masquerade

28 3年前

 ……ずっと、気になっていることがある。

  『久しぶりじゃないか。前と全然変わってないな、メルさんよ。この3年間、何処行ってたってんだ?』
  『……あぁ、思い出した。てめぇ、3年前くらいに指名手配されてた奴だろ?』
  『アンタが騒がれてたのは、3年前くらいだな。それくらい前なら、確かに今頃みんな忘れてるだろう』

 シャルティア城下町でメガネ屋を営むジャンさん、アスラで会った筋肉おっさん、アスラの裏通りの、酒場のバーテンダーさんの言葉。

『シャルティア参謀のスロウ=エルセーラ。シャルティアを……こう言っちゃなんだけど、愚鈍な王を操って牛耳ってる黒幕だ。3年前に職についてからずっとさ』

 アスラでノストさんと別れた後、セントラクスの大聖堂での、サリカさんの言葉。

『この3年で、生闇イロウに対する抵抗力がついたとでも思ったか?死光イクウの攻撃を消滅させても戦えると思ったか?』

 セル君に連れられて戻ってきたシャルティア城での、スロウさんの言葉。
 ……そして、今。

『3年前に破門された貴方が、このミディアに立ち入っていいと思わないことです。早急に立ち去りなさい』

 昼間……カノンフィリカを手にしてやってきたミディアでの、フィレイア様の言葉。
 ただの偶然かもしれない。だけど、こんなにも連続してしまうと……頭から離れない。
 キーワードは……「3年」。
 ノストさんとスロウさん。……どういう関係なんだろ?
 そういえば知らない。なぜだか違和感を感じなかった。ノストさんは、スロウさんを殺したがっている。それだけで、なぜだか納得していた気がする。
 それから、3年前という言葉……それは、必ずと言っていいほど、ノストさんとスロウさんに絡んでくる。
 一体……3年前に、何があったんだろ……?

「……あの、ノストさん」
 食卓らしき長いテーブルに座っている私は、正面で頬杖をついて横に視線を投げていたノストさんに声をかけた。
「………………その……」
 声をかけてみたのはいいけど、「3年前、何かあったんですか?」なんて、直球で聞く勇気はなかった。ゴモゴモ口ごもると、ノストさんは私に目を向ける。目を合わせるのが気まずくて、私は困ってうつむいた。
 時刻は夜。フィレイア様が夕食を出すっていうから、お言葉に甘えて、ミディア内のあの長い食卓に座ってご飯を待っている最中。まさかフィレイア様が作るわけじゃないよね……多分、コックさんとかいるよね。
 スロウさんが来た時。フィレイア様は、「破門された貴方が」ってスロウさんに向かって言った。ってことは……スロウさんは、元は教団の人だったってことだ。多分、剣とか使うし、ゲブラーだと思う。
 お父さんもゲブラーだったって、サリカさんが前に言ってた。スロウさんも元ゲブラーなら、二人の間に師弟関係があってもおかしくない。
 でも……じゃあ、ノストさんは?この人は……一体、何なの?
 どうして、お父さんと一緒に写真に映っていたの?どうしてスロウさんと、面識があるの?どうして……スロウさんを殺したいの……?
「……ノストさんと……お父さんは、本当に何も関係がないんですか?」
 ………………って……あ。
 少しの沈黙の後すぐ、私は心の中で思っていたことを口にしてしまったことに気付いて、はっと口を覆った。ノストさんは……相変わらず、頬杖をついて私を見ているだけ。それがなんだか、逆に怖い。
「……何でそう思う?」
「それは……」
 静かな問い。その声は、冷静……というより、何処か悲しさを帯びているような気がした。いつもの毒舌すらない。
 私が言おうか言わないか迷いながら、そうとだけ発した時、トントンと誰かが階段を下りてくる音がして、私は口を閉ざした。
 見てみると、サリカさんだった。この宿舎棟の2階は、フィレイア様や神官さん達の寝室があるらしい。恐らくサリカさんも、自分の部屋があるに違いない。
「ステラ、ちょっといいかな」
「え……あ、はい」
 サリカさんは周囲を見ながらこちらに歩いてきて、私に言った。彼女は私の隣のイスに腰をかけ、テーブルに肘をついた。
「あのさ、率直に言うけど。フィレイア様に敬語を使ってほしくないんだ」
「……え?え、えぇ!? な、何言ってるんですか?!」
 なんだと思ったら、そんな恐れ多い!しかも自分は「フィレイア様」ってモロ敬語なのに!
 私がぎょっとして言い返すと、サリカさんは「ごめん、唐突だったね」と苦笑した。
「フィレイア様は、穏やかで芯の強い方だ。人々みんなに平等で、慈しみに満ちた優しい、ね。それこそ神様みたいに。でも、それが本当の彼女だと思うかい?」
「え……?」
「口には出さないけど、本当は寂しくて仕方ないんだ。歴代セフィスは、みんなそうなんだ。リュオスアランのせいでね」
「あ……」
 ……そうか。
 リュオスアランは……周囲に、ほとんどの物を近付けさせない。だから、誰もフィレイア様に近付けなくて……フィレイア様も、人の温もりに触れられないんだ。それじゃ、友達らしい友達だってできない……。
「リュオスアランを身につける……セフィスになるというのは、人との関わりを断つようなものなんだ。特定の人じゃなく、全員を慈しむ心を持つ。そう、そうやって……セフィスは、心を削る」
「………………」
「だから、ステラ。リュオスアランの影響を受けない君は、フィレイア様にとっては本当に特別な存在なんだ。要するに……私が言いたいのは、フィレイア様の友達になってほしいってことさ」
「……でも……私なんかで、いいんでしょうか?ただまぐれで、リュオスアランの影響を受けなかっただけなのに……」
 フィレイア様は、教団の頂点に立つ聖女様。私は、普通の村人A。……いいのかな、私なんかで。
 そう思って聞いたら、サリカさんはクスクス笑って言った。
「まぐれ、ね……」
「え??」
「実はね、フィレイア様にはもう一人、友人がいるんだ。今、姿をくらましてるけどね」
「えっ、そうなんですか?」
「そいつは元々村人で、ステラと違ってリュオスアランの中には入れなかったけど……リュオスアランに弾かれるギリギリの距離から、いっつもフィレイア様とお喋りしてた。もちろん、敬語じゃないよ。あ、フィレイア様は敬語が地だから別として」
「………………」
 ……なら……私でも、大丈夫?

