nostalgia

「剣が泣くと思いませんか?」
 暗めの青い髪の、線の細い青年が、妖しい笑みを浮かべて言った。
「力あるものは、それを誰かが使ってこそ、真価を発揮する。それを壊してしまおうなど……愚かだと思いませんか?」
「愚かなのはお前だ、スロウ。お前は、あの剣の恐ろしさをわかっちゃいねぇ」
 少し長めの灰色の髪を後ろで束ねた、青年より年上の大柄な男性が、厳しい目つきで青年を諌める。
「確かにグレイヴ=ジクルドは、剣の中では、これ以上ないほどの業物だろうよ。だがそれは、危険と隣り合わせの力だ。人間が安易に使っていいモンじゃねえ」
「誰がそう決めたのです?神が去った地に、置き去りにされた剣……それを、その地の人間が使って何が悪いのです?」
 青年はおかしそうに笑いながら、余裕のある口調で男性にそう言う。それに対し、男性は何処か諦めたように目を伏せて、ふぅと息を吐いた。
「何を言っても無駄……か」
「そちらこそ、私の言葉に耳を貸すつもりはないようですね」
「そりゃな。あまりにも強すぎる力ってのは、人を惑わせるだけだからな。人のためにも、さっさと壊した方がいいんだよ」
 男性はぶっきらぼうな口調で、そう青年に言った。適当そうに見えて、しっかり己の考えを持っているこの男性は、一度信じ込んだことは曲げない。青年はわざとらしく肩を落としてから、その様子とは裏腹な、楽しそうな笑みを浮かべて言った。
「賛同を得られないとは……非常に残念ですよ、ヒース」
「俺もがっかりだ。お前が力の亡者だったとはな」
 男性が失望したような声で言うと、青年はさらにおかしそうに笑って聞く。
「フフ、なら聞きますが……貴方は一体、私の何を知っていたと言うのです?」
「そりゃもう、ノストを上回るほど素直に喋れない極度の皮肉屋」
「…………ディアノストを上回るとは心外ですね」
「ま、事実だからな」
 青年は少し言葉に詰まってから、肩で溜息を吐いて言った。男性は勝ち誇ったような笑いを浮かべる。
「お前がそこまでして力を求める理由なんざ、見当つかねぇが……意見が衝突した以上、」
「私と貴方は、敵対関係……なら、私とゲームをしませんか?」
「ゲーム?」
 怪訝そうな顔でオウム返しに聞いてきた男性に、青年は「そう、ゲームです」と言ってから説明を始めた。
「ルールは簡単です。存在を立証されただけで、何処にあるかはわからないグレイヴ=ジクルド……それを、先に探し出して手にした方が勝ちです。貴方が先に手にすれば、グレイヴ=ジクルドを破壊させることができる。私が先に手にすれば、グレイヴ=ジクルドは私のものになる……」
「……わかりやすいな。いいぜ、そのゲーム、乗ってやる」

 

 

 

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「……ってわけなんですが。知……りませんよね、さすがに」
「……すみません……」
 両側に長イスがずらりと並べられ、その真ん中を青い絨毯が通る、礼拝堂の中。
 そこに、少し長めの灰色の髪を1つに束ね、青緑のロングコートを着た大柄な男性がいた。背中には、袈裟懸けに背負われた大剣。
 シャルティア中にその名前を轟かせている、剣聖・・ヒース=モノルヴィーその人だ。彼は、手前に立っている小さな少女を漆黒の瞳に映して、最初から諦めたような口調でそう聞いた。
 聞かれた少女は、白い神官服のような上着の下に、臙脂色のワンピースを着ていた。彼女は、自分よりも頭2つ分くらいは大きいヒースを見上げ、申し訳なさそうな表情で答えた。
「詳しい場所は伝えられていないのです。アルトミセアは、その秘密を誰にも話すことなく、亡くなりましたから……」
「アルトミセア様も、グレイヴ=ジクルドが人間の手に渡っちまうことを考えたから伝承しなかったんでしょうね~……さて、どう探したもんかな」
 そう簡単にわかるものではないと最初から覚悟していた。しかし、あまりにも情報が少なすぎる。ヒースは考え込むように顎に手を当てた。

