raison d'etre

62 2つの理由

―――ステラ―――

「…………はい」
 過去の世界が消え去って、元の黒い世界……ユグドラシルになった。そう思ったら、独特な響きを持つ神様の声が私を呼んで、私は反射的に返事をする。
 祝福される希望アテルト=ステラ……私の、こと。
 グレイヴ=ジクルドを破壊するために生み出された、破壊者。

―――あの記憶の出来事のすぐ後 あの男ヒースは死んだ―――
―――そしてグレイヴ=ジクルドは 分離してしまった―――

「あ……それって……」
 3年前……カルマさんから聞いた、スロウさんがヒースさんを殺してしまった出来事。私が生まれたすぐ後だったんだ。
 その事件で、グレイヴ=ジクルドは、ジクルドとウォムストラルに分かれて、さらにウォムストラルはいくつかに割られてしまった。

―――あの頃から すべてが狂い始めた―――
―――あの男が死んだことで そなたに最も近い位置にいたノーディシルが減った―――
―――そしてそなたは 3年をかけ人格を形成し あの男のいない家でようやく覚醒した―――
―――己の正体も世界も 何も知らぬ あの男の娘として―――
―――それが 半年前だ―――

「あれ……?でも、それなら、ヒースさんがいないって気付くはずですよね?」
 まさか最初から、ヒースさんが死んだって記憶を私に与えたわけじゃないだろう。だって私が作られた時、ヒースさんはまだ生きていたんだから。
 よく考えてみれば、割れたウォムストラルが形見の石だって言うのもおかしい。受け取ったって記憶はあるけど、多分、それも与えられたもの。でもウォムストラルは、私に記憶を与えた時はまだ壊れてなかった。
 自分が作り物じゃないって否定するわけじゃないけど、ちょっと疑問に思ったから聞いてみた。

―――そなたの記憶は あの娘ルナの記憶が基盤になっている―――
―――あの時 あの娘の両親は すでにいなかった―――
―――基盤となった記憶 作られた記憶 混ざり合ってそなたはそう認識したのだろう―――

「私の両親は、もういない……と?」
≪珍しいことじゃないわ。生きている人間でも、知らぬ間に書き換えてしまう記憶はあるもの。記憶とは……頼りないものよ≫
 それでも釈然としないまま、私が言うと、横からカノンさんが諭すように言ってきた。何処か寂しげな口調。……カノンさん、前に何かあったのかな。
 神様が淡々と言う。

―――余は そなたが己の【真実】に気付かぬまま 時が経つのかと恐れた―――
―――余が直接すべて教えることで そなたを壊させるわけにはいかなかった―――
―――待つしかなかったのだ そなたが自身に疑問を持つようになるまで―――

「………………」
 ……私が……何も知らずに、アルフィン村で過ごしていた頃。神様は、このユグドラシルで、私のことをずっと見ていたんだ。不安な想いを抱いて。
 今なら、アルフィン村のみんなが冷たかった理由がわかる。私が最初から、あの村の一員じゃなかったからだ。ヒースさんに連れてこられた……よそ者。
 神様の声は、淀むことなく流れていく。ユグドラシルの『樹』……循環する水が作り上げる、水の樹のように。

―――だが その狂い動きを止めた歯車を 再び動かしたのも あの黒き者だった―――

「黒き者……?スロウさん……ですか」

―――あの黒き者は あの男からすべてを聞いた者の一人だ―――
―――そなたを追放させ 泳がせることで グレイヴ=ジクルドの完成を目論んでいる―――
―――破壊者であるそなたのもとに それは集まると踏んだ上でだ―――

 あ……だからスロウさんは、私達を追いかけてこないんだ。「存分に利用させてもらう」って……こういうことだったのか。
 なら、グレイヴ=ジクルドが完成したら……スロウさんは、本気で来る。
「……神様は……最後のウォムストラルのカケラが何処にあるか、わからないんですか?」
 その場所がわかるなら、私達がそれを手にした時、スロウさんとの……戦いが、始まる。
 私の慎重な問いに、神様は淡々と自信たっぷり(?)に返してきた。