「はい、お待たせしました~」
 厨房の方からフィレイア様の声がして、振り返ると、たくさん料理がのった、肩幅より大きなお盆を持ってコチラに歩いてくるフィレイア様。スープ系もあるらしく、こぼさないように注意しながら歩いてるけど、なんだか不慣れみたいで危なっかしい。
 ……よし、落ち着け私。深呼吸、深呼吸っ。
 す~っ……はー………………うん。行くぞっ、私!
「フィアちゃん、私が持つよ!」
「えっ!?」
 私がイスから立って、フィレイア様……フィアちゃんに近付いて笑顔で言うと、フィアちゃんはびっくりした顔をして立ち止まった。スープの水面が一瞬傾いたけど、フィアちゃんは気付けず目を瞬く。
 う、逆効果……?と思ったら、フィアちゃんの表情は、びっくりした顔から、次第に嬉しそうな笑顔に変わっていく。
「………………はいっ。じゃあ、あの、お願いしますっ、ステラ!」
 小さな聖女様は、会ってから初めて見た、満面の笑顔でそう言った。

 

 

 

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 寝る部屋は、やっぱりこの食卓の2階だった。フィアちゃんやサリカさんの寝室がある、ね。
 その部屋がちょうど2つ空き部屋だったらしいから、1部屋ずつ借りられることになった。ありがとね、フィアちゃん!
 それはともかく……ちょっと寒いかも。小さく吐いた息が、少し白く雲って消える。我慢できないほどの寒さじゃないけど、外気に触れている部分……特に足。は、ちょっと肌寒い。
 ……まさか、その部屋がこんなに寒いわけじゃない。私は今、中庭にいた。
 みんなで夕食を食べた後だから、当然空は真っ暗だ。見上げると、白い下弦の月がぼんやり浮いていて、中庭のところどころに立っている灯りでわかりづらいけど、星もいくつか見えた。
 中庭の真ん中に立っていた、あの女性像。フィアちゃんに聞いたら、あれは初代セフィス……アルトミセア様の像らしい。それの前に立っていた私は、傍に立っている灯りで、下からライトアップなちょっと怖いその像を仰いだ。
 腰を少し通り越した長さの、緩いウェーブのかかった髪が印象的な像。この人が、アルトミセア様なんだ……。
 セフィスはしきたりとして、名前の最後に「ルオフシル」という言葉をつける。混沌神語で<監視者>って意味らしいけど……何で監視者なんだろ?普通に「聖女」とかじゃないんだ……。