 地図には載っていない、ミディアという名の宮殿。自分の弟子であった青年のゲームに乗ったヒースはまず、一番希望が持てた相手を訪ねに、このミディアにやって来た。
 その相手が、今、目の前にいる――ミディアの主であり、己が所属するグレイヴ教団現セフィスである、フィレイア=ロルカ=ルオフシルだった。
 しかし、たった今、その希望は打ち砕かれた。自分も一応ゲブラーに所属する者だから、聖書だけはかろうじてすべて頭に入っている。……やや曖昧な部分もあるが。それを思い返しても、聖書には大したことは書かれていない。
「すみません、ヒース。わざわざ来て下さったのにお役に立てなくて……」
「気にしないで下さいよ」
 情けなさそうに目を伏せて言う少女に、ヒースは笑ってみせ、彼女の頭に手を伸ばし……、

 バチィッ!!

「っ!」
「っと!あちゃあ、忘れてた……」
 電撃にも似た痛みが手のひらを這った。伸ばした手が不可視の盾に拒絶され、真上に跳ね上がる。
 フィレイアの首からかけられている、二重の輪のペンダント――リュオスアランの仕業だ。ヒースは少しだけ痛めた手首を振りながら、もう片方の手で頭を掻きながら呟く。
 ヒースは、自分より年下で、かつ自分より低い相手の頭に手を置く妙な癖がある。背が同じくらいでも、イスなどに座っていれば同じだ。大半の相手には、かなりうるさがられている。
「だ、大丈夫ですか、ヒース!貴方という人は、そうしていつもいつも……!」
「いやぁ……すみませんでした。つい癖で……」
「もし大事になったらどうするつもりですかっ! ……本当に……今後は気をつけて下さい!」
「……わかってますよ。本当に、申し訳ないです」
 まず最初にヒースの安否を気にして顔を上げ、彼が大丈夫だと見ると、フィレイアは途端に怒った口調で自分より大きい彼に説教し始めた。
 フィレイアは、リュオスアランで他人を傷つけることをひどく恐れている。この怒った様子はその反動だ。それを知っているヒースは、癖とはいえ、彼女を恐れさせたことに対してバツが悪い顔で謝った。
「まったくもう、師匠はフィアをおどかしすぎなんだってば」
 少しだけ気まずくなった二人の間を、おかしそうな笑い声が通り抜けた。二人が声がした方向を同時に振り向くと、ガラス張りの通路へ通じるドアが開いていて、そこに一人の少女が立っていた。
 淡い茶のセミロングに、年の割りに落ち着いているワインレッドの双眸。鮮やかなオレンジ色のジャケットを着た少女だ。
「リュオスアランは、フィアの半径30センチ以内に近付いたものを跳ね返してる。上は……15センチくらいかな。31センチと、16センチくらいまでなら、ギリギリ近付けるよ」
「はぁ?? ルナ、お前なぁ……無茶言うなよ。目測で正確に30センチ測れると思ってんのか?」
「え?私にできるんだから、師匠にできないはずないでしょ?」
 二人に近付いてきながら、逆に不思議そうな顔で言うその少女――15歳のルナ=B=ゾークに、ヒースは「マジかよ」と息を吐いた。その様子を、ルナとフィレイアは顔を見合わせて笑い合った。
「で、師匠。何かあったの?セントラクス所属の師匠がこっちに来るなんてさ」
「あぁ、ちょっとスロウの野郎と、」

