、ユグドラシルに行ったのか、消えたのかわからなかったけど……その一文で、わかる。
 あの魂さん達は、生きている。でも、ユグドラシルは死した魂しか受け入れない……行き場のない魂は、消滅するしかない。
「神官失格だね、私……」
「で、でも、知らなかったんですし、仕方な」
「ステラ、やめな」
「え……?」
 私の言葉を先読みして、サリカさんが突然鋭い声で制した。何でかわからなくて目を瞬く私に、サリカさんは少し黙り込んでから、はっきりとした口調で言う。
「……私は、人の命を、『仕方ない』で片付ける人間が嫌いなんだ。励ましのつもりなんだろうけど、それは物凄く軽々しい扱いだよ。でも、きっとそれは、人の命の重さを知っているからだ。背負いきれなくて手放そうとするんだ、その重さを」
「………………」
「けど、事故でも人の命を奪ってしまった奴は……ちゃんと反省しなきゃならない。その行いを悔い、戒めとする……それがグレイヴ教の……いや、あの人の教え。だから励ましなんていらないんだ」
「………………」
 ……本当だ。
 「仕方ない」なんて……人の命を奪っといて。サリカさんに言われて、自分が物凄く軽い言い方をするところだったって気付いた。今度から気をつけよう……!
「……もう1日が終わる。今日はもういいだろ」
「……はいっ。そうですね」
 野菜スープを飲み干したノストさんが静かに言った。そういうつもりだったのか、そうじゃなかったのか……まぁどっちでもいいけど、その声が、陰気ムードをゆっくり振り払ってくれる。私は少しホッとして微笑んだ。
 スープカップをコツンとテーブルに置いて、ノストさんはイスから立ちかけ……ふと、私の皿に目を落とす。私の残りメニューは……焼き鳥さんが一欠けらと、野菜スープが残り半分。
「遅ぇんだよ」
「の、ノストさんが早いんですよっ!サリカさんは……って、サリカさんももう全部食べちゃったんですか!?」
「フフ、ほらほら、早くしないと置いてくよ?」
 と、完食したサリカさんも、イスから立って笑いながらそう言ってくる。見下ろしてくる二人の完食者たち……。
「ううう~~!!! ま、待って下さいっ!あ、あと……30秒でなんとか!」
「15秒だ」
「はぐあ!む、無理ですってばぁ~!そ、それこそ大食いチャンピオンじゃなきゃ!」
「そうなんだろ?」
「え!? そ、そうだったんですか!?」
「いいから食え」
「あはは、面白いね~君ら」
 す、スルーされたっ……くそぉ!しかもサリカさん、面白くもなんともないですから!
 とにかく、30秒で頑張った私は、お店を出ようとしている二人の後を、席を立って慌てて追った。口の中には、まだ焼き鳥さん。ぎょ、行儀悪くてごめんなさい……。
「おいしかったね~、ステラの手料理」
「わっ、ありがとうございます!えへへ、他人に振舞ったことってないんで嬉しいです♪ ノストさんはどうでしたかっ?」
「普通」
「ホントですかっ? よかったぁ~~っ」
 ノストさんの場合、本気でまずかったら率直に「まずかった」って言うと思うから、大丈夫だったらしい。よかったよかった。
 レストランのドアを開けると、上についているベルがチリリン、と鳴った。一番最後に出てきた私がドアを閉め、とたとたとノストさんの横に移動する。万が一に備えて、この人の隣にいれば大丈夫!とか勝手に思ってたり。

 水の都ならではのオシャレな街灯の下、空を見上げると、真っ黒な空にちらほらと星が見えた。
「夜になっちゃいましたね~……宿屋さん、何処でしょうか~?」
「そうだね、探して勝手に泊まらせてもらうとしますかっ」
「詐欺師がやりそうなことだな」
「あらら、嫌だね~。ちゃーんと代金は払いますよ~?ほら、さっきもちゃんと置いて来たし~」
 いや、さっきの言い方、かなりの確率で、お金払う気なかったような気がするんですけど……。
 幽霊さん達……ううん、魂さん達、かな。彼らがたくさんいる、この大通りを、とりあえず奥へと歩いていく。無心に天を仰ぐ魂さん達。やっぱり……この街の住人さんなんだと思う。
 避けなくても、その姿にはぶつからない。それをいいことに、まっすぐ突っ切っていくお二人。私は、魂さんをすり抜ける勇気がないから、わざわざ避けて歩いてるんだけど……そのせいで距離がどうしても開いちゃう。結果、私だけなぜか駆け足。うう……。
 しばらく歩く……というか走ると、レストランと同じ通りに店を並べている宿屋さんを発見!多分、前の二人はもう見つけてるな~と思いながらも、私は言った。
「宿屋さん発見です!じゃ、今晩はここで……」
 越しましょう……と、私が言おうとしたのを、遮った声。