「……はぁ」
 小さく溜息。私より大きな台座にそっと手を当て、私はおでこも当てた。ひんやりとしていて、気持ち良い。全身くっついたら寒いから、おでこだけ。
 ここに来たのは……ただ、自分の部屋にいるのが落ち着かなかっただけ。誰か、部屋を訪ねてくるんじゃないかって……今の私は、食前のことを思い出して気が滅入ってるから。とにかく、一人になりたかった。
 ……ノストさんに、お父さんとの関係を聞いてしまった。彼が答える前に、サリカさんが来ちゃったけど……もしかしてのもしかしてだけど、ノストさんが部屋を訪ねてきたら、私はどうすればいいかわからない。……踏み込んでしまったんだ……彼の領域に。
 スカートのポケットから、手探りでウォムストラルを出す。ウォムストラルは、自分からあの綺麗な光を放っているから、この暗がりをぼんやりと照らした。うん、多分、今の私も、アルトミセア様みたいに、下からライトアップで怖いと思うよ。

 ……3年前、何があったんだろう。
 ノストさんは、指名手配されていた。スロウさんは、参謀になった。
 ノストさんを指名手配したのは、きっとスロウさんだ。なぜなら、スロウさんは……グレイヴ=ジクルドを手に入れたいって思ってるから。そのグレイヴ=ジクルドのカケラ、ジクルドを持っているノストさんは、スロウさんにとっては要注意人物だろうし。ウォムストラルは、わかんないなぁ……。
 ……って、あれ?どうして、ウォムストラルはわからないの?
 だって、元々は一緒だったんでしょ?なら、壊れた時、それが何処に行ったかなんて、見てればすぐに……あっ!?
 ウォムストラルのことじゃないけど……わかったかもしれない。ノストさんは、グレイヴ=ジクルドが壊れたいきさつを知っているみたいだった。ってことは、彼はその場に立ち会っていた……ってわけで。
 もしかして……3年前にあったことって、グレイヴ=ジクルドが壊れたこと……だったりとか?

「風邪引きますよ?」
 突然、背後から声をかけられた。人がいたなんて全然気付かなかったけど、まるでそれが当然のように、不思議と驚きはしなかった。
 ゆっくり後ろを振り返ると、フィアちゃんがすぐ近くの灯りの傍に立っていた。光が及ぶ範囲だから、その顔が小さく微笑んでいることもわかった。
「アルトミセア像の前で溜息なんて、まるで救済を求める人みたいですよ。ふふ、貴方も信者になりますか?」
「あはは……ごめん、遠慮しとくね」
 フィアちゃんの冗談混じりな言葉に、私は力なく笑って返した。するとフィアちゃんは、笑うのをやめ、
「……ここは冷えます。あちらの棟に移動しませんか?あちらなら、この時間帯は誰もいませんよ」
 昼間、スロウさんに襲撃された礼拝棟を指差して言った。私がつられてそちらを見やると、確かに部屋の明かりが少ない。
 ……まるで、心を見透かされたようだった。私が今、会いたくない人がいるってことを。
 うーん……私ってもしかして、そういうの顔に出やすい?ノストさんといいサリカさんといい……過去にもこんなことがあった気がする。とりあえず、私は素直に頷いた。