―――わからぬとでも言うのか―――
―――案ずることはない それはそなたのすぐそこにまで来ている―――

「……え?それって……」
≪文字通りよ。わざわざアンタが探さなくても、カケラはあっちから集まってくるわ。最後のカケラも、すぐそこにある≫
「そ、そうなん……ですか?」
≪母様は、アンタにそういう細工をしたらしいから≫
「………………」
 なんか……不思議な気分。そういうふうに作られたとしても、自分のところに、グレイヴ=ジクルドのカケラが集まってくるなんて。
 ……あれ?そういえば、グレイヴ=ジクルドって、神様が置き忘れたんだっけ?どうしてだろ?
 ふとそう思ったら、やっぱりそれを読んで神様が言う。

―――アルトミセアは そのように伝えたようだな―――
―――余は置き忘れたのではない アルトミセアにあの剣を託したのだ―――

「アルトミセア様に……託した?」
≪そうなの……?≫
 思いもしない言葉に、私は目を瞬いた。カノンさんも知らなかったらしく、驚いた声が隣からした。
 グレイヴ=ジクルドを託した?うそ?それって、私が聞いたことと全然違う……。

―――元より エオスには それ以後干渉しないつもりでいた―――
―――アルトミセアは 余が創りし絶対領域リュオスアランによって 何者の攻撃も受けることはない―――
―――だからこそ余は 園界エオスの監視者ルオフシルたる 信用に足るあの者に グレイヴ=ジクルドを託したというのに―――

「何か……あったんですか?」
 ほんの少しだけ、寂しげで切なげな気持ちが伝わってきた。声や口調がそうらしいってわけじゃなくて、何と言うか……気配、かな。
 リュオスアランって、神様が直々につくったものだったんだ……つまり、アルカはオースが結集してできるけど、リュオスアランはボルテオースでできているってことだ。どうりで普通のアルカと格が違うわけだよ。だからアルカの攻撃も弾くし、それを身につけていれば神様の啓示も届きやすい……ってところかな。

―――いかに聖女とは言え あの者も人間である以上 仕方なかったことではある―――
―――アルトミセアは人目を気にかけ グレイヴ=ジクルドを手放した―――
―――そして人々にはそう伝え 自身は早々に一線から退き 後世の者達に希望を託した―――

「え……?人目を気にかけ、って……どういうことですか?」
≪……母様、それは私も初めて聞くわ。どういうこと?アルトミセアも、私と同じように異形だったっていうの?≫
 神様が紡いだ言葉に私が問うと、カノンさんも重ねて聞いた。人目を気にしてってことは……確かにカノンさんのように、何か人と違うところがあったんだろう。もしかして、アルトミセア様の記録が全然残ってないっていうのも、それが理由……?
 神様は、私達の疑問に返事をくれなかった。答えたくないのか、それともアルトミセア様に口止めでもされていたのか……何事もなかったかのように、神様は話を戻す。なんとなく問い詰められなくて、私達も、それ以上は追及しなかった。
 荘厳な神様の声が、鐘のように世界に響く。

―――破壊者ステラよ グレイヴ=ジクルドが完成した暁には―――
―――何よりも先に それを壊してほしい―――

「………………」
 ……何よりも、先に。グレイヴ=ジクルドを壊せ。
 それは……ウォムストラルとジクルドの消失でもある。
「……えっと……どうしても、ですよ……ね」
≪どうしたの?≫
「………………」
 遠慮がちに聞く私に、カノンさんが訝しげに声をかけてきた。私は口を閉ざして……静かに、決意を固めた。
 ……わかってる。
 私の存在意義は、私の生まれたわけは。そのためなんだって。
 だから、「破壊者」としての私がそれを果たすのは、当然なんだって。
 わかってる。でも……、
 例え作られた記憶だとしても、ウォムストラルが大事だって思う気持ちは変わらない。
 できるなら、失いたくない。
 同じように、聞いたことはないけど、ノストさんも3年間使ってきたジクルドがきっと大事だって思ってる。
 できるなら、奪いたくない。
 それは、今、ここにいる私自身が想うこと。
 それに……そしたら、グレイヴ=ジクルドに宿ったラルさんやジクルドさんは、一体どうなるの?何のために生まれてきたの?危険になったから二人を壊すなんて……間違ってる気がする。

 ……わかってる。綺麗事だ。
 大事なのは、エオスの安定。グレイヴ=ジクルドって言う強大な力を持った人間が、現れないこと。
 だけど……、
「……私、それでも……グレイヴ=ジクルドを壊してしまうことに納得できません。確かに、人の手に渡ったら大変かもしれないですけど……壊すより、もっと、違う方法もあるんじゃないですか?」
 私は……そう思いたい。綺麗事だからって、諦めたくない。
 神様は、何処か嘆くような口調で言う。