「フィレイア様っ!!」

 取り合いゲームすることになったんだ……と言う声は、第三者の声によって掻き消された。
 ルナがやって来たドアとは違う、ミディアの入口の部屋に直接繋がる扉が、バァン!と荒々しく両方開け放たれると同時に、フィレイアを呼ぶ大声。
 扉の向こうに立っていたのは、エメラルドグリーンの髪の高く結い上げた神官服の青年。優しい顔立ちが初対面の人には必ずと言っていいほど女性に間違われるが、れっきとした男である。
「サリカ、どうしたのです?」
「スロウがッ……!!」
 17歳のサリカ=エンディルの、いつもは落ち着いている瞳は珍しく焦燥に彩られていた。ただ事ではないと判断した三人の目に――サリカの背後の部屋に立つ、黒い影が映った。
 その影が微動した瞬間、ルナが声を張り上げた。
「サリカ、危ないっ!!」
「伏せろッ!!」
 サリカに注意を向けていて自分のことに気が回り切らないルナを、ヒースが一緒に前に押し倒しながら叫ぶ。
 ヒースの頭すれすれを、真っ白な光の波が行き過ぎた。
 それが視界から消え去ると、背後で何かが跳ね返るような音と、真上で何かが焼き焦げるような音がした。恐らく、フィレイアのリュオスアランに光が弾かれ、返った光をさらに消滅させたのだろう。
 ヒースは、すぐに体を起こしながらサリカの姿を探した。
 サリカは、扉のところでうつ伏せに倒れていた。あの至近距離で避け切れたのかと思えば……背中が、服の下から剥き出しになっていた。
「サリカっ!!」
「動くなルナ!!」
「で、でもっ!」
 とっさに駆け寄ろうとするルナの腕をヒースは掴んで制した。同期のピンチに、ルナが泣きそうな顔でヒースを振り返る。
「安心しろ、殺しはしない」
 コツ、と靴の音がして、知っている声が響いた。ずっとその人物を見つめていたフィレイアと、ヒースとルナの二人の視線がその影に集まる。
 ――そういえば、初めて会った時から、アイツの服装はいつも黒だった。確かにアイツには黒がよく似合うから、あまり気に留めなかったが……こうして見ると、黒は、周囲の色から浮いて見える。他の色と馴染むことが、一切ない。
 それはまるで――
「……貴方は……自分が何をしたのか、わかっているのですか」
 フィレイアのひどく低い声が聞こえ、彼女はゆっくり歩いてヒースの横に立つ。
 ヒースが立ち上がりながらフィレイアを見ると、小さな肩が小刻みに震えていることに気付いた。大部分の理由は、サリカを傷つけられたことだろう。しかし、他にも理由がある。
 暗めの青の髪に、紫の瞳。黒い神官服を着た、ゲブラー所属であるはずの青年は笑う。
「当然ですよ、フィレイア様」
 彼は、だらんと下げた右腕の先に、柄から切っ先まで黒い異様な刀をぶら下げていた。右側の腰には、純白の柄も見えている。
 その刀を我が物顔で、これまた漆黒の鞘に収めた青年はおかしそうに言う。
「グレイヴ教団第1級封印指定、ラミアスト=レギオルド……今まで発見された中で、最も危険なアルカです。私は元々、双刀使い。そしてラミアスト=レギオルドは、その双刀。不思議な縁だと思いませんか?私のために存在しているようだと思いませんか?」
 両手を広げて愉快そうに言うスロウ=エルセーラに、ヒースが言う。
「自惚れてっと自滅するぞ、スロウ」
「ご忠告ありがとうございます」
 24歳のスロウは皮肉っぽくヒースに会釈した。
 それから、目の前に倒れているサリカには目もくれず、正面に毅然と立つフィレイアを見る。
「それでは、フィレイア様。ラミアスト=レギオルドを頂いていきますよ」
「……力を使っているところを見ると、もう契約した後なのでしょう?」
 ラミアスト=レギオルドは、他のアルカと違って「契約」がある。それを手にしたら一対で使うという、暗黙の契約だ。これによって双刀の力が引き出される。しかし極端に誓いを違えると、その力は二度と使えなくなる。
 フィレイアは言葉を続ける。
「そうなれば、貴方を殺めるしか取り戻す方法はありませんが……その双刀を手にした以上、無理でしょうね。ヒースさえも危ういでしょう。純粋な剣術ならば、ヒースの方が格段に上ですが……」
「フィレイア様は相変わらずご聡明ですね。よくわかってらっしゃる」
「褒め言葉として受けとっておきましょう。ですから、私が貴方に言えるのはただ1つ……」
 15歳とは思えぬ落ち着いた受け答えをするフィレイアは、一度瞑目した。
 スロウも、こんなことをした自分にどんな処分が下されるのか承知の上で、ラミアスト=レギオルドを手にした。その下されるべき言葉を静かに待つ。
 再び少女の目が開き、迷いない意志を秘めた視線がスロウを見据えて、言った。
「貴方は、教団の一員でありながら……教団が収集する危険物アルカに手を染めました。アルカは、万人が手にしてはならぬ混沌時代の遺物……それは教団の人間とて同じ。よって……スロウ=エルセーラ。貴方を教団から破門します。今すぐここから立ち去りなさい。そして今後一切、大聖堂及び聖堂、教会、このミディアへの立ち入りを禁じます」
 グレイヴ教団現セフィスは、丁寧だが有無を言わせぬはっきりとした口調で、彼の破門を宣言した。スロウは、彼女の見事な判断に楽しそうにクスクスと笑ってから、背を向けた。
 彼の後姿は、正面から見た時よりも色が少なくて真っ黒だった。周囲の色と混じることのない漆黒。
 そう、まるで……
 まるで、すべてを拒絶するかのように。