『見つけたわよ』

 ……それはまるで、大聖堂にあったパイプオルガンのような、不思議な響き。
「え……?」
 耳に聞こえた……というより、響いたその声に、私は後ろを振り返って……声を失った。
 さっき、私達が歩いてきた通り。そこにいる魂さん達に紛れるように、いつの間にか、さっきまではなかった影があった。
 ひょっとしたら引きずりそうなほど長い、ふわふわ波打つ金髪。ピンクのドレスのような可愛いワンピースに身を包んだ女の子だった。やっぱり半透明の。年は、同い年くらい……かな。
 でも、驚いたのはそれだけじゃなくて……というかむしろ、そんなことに驚いたわけじゃなくて。
 その子の、体の右半分。
 右眼は、細長い蛇の赤い瞳。
 右腕は、白い羽毛が美しい鳥の翼。
 右足は……強靭な獅子の足。
 そんなふうに、部分的に3種類の動物の体を持つ、女の子だった。
「蛇に、鳥に、獅子……?君は、一体……」
 私と同じ理由で驚いているサリカさんが、女の子に問いかけた。ノストさんは、目をくれただけで大して動じてない。でも、彼女には近寄ってはいけないと、私ですら察した。
 異形はともかく可憐な外見とは裏腹に、まるで刃のような攻撃的な雰囲気をまとっていた。人間の左橙眼と、蛇の右赤眼。アンバランスな鋭い視線が、私を見据える。
『アンタもいたのね、ステラ』
「えっ……?」
 私のことを知っているように、声をかけてきた。しかも、名前まで呼ばれて。
 ノストさんとサリカさんが、説明を求めるように私を振り向く。でも私もわからないから、二人を困惑した目で見返すだけしかできなくて。
 どういうこと?何でこの子……私のこと知ってるの?それとも、私が忘れてるだけ……?
「貴方は……誰なんですか?何で、私のこと……」
『よく怖気づかないで、この街に入ってきたものね。いいわ……ここで消してあげる!!』
 色濃い憤怒の気配が膨れ上がった。私の声を無視し、憎悪のこもった声で女の子が言い放ち、人間の左腕を振り抜く。
『侵入者を消しなさい!全員ね!』
 何かに命令するように、高らかにそう言った。
 ……すると。
 周囲にたくさんいた魂さん達の虚ろな目に、突然、少女と同じような山吹色の光が宿った!そして、今まで自分から動くことなんてなかったのに、魂さん達は一斉にこちらを向く!!
「う、うひゃあ!? や、やっぱり、たた祟りがぁああ!!」
 ぎゃあああっっ、のの呪われる~~!!!?
 真上に高く飛び上がった私は、我ながらこれ以上ない!ってなくらい素早い動きで、ノストさんの服をガシッと掴んだ!ノストさんは、すでにジクルドを出して警戒してる!さ、さすが……状況を理解するのはともかく、敵って認識したら動くって感じですか。
 サリカさんは、周囲を取り囲む無数の光る瞳を見渡してから、魂さん達を透かして見える例の女の子に悟った声を投げかけた。
「そういうことか……ようやく襲ってきたねぇ、幽霊達。主の命令がないと動けない操り人形ってわけか。街をこんなふうにしたのも君か?」
『そうよ。魂を覆う、身体という器を取り払った、街の人間達を見た感想はどう?』
「率直に言うけど悪趣味だねぇ。元には戻るのかな?」
『戻るわよ。私の力を失わせることができたならね。でも、私のところまで来れるかしら?』
 女の子は挑発的に笑って、すーっと地面を滑るように去っていった。残されたのは、たくさんの魂さん達に取り囲まれたままの私達三人!
 囲まれた私達は、ジリジリと近寄ってくる魂さん達によって、ジリジリと宿屋さんの壁に追い込まれる。魂さん達は、チャンスを窺うようにじっとこちらを見つめたまま、襲ってこない。それが逆に不気味で!