―――世を正すはずの破壊者ともあろうそなたが そう言うか―――
―――それは幻想 理想論に過ぎぬ―――

「わかってます。でも、綺麗事で何が悪いんですか?」
 理想論、幻想、綺麗事。……全部、聞き飽きた。
 だから私は、生みの親である神様に、不敵な笑顔でそう言ってやった。
≪ステラ!? アンタっ……!≫
 カノンさんの驚いた声が真横からする。だけど私は、まっすぐ正面を見据えていた。
 ……決めた。
 私は、私のやり方で。考え方で。信念で。
 ノストさんみたいに、自分の信じたことを貫いてみせる。
 グレイヴ=ジクルドを、壊さなくても済むように。
 神様が反対したって、全然怖くない。だってグレイヴ=ジクルドの破壊権を持つのは、私だから。私が動かなきゃ、グレイヴ=ジクルドは壊れない。

―――生みの親である 余に逆らうか―――

 少しの間を置いて、神様がおかしそうに声を響かせた。

―――まさか これほどまでにまっすぐな子になるとはな―――
―――あの娘に そしてあの男に よく似ている―――

「ルナさんと、ヒースさんに……?」
 確かにルナさんもヒースさんも、まっすぐな人だ。けど、私は……そんなこと、ないと思うけど。
 そういえば……ヒースさん、私を引き取ってくれたけど……怖くなかったのかな。自分の弟子さんに似てる存在が……。
 ……そう思うと、寂しい。ヒースさんがお偽父、、さんだっていうのはわかったけど、それでも……。

―――あの男は そなたの存在を恐れたことも 疎んだこともありはせぬ―――
―――あの男の伴侶もまた―――

「……え?ヒースさんの奥さん……エリナさん?彼女は……私を見たことがあるんですか?」
 私の想いに対してそう言った神様の言葉は、言外でそのことも言っていた。
 エリナさん……顔すら知らない、お偽母さん。ううん、お偽母さんとは違う……かな。ヒースさんは、私の記憶に、エリナさんをお母さんとして与えなかったから。
 ヒースさんがアルフィン村に私を連れ帰った時に、会った?のかな。その後、ヒースさんは3年前の事件で亡くなっちゃうから……、
 じゃあ、ヒースさんがアルフィン村を去った後、眠ったままの私を見守っていてくれたのは……エリナさん……?
 ……神様は、何も答えなかった。ただ、話を進める。

―――よかろう 確かにあれを破壊できるのはそなただけだ 好きにするがよい―――
―――しかし そなたが諦めた時や 限界を感じた時には―――

「…………はい。私が……グレイヴ=ジクルドを、壊します」
 まっすぐ前を見て、はっきりと言う。誓う。
 本当の本当に、ダメだったら。
 ラルさんを、ジクルドさんを。大事なもの達を……壊す。
 破壊者である、私の手で。

―――ならば行くがいい 神子のそなたなら エオスへ帰ることもできよう―――

≪難しいことじゃないわ。ただ想えば、それが形になる。アンタの力も、この世界も、そういうものよ≫
「はいっ……!ありがとうございますっ、神様、カノンさん!!」
 こんなワガママを聞いてくれた神様と、静かに背中を押してくれたカノンさんに、私は伝え切れないほどの感謝を詰め込んで言った。それから私は目を閉じる。
 まだクロムエラトを十分使いこなせるわけでもないし、このユグドラシルがどういう場所か理解したわけじゃないけど……想えばいいのなら、いくらでも想う。

 ……待たせてるんだ。
 だから帰らなくちゃ。
 エオスに。
 彼の隣に。

 帰りたい。

 瞼を閉ざしているから真っ暗な世界が、なぜか真っ白になって、ふわっと足元が軽くなる。
 でも不思議と、何処か知っているような感覚で。私は目を閉じたまま、その感覚に身を委ねた。

―――ステラ 創生神語で「星」の名を持つ子よ―――
―――願わくば グレイヴ=ジクルドの破壊を―――

 神様の声が、遠く、くぐもって聞こえて…………

 

 

 