 フィアちゃんに案内されるまま、中庭を横切ってその棟へ向かう。目の前までその棟が近付いて、入れるのかなって思ったけど、寝室の棟と同じく、この棟にも中庭と棟の中とを行き来できる扉があった。きっと、中庭の植物さん達を世話しているフィアちゃんを気遣ってだろうなぁ……。
 扉を開くと、昼間、スロウさんがやってきた礼拝室だった。ちなみに、左に見える壊された扉はそのまま。さすがにすぐには直せないしねぇ……。
「ここなら、少しは落ち着くと思いますよ」
「……ねぇ、フィアちゃん」
「はい?」
「フィアちゃんは、グレイヴ=ジクルドが実在するって……知ってるの?」
「……ええ」
 慎重な私の問いに、フィアちゃんは正面を向いて頷いた。やっぱり、ウォムストラルのカケラを持ってたし……知ってるんだ。
 ……うん。その方が……話しやすい。
「なら、聞いてもいい……?スロウさんのこと……あと、グレイヴ=ジクルドとか、聖書の話とか……いろいろ知りたいんだ」
 扉を閉めながら言ったフィアちゃんに、私は礼拝堂を見つめていた目を彼女に向けて言った。
 きっと、グレイヴ=ジクルドや聖書について一番詳しいのは、聖女のフィアちゃんだと思うから。聞くなら、フィアちゃんしかいない。
 フィアちゃんは、一瞬の間があってから、微笑んだ。
「なら、座りましょうか?きっと、長いですよ」
「あ……そうだね」
 フィアちゃんに誘われるまま、私達は一番近かった長イスに並んで腰を下ろした。座った私がフィアちゃんを横目で盗み見ると、フィアちゃんは早速口を開いた。
「では、スロウのことから話しましょう。想像はついていると思いますが、スロウは、元々教団のゲブラーに所属していました」
「やっぱりそっか……」
「そして3年前、ある事件がきっかけで破門され……どうやったかは詳しく知りませんが、すぐに参謀にへとなりました」
「ある事件?それって……」
 3年前の、事件……それが、すべてなような気がした。問い返してみるけど、フィアちゃんは少し困った顔をして首を横に振った。
「……私は部外者なので、何も言えないのです。ただ……スロウはその事件で、故意に人を殺めたのです」
「人を……殺した……?!」
 ま、マジですか……?! スロウさんは、確かに冷酷で悪役な雰囲気爆裂だけど……まさか、そこまで冷血とは思わなかった!
 目を見開いた私に、フィアちゃんは悲しげな横顔で頷いた。
「……はい。人を殺めた者は……教団の掟で、破門することになっています。私は彼を破門し……それが最後だと思っていました。しかし、彼は間を置かず参謀となり……地位故に、私は、自らが破門した者と定期的に会わなければならなくなりました」
「………………」
 セフィスは、国の取締役だ。グレイヴ教が、国の政治にまで口出しできる権力を持つのは……亡国アルトミセア教国に理由がある。

 アルトミセア教国は、厳密に言えば滅びていない。アルトミセアは、領土は小さいけどゲブラーのおかげで強い兵力を持っていて、でも自ら攻め込む行為はしない中立国だった。だから、その当時アルトミセアを取り囲むような領土を持っていたシャルティアも、下手に痛手を受けたくなくて、アルトミセアを黙認していた。
 でも、アルトミセアは、所有している土地が悪すぎた。川も通っていない痩せた土地では、だんだんと満足に暮らしができなくなって……当時のセフィスは、シャルティアと契約をすることにした。
 「貴国と合併したい。ただし、我が国の兵力を貴国へ貸す代わり、代々セフィスに国政への関与を認めてほしい」と。
 こうして、アルトミセアは表面上滅び、シャルティアの支配下となった。その代わり、セフィスは代々シャルティアに意見する権力を持った。セフィスがシャルティアに協力しないと決め込んだなら、教団は一切動かないから、シャルティアは自国の軍では出過ぎたマネができなくなる。
 凄い取引だよね……これも前にサリカさんから聞いた話だったりする。余談だけど、首都だったセントラクス周辺は、今でもアルトミセア領って呼ばれてるんだって。