「いいでしょう、わかりました」
 その拒絶する黒が言う。立ち去ろうと前に2歩ほど進んでから、ふと思い出したように足を止め、首だけでフィレイアを振り返った。
「そういえば……ラミアスト=レギオルドを手に取った時、イルミナとサリカに気付かれました。イルミナが私を足止めして、サリカがこうして貴方に事を伝えにやってきたわけですが……イルミナをのしました」
「……!?」
 その言葉を聞いた直後、今まで落ち着いていたフィレイアの様子が一変した。途端に真っ青で愕然とした表情になり、大きくその瞳が見開かれる。
 イルミナ=ロルカ。彼女の、たった一人の兄が倒されたと聞いて。
「あまり強くは打っていませんが、2階の廊下で倒れていますよ」
「お兄ちゃんっ……!!」
 それを聞くなり、さっきまでの冷静さは何処へ、フィレイアは状況すらも忘れて駆け出した。何もしてこないスロウの横を走り抜け、この礼拝棟の2階へと続く階段へ向かう。
「……スロウ……君、本気なの?」
 フィレイアの姿が階段の上で消えるのを見届けていると、ルナの呼ぶ声がした。先ほどフィレイアが立っていた辺りに立ったルナは、背中を向けたままのスロウに言う。
「本気で……私達の敵になるつもりなの?私達……仲間じゃなかったの!? 師匠と私、君、カルマ、フィア、サリカ、イルミナ……!みんな、仲間だったんじゃないの!?」
 少なくとも、私はスロウのこと、仲間だって信じてた。
 楽しかった。師匠と、スロウと、カルマと、フィア、サリカ、イルミナ、私……教団が軸の、大切な、大切な仲間達と過ごした日々。
 皮肉屋のスロウは、何でも見抜いてしまう師匠に敵わなくて。そんな師匠は、駆け引き上手なフィアに敵わなくて。二人とも、よくからかわれてた。
 楽しかった、あの日々が。
 楽しかった、あの記憶が。
 偽りだというの?