 魂さん達は武器なんて持ってないけど、相手は霊体。きっと、こっちからの攻撃は当たらないんだろう。なのに、あっちからの攻撃は当たるらしい……という噂!それなら、引っ掻かれるだけでも結構やばいかも……!
「の、ノストさぁあんっ、どうするんですかぁああっ」
「困ったねぇ……ノスト、行けるかい?」
「てめぇがやれ」
 パニック状態の私をおいて、サリカさんとノストさんは到って平静。さ、さすが……二人とも冷静すぎぃ!
 魂さん達から目を離さないまま、ノストさんが面倒臭そうに返答する。それにサリカさんは、おだてるように言った。
「つれないねぇ。お前の剣の力が見たいからだよ。反射条件的かもしんないけど、せっかくジクルド出したんだから、やっちまいなよ?」
「………………」
 …………え?
 ということは……話の流れからして、もしかして、ジクルドで一気に魂さん達を消すつもり!?
 ジクルドは、ただ消すのみ。すべてを無に帰すだけ。その場で、一瞬で。
 この魂さん達は、オルセスで普通に暮らしてた人達だから!そ、そんなことしたらっ……!!
「だ、ダメですっっ!!!」
「ステラ!?」
 私はとっさに、ジクルドが握られているノストさんの腕にしがみついた。予想外の私の行動に、サリカさんが動揺した声を上げたのが聞こえた……その瞬間。
 チャンスと言わんばかりに、今まで微妙な距離を置いていた魂さん達が一斉に襲いかかってきた!!
「離せ!」
「嫌です!」
 今まで魂さん達が怖かったけど、不思議と、この時は怖くなかった。
 ノストさんが、苛立たしげに舌打ちしたのが聞こえた。空いていた手で胸倉を引っ掴まれて手荒く引き離され、ジクルドを使うのを私は許してしまう。
 振り上げられた白銀のジクルドが、昏い空にはっきりと映えた。振り下ろされたジクルドから放たれた、不可視の衝撃波。魂さん達は、ぶわっと姿が霞む。
 それから、背中に腕を回された感覚がしたと思ったら、髪が風をなびいて揺れるのを感じた。どうやら……ノストさんが、私を片手で抱きかかえて走っているらしい。
 その状態で、彼が走りすぎる後ろを見やって……目を見開いた。
 そのまま消えると思っていた魂さん達が、霞んだ輪郭を再びはっきりさせて、滑るように私達を追ってきた!
「へっ……?!」
 う、うそ……何で?! ってことは……消えてない、ってこと?
「この馬鹿が……お前だけならまだしも、俺を殺すつもりか」
「だ、だって!あの人達は、オルセスの人達なんですよ!? それなのに消しちゃうなんて……人を殺しているのと、同じなんですよ?!」
 上の方から、ノストさんの凄く迷惑そうな声。その声音に私は腹が立って、強く言い返した。
 ノストさんだって、わかってるはずなのに。そんなの、躊躇いもなく人を殺そうとしているのと同じだ……!
 しかしノストさんは……相手にするのも面倒臭そうな、とても呆れた声で私に言った。
「死んでればよかったわけか」
「……!」
「考えなしに喋んじゃねぇよ」
「…………は、い……」
 ……そういうことなんだ。
 取り囲まれた時、大人しく私達が死んでいれば、誰も消えることなんてなくて済む。
 でも、私達は……死にたくなかった。死にたくなかったから、強行突破したんだ。……まだ、生きたかったから。
 自分が生きるために、他者の命を喰らう。それは自然の中では当然の摂理だ。食べ物も……人の命も。
 私が言っているのは……綺麗事なのかな。