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 ぐっと、体が下に引っ張られる感じがして、戻ってきたんだってわかった。
 それでもまだ体が軽い。目を開けて見てみると、私は半透明の姿になっていた。そんな私を、背後の泉からあふれた白い燐……濃いオースが、補強するように集まってくる。というか……このオース、多分、元々私を構成していたボルテオースだ。
 少しの時間を置いて、姿が完全に実体化してから、私は顔を上げ、
「ただいまですノストさんっ!!」
 笑顔で、正面の木の根元に座っていたノストさんに言った。
「ほら、言ったでしょう!? 私っ、ちゃんと帰ってきましたよ!迷子になんかなってないですよ~!!」
 ノストさんの方に近寄りながら、要約すれば、「一人でちゃんとできたよ!」ってことを得意げに言ってみる。こ、子供か私!でもでも、胸を張って言う。
 凄く自慢げな私を、ノストさんは一瞥してから、無言で立ち上がった。そして…………何も言わずに背中を向けて、歩いていく。
「…………え、えっ!? ノストさんッ?! ノーコメントですか!? あの何か言って下さいよ!!」
 「馬鹿にしては~」系の言葉を待ってた。……要するに、褒めてほしかった。いつもの毒舌で、褒めてほしかったんだ。
 だから、まさかのノーコメントはショックで、寂しくて。とにかく、置いていかれそうになって、慌てて駆け出しながら叫ぶ。
 ふと、ノストさんが振り返った。えっ?と歩調を緩めると、彼は軽く片手で何かを放り投げてきた。あわあわ落とさないようにキャッチすると、それはウォムストラルだった。
「……え、あ……ありがとう、ございます……?」
 ……わけわかんない。顔を上げて、ぼんやりととりあえずお礼を言うと、ノストさんは私を睨むような目付き(いつもだけど!)で見て、また先を歩いていく。
 慌ててウォムストラルをポケットにしまって、ノストさんを追いかける。脛に当たる草がくすぐったい。なんとかノストさんの隣に並んで、彼の横顔を見てみると、目はまっすぐ前を見ていて、私には見向きもしない。
 ……え……もしかしてノストさん……でも何で?何で~!?
「……あの~、ノストさん……もしかして……怒ってます?」
「………………」
「え? ……あ、あの……お、怒ってますよね?」
「………………」
「う、うう……え、えと……できれば、何で怒ってるとか、聞きたいん……ですけど……」
 む、無視で反撃してきた……!初めてのパターン!うああっ、これならまだ「馬鹿が~」とか言われた方がマシだ!凄くつらい!
 何か答えて~!と祈りながらそう聞いたら、ノストさんは、今度はぱたっと足を止めた。前にたたらを踏んで、私も止まって彼を見ると……彼はこちらを、じーっと睨んでいた!すんごい怖い目付きしてます。ひゃああ怖い!
 ……かと思ったら、その瞳がすっと閉ざされた。え?と思ったら、ノストさんは小さく息を吐いて。
「馬鹿がでしゃばるからだ」
「……え、え?? それ、どういうことですか?」
「オマケに凡人の分際で、俺を出し抜くなんざいい度胸だ」
「へっ!? な、何がですか……って、あ……」
 いつもみたいに馬鹿にされて、不覚にもちょっとホッとしたけど、全然脈絡がない言葉にチンプンカンプン。でもすぐ、何のことを言っているか思い当たった。
 馬鹿がでしゃばる。
 凡人の分際で出し抜く……
 ……多分、私も何かできるってことを見せたくて、ノストさんの許可(?)なしに、勝手にユグドラシルに行ったことだ。
 私がでしゃばって、ノストさん出し抜いたから、ノストさんは怒ってる……?
 うん……そだね。相談なしに勝手に行動されたら、誰でも怒るか。
「あの……ごめんなさい。で、でもでも、私、行く前にちゃんと謝りましたよっ!」
「行く前から謝るなら、最初から行くな」
「…………そ、ですね……はい」
 なんか謝らされてるのが気に食わなくて、思わずそう言い返したけど、ノストさんの強い声がぴしゃりと返ってきた。少し言葉を失ってから、確かにそうだと思って小さく頷く。
「勝手に動くな。てめぇが勝手に動くと、事が面倒になる」
「……は、い……」
 いつの間にかうつむいていた私は、ノストさんの厳しい声に、そうとしか返せなかった。
 なんか……ノストさん、怖い。もうさっきみたいな怖い目付きはしてないのに、怖いって感じる。今まで見てきた怒ってる姿とは、また違う。何だろう……?
 そう思っていると。また、彼が小さく息を吐き出すのが聞こえて。下を向いていた視界に、見知った靴が入り込んできた。へ?と顔を上げたら、ノストさんは目の前に立っていた。
 ノストさんは、何処か厳しい目で私を見下ろして……、
「―――――………馬鹿が」
「……え?」
 珍しいくらい長い間を置いて、小さな息混じりにそうとだけ言った。彼らしからぬ不思議な言動に目を瞬く私の見る前で、彼の厳しい目付きが緩む。
 ……今、ノストさん、言葉探してた?しかも、探せなくて、とりあえずそう言った?こんなの、初めてだ。
 さっき怒ってたと思ったら、今度は、言葉を探せないでいるノストさん。なんか……変な感じ。なんだかノストさん、少しずつ変になってるような気がする……変な意味じゃなく!
 そういえばタミア村に行く途中も、ノストさんが少し変で……どうしたんですかって聞いたら、私のせいだって言われた。じゃあ今、変なのも、私のせい?なら……心配……してくれたのかな。うーん……相変わらずわからない。
 ふと、ノストさんが、気付いたように言った。
「回復が早いな」
「……へ?? あ、そういえば……」
「馬鹿だから早くて当然か」
「う、嬉しくないですよぉ……」
 何のことかと思って、泉に入る前、凄くヘトヘトに疲れていたことを思い出した。確かに……今、疲れてない。筋肉痛もなくなってるし……ユグドラシルに行く時、体を構成しているオースが一度分解された?みたいだったから、疲れもリセットされた……ってことなのかな?
 すっかりいつも通りなノストさんの毒舌に、ホッとする。うん、やっぱりノストさんはこーでなくっちゃ!
「ノストさんはまだですか?」
「はぁ?いつの話だ」
「ってことは、私より先に、とっくに回復してたってことですか?でも……あれれ~?それだと、ノストさんは、私よりばッ……」
 その先を言いかけたら、ノストさんの目がすっと細くなったから、びくっとして言葉を止める私。それからノストさんは、私をじっと見据えて。
「何だって?」
「……わ、私より……ば、ば……」
「何だって?」
「……ば……」
「何だって?」
「…………ご、ごめんなさいぃ……」
 これぞ言外の圧力。下手な脅し文句より、こっちの方が怖いよぉ……おんなじ言葉で聞き返すのやめてほしい!
 わ、わかってるんだけど!ノストさんが馬鹿じゃないってことくらい!でもでも、ノストさんの論で行ったらそーなっちゃうなぁ……っていう軽い冗談のつもりがッ!
 私を見つめたままそう言うノストさんの圧力に、私が負けて泣く泣く謝ると、ノストさんは視線を外して一言。
「馬鹿は訳もなく謝るのか。忙しいな」
 つまり、「何を謝ってる?」。