「……そう、仲間だった・・・。それに変わりはない」
 ルナが悲痛な声でかつての仲間に訴えると、背中を向けていて彼女には見えなかったろうが、スロウは一度目を閉じ、何処か懐かしむようにそう言った。
 ――瞼の裏に、色鮮やかな昔の日々を思い描いているかのように。
 その日々と決別するように、スロウは瞼を上げ……自分の肩越しに、言った。
「だが、それは昔の話だ。これから先は、私とお前達は敵同士。それが変わることも、ない」
「スロウっ……!」
「それでは、ヒース、ルナ。ゲームはまだ始まったばかりですよ」
 ルナの声を掻き消すように言うと、スロウはそのままその扉のところから立ち去った。
 誰も、何も、音を発さなくて、無音がしばらく続いた後。
「……嘘じゃねぇよ」
 下ろした腕の先でぐっと拳を握り締めて立ち尽くすルナの横を、ヒースはそう言いながら通りすぎた。倒れたままのサリカの傍に膝をつき、彼を助け起こす。
「俺らが、スロウと過ごした時間は本物だ。アイツも、俺らのことを仲間だったって言っただろ。……だから、泣くんじゃねぇ」
「な、泣いてない!」
「じゃ、泣きそうな面すんな」
「だ……だ、って」
 直接顔は見ていないが、ルナとは1年半くらいの付き合いだから大体わかる。ヒースに指摘されたら、今までじわじわ滲んでいた涙がいきなり溢れてきた。
 泣いちゃダメだと思うのに、涙は簡単には止まってくれない。出てくる涙を何度もごしごし拭いながら、しゃっくり混じりの掠れた声で、サリカに肩を貸して立たせたヒースの大きな背中に呟く。
「わた、し……スロウのこと、仲間って……思ってたのに……なんか裏切られた、みたい……で」
「……まぁな。俺もそうだ。サリカ、歩けるか?」
「……大丈夫、です……はは……すみません、ヒース……結構これが痛くて……」
死光イクウの能力は痛覚支配なんだ。仕方ねぇよ」
 サリカが一応歩けることを確認した後、ヒースは、ルナの嗚咽が小さくなってきたのを見て言った。
「グレイヴ=ジクルドのせいだ。……おとぎ話でしか出てこないようなあれが、実在したせいで……俺らは別れちまった。だから……アイツより先にグレイヴ=ジクルドを手に入れて、さっさとぶっ壊して、アイツに諦めさせるしかねぇんだ」
「…………ん。うん……そうだね」
 安心したような声でルナがそう言い、そしてタタタと走ってくる足音がした。
 駆け寄ってきたルナは、ヒースがいない側でサリカに肩を貸して、いつもの前向きな顔で言った。
「じゃあ、こうしちゃいられないねっ!さっさとサリカ運んで、さっさと探そう!」
「おう。そう考えると、この先も、スロウの奴と鉢合わせることがあるだろうな。となると……この状態じゃ、サリカは戦力外だな」
「あぁ……私としても、慎んで辞退させてもらいます……」
 真ん中のサリカを支えながら三人で歩き出すと、ヒースがサリカの背中を一瞥して呟くように言った。サリカも苦笑いして頷く。
「ま、お前の空席埋めるのに、一人ちょうどいい奴いるから」
「なら、大丈夫ですね……」
「あ。もしかして例の、私の弟弟子君?」
 心当たりがあったルナが身を乗り出してヒースに聞くと、「鋭いな」と彼は頷いた。
「サリカの席を任せるには十分すぎるくらいだ。あっちまで行くのが面倒だけどな……仕方ねぇか」
「確か、レミエッタ公爵の息子さん……だったっけ。そういえば、弟弟子なのに、1回も会ったことないんだよね」
 ヒースから何度か話は聞いていた。かの有名な、剣の一族レミエッタ家の現当主ラスタの一人息子。血筋故か、天才的な剣術を持つが……熟練した剣聖ヒースには、まるで歯が立たなかった。それ以来ヒースは、他のものにはまるで興味を示さないその子息に目をつけられていたりする。
 彼はスロウとともに、「『剣』を継ぐ者」と呼ばれる。ヒースの弟子で、将来、彼の「剣聖」を継ぐ候補という意味だ。ルナは剣を使わないので候補外だ。
 ルナ、スロウ以外のヒースの弟子の正体を、今初めて聞いたサリカは、驚いた顔をした。
「レミエッタ……?! そりゃまた……凄いとこの息子さんだなぁ……」
「お前と同い年だ、サリカ」
「17歳?へぇ~……」
 同い年だと聞き、少し興味を持ったようにサリカは小さく笑った。
 ヒースは少し、話題の彼のことを思い出した。確かにそいつは教団の人間ではないから、自分以外会ったことないのは仕方ないかもしれない。だが自分と行動をともにすることが多いルナが、彼に会ったことがないというのは意外だった。逆にスロウは顔を合わせたことがあるはずだ。
「ルナ、本当にお前、アイツに会ったことないっけか?」
「うん、ないよ。師匠の話でしか知らないもん」
「まぁあまりあの街とは関わりねぇから、めったに行かないもんな……それに会っても、多分お前、アイツの頭に記憶されねぇぞ」
「へ??」
「アイツ、俺しか見てねぇんだよ……他の奴には興味ないらしい。怖ぇんだよ……所構わず、剣振り回してくんだよ。前にその屋敷に泊まったことがあってな、夜中に部屋に入ってきていきなり切りかかってきた」
「え、ええっ?」
「プライドが許さないのかわかんねぇが、奴もいろんな意味で必死なんだよな……屋敷に顔出せば、問答無用で切りかかってくるのがご挨拶だしな。あの屋敷にいると気が抜けねぇから、さすがに疲れるぜ……そうやってるうちに、少しずつ上達していくの見るのは楽しいけどな。ま、そんくらい破天荒な奴なんだよ」
「………………」
 ……それって……全然、貴族っぽくないというか。
 「嫌いじゃないけどな」と楽しげに笑うヒースの声を聞きながら、ルナは、一体どんな人なんだろうと考えていた。