 

 

 

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「眠くなってきましたね……」
 ショボショボしてきた目を擦りながら、私は隣のノストさんに言った。
 逃げる途中、たくさんの魂さん達がいる大通りを走ってきたわけだけど……その道端の魂さん達も、私達が通りすぎた途端、まるでスイッチが入ったみたいに追ってきた!だから、最後には物凄い数の魂さん達に追われていた。
 その大群から逃げに逃げまくったら、しばらくして魂さん達はその場で止まった。あの不気味な瞳の光も消えてたから、なんだか制限時間つきらしい。
 とりあえず、そのイベントだけで街全体のほとんどの魂さん達を1箇所に集められたから、その場所以外のところには魂さん達はまったくいなくなっていた。

 で、今。私とノストさんは、あの女の子に見つかって、また魂さん達に追いかけられたら厄介だから、念のためってことで……水道の小橋の下の微妙なスペースに隠れていた。並んで座ってます。十分に立ち上がることもできない小さな空間だけど、周囲には魂さん達もいないし、ちょっと安心。
 もう夜。いろいろあった後だし、私はもうヘトヘトだった。私と違って、あまり眠たそうな様子のない、あぐらで座って壁に寄りかかっているノストさんは、腕を組んで一言。
「寝りゃいいだろ」
「そうですけど……」
 でもノストさんも、さすがにあの大群に追われて気疲れしているらしく、面倒臭そうに身も蓋もない答えを返してきた。だからか、私もテキトウな返事。
 魂さん達から逃げ出す時に、私はノストさんの妨害してたから、ノストさんはとっさにそのまま私を連れて逃げてくれた。本当に、感謝感謝ですよ。多分、私だったら途中でバテてただろうし……何より、足遅いから!追いつかれちゃいそう!
 だけど、サリカさんとは、その時に離れ離れになっちゃった。サリカさん、大丈夫かな……ノストさんに聞いたら、「やばくなったら強行突破するだろ」。確かに、ユスカルラ持ってるしね。うん、多分そうなんだろうけど……やっぱり、心配だなぁ。
 ……あ、そういえば。
「ノストさん、さっき……ジクルドの力、加減とかしたんですか?魂さん達、消えてませんでしたけど……」
 今、気付いたけど、確かにノストさん自身もあまり疲れてるようには見えない。気疲れはしてるけど。
 強い力を使う時は、かなり消耗激しいみたいだけど……スロウさんの時みたいにね。今回は平気らしい。やっぱり、アレは手加減したんだ。
 ノストさんは、妙な間を置いてから答えた。
「行動不可にさせるくらいはできるらしいな」
「……私の質問は無視ですか。どうして消さなかったんですか?」
「消してほしいのか?」
「そ、そうじゃなくて!何て言うか……ノストさんにしちゃ、意外だなぁって」
「………………」
 ……ノストさんは何も言わず、溜息を吐いた。
「え、ええっ?! な、何でそこで溜息なんですかッ!」
「お前の目は本当に節穴だな……」
「ど、どういう意味ですかッ!っていうか、何が言いたいんですか!」
「今までの俺の行動を見といてそれか」
「い、今までの、ノストさんの行動……?」
 へ?へ?? ど、どういう意味だろ……えっと、今……私は、ノストさんにしちゃ珍しく消したりしないんだって言ったから、それ関係のことで……。
 ……あ、あれ?そういえば……ノストさんが、人を殺したり消したりしたことって、あったっけ……?全部、峰打ちとか、そんくらいだったような……スロウさんの時はともかく、一度もないよね……!
「…………ご、ごめんなさい……ノストさん、人を殺したりしたことって、ないですよね……」
 彼が言いたいことがなんとなくわかって、私が本当に申し訳ない気持ちで謝ると、彼は「そういうことだ」と呆れたように言った。
 ……なんか、そう考えると意外かも。何で私、そう思ったのかな。普段が普段だから?うんうん、やっぱり普段の行いが物を言うよね!

 それにしても……ふわぁ、眠いなぁ……ノストさん、あんなに走り回ったのに、眠くないのかな……?そんなことないよね……私が見抜けないだけだよね。
 あくびを噛み殺して、私はその拍子に滲んだ涙を拭いながら聞いてみた。
「ノストさんは、寝ないんですか……?」
「寝てられる状況かよ」
「でも、体に悪いですよ……?」
「慣れてる」
 慣れてるって……どうして慣れてるんだ、寝ないことに。意外と、指名手配されてた時とか、かな……。
 やっぱりノストさんは、いつ襲ってくるかわからないから警戒してるらしい。でも、きっとノストさんも眠いのに、私だけ寝るってのも、なんか……。
「じゃあ……私も起きてます」
「はぁ?」
「なんか、悪いですし……」
「……勝手にしろ……」
 と、ノストさんは投げやりな口調でそう言った。彼の隣に膝を抱えて座る私は、「頑張ります」と言って、縮まってくる視界で、月光でキラキラ光る目の前の水面を見つめて、睡魔と格闘する。

 にしても……あの女の子……誰、なんだろ……。
 私のこと、知ってた……でも、私は……あの子のこと、知らない。
 とりあえず……わかったのは、あの子が……この街を、こんなふうにした、張本人だってこと……くらい。
 明日も……追いかけられるのかなって、考えると……寝とかなきゃ……体力、持たないって……わかってる……けど…………、………………………。