 ………………。

「…………ちょ……今、すっごいムカって来ましたよ!謝らせといて何ですかそれ!?」
「言ってねぇぞそんなこと」
「そ、そーですけど!いかにも、そういうオーラ出してたじゃないですかっ!ううくそぉ、今に見てなさいですよ!そのうちノストさんをハメてやりますからッ!!」
「頭の足りない馬鹿には無理だろうな」
「甘く見てると足元掬われるんですよ?やってやりますからね!」
 びしぃ!と、近距離で背の高いノストさんを指差して、宣言して。……私、こんなこと言うの初めてだ。しかも相手はあのノストさん。……なんだか不思議な気分。
 それに対して、彼は、頬を膨らました私の横を通り過ぎざま。行動とか会話とか、私で遊んでる(んだと思う……)時の、ほんのちょっとだけ楽しそうな口調で。
「やれるもんならやってみな」
「……え……」
 ……私の方がびっくりした。
 私が身の程知らずのことを言う時、ノストさんはいっつも呆れるか、テキトウにあしらってたのに。
 一瞬、わけわかんなくなって、ボーっとしてから。私は慌てて振り返り、離れていく背中に言ってやった。
「い、言いましたね?言いましたね!? 後悔しても知らないんですからっ!!」
 ……ノストさんをハメるなんて、自分で言っといてなんだけど、ちょっと無理だ。でもなんだか……うん、悪くない気分。
 大して深い意味はないのかもしれないけど、私のこと、認めてくれたみたいで。
 クロムエラトは、想いの力。だからきっと、ノストさんにできないことを、私はできる。
 ノストさんを支えることだって、きっとできる。……ううん違う。支えたいんだ。

 それがきっと、今、「ステラ」としての私が、ここに在る理由。