 それで、フィアちゃんはそのセフィスだ。国議には、必ず参加しなければならない。だから、自分が破門した参謀のスロウさんとは……嫌でも会わなくちゃならないんだ。
 とりあえず、ここまでの話をまとめると……3年前、スロウさんはゲブラーだった。そしてその事件とやらが起きて……人を殺した。フィアちゃんはスロウさんを破門し、その後スロウさんはなぜか参謀になった……と。
「あ……少し話が反れますが、教団には、神官達の間で伝説とされているゲブラーが何人かいるんです」
「へぇ~」
「一人目は、もちろんヒースです」
「あはっ、やっぱり?」
 あ、それ、お父さんもゲブラーだったんだから、絶対入ってるな……って思った矢先、早速出た。えへへ、なんか嬉しい。
 自分のことじゃないのに思わず照れ笑いをした私を見て、フィアちゃんはクスクス笑う。
「彼は、とても強い人でした。剣はもちろん、人としても……彼がいた頃の教団は、活気に溢れていました。今は……少し、落ち込み気味です」
 「ダメですね、私」とフィアちゃんは苦笑いし、話を続ける。
「二人目は、スロウです」
「あ……」
「3年前のこともあって、よく思っていない人もいますが……経歴はともかく、彼の剣舞に目を見張るものがあったのも確かです」
 ……スロウさんも、なんだ。あの剣術があれば、確かに当然かもしれない。っていうかあの人、強さはいいとして、神官としてはどうだったんだろ?今更思ったけど、とても務まる性格じゃないような……邪悪な布教してそう。
 言い終わってから、フィアちゃんは小さくくすっと笑った。私がキョトンとフィアちゃんを見ると、彼女の顔は何処となく嬉しそうだった。
「三人目、最後の一人は……私の友人です」
 あ、もしかして、夕食の時にサリカさんが言ってた人かな?リュオスアランに弾かれる距離ギリギリから会話してたっていう……凄い人だよな……。
「何て言う人?」
 名前を聞いてわかるはずがないのに、私が興味半分で聞くと、フィアちゃんは私の顔を見て……柔らかく微笑んで言った。

「ルナです」

 ……グサリ、と突き刺さった。慣れたつもりだったけど、苦しかった。
 そういうことなんだ……喋る直前、フィアちゃんが私を見て微笑んだのは……私が、ルナさんに似ているからで。私に、ルナさんを見たからで。仕方ないんだろうけど……やっぱり悲しい。
 それはともかく……つまりだ。
 今、フィアちゃんが言ってるのは、伝説のゲブラー達だから……ルナさんは、ゲブラーだったってこと!? そ、そんなの初耳だよ!いや待った!ルナさんはまだ生きてるから……現在進行形でゲブラーだってこと!? うそ~っ?!
「ふ、フィアちゃん!それって……ルナさんが、ゲブラーだってこと!?」
 思わず長イスから立ち上がって、座っているフィアちゃんに聞くと、フィアちゃんは予想通りだったように、「そうですよ~」と笑って頷いた。いや、そうですよ~って……!
「ついでに言うと、サリカは私の懐刀ということになってますが、そうしたらルナは右腕でしょうね。今は賞金稼ぎに追われるのを避けるために、教団には帰ってきてませんが……教団にとって、ルナは、生きた伝説なのです」
「生きた、伝説……」
 落ち着いてきて、ぽつりと復唱しながら、私はまた、静かに長イスに座った。

 ……凄いなぁ、と。素直に思った。
 教団のみんなに伝説と謳われていたり、リュオスアランの領域外ギリギリからフィアちゃんとお話ししてたり。私とは比べ物にならないほど、ルナさんは優秀で、優しくて。
「……ルナさんは……本当に、凄い人なんだね……」
 天井を軽く見上げて、私はぽつりと呟いた。
 ……なんか、嫉妬しちゃうな。同じ顔なのに……どうしてこんなに違うのかなって。カノンさんの気持ちが、今ならちょっとわかる。
 クスクスと、フィアちゃんが笑う声がした。
「ステラ、私は貴方も十分凄いと思いますよ。尊敬します」
「へっ?わ、私?私なんか、全然……!」
「貴方が、気付いていないだけなのです。……いいえ、気付いてはいけないのでしょうか……」
「??」
 フィアちゃん……な、なんか矛盾してない?私が首を傾げると、少し悲しそうな横顔だったフィアちゃんは、すぐにいつもの笑顔に戻って言った。
「思ったより脱線してしまいましたね。他に、何か聞きたいことはありますか?」
「あ、うん。えっと、じゃあ次は……グレイヴ=ジクルドについて、かな?」
 私達のお喋り……というより、一方的な無償の情報提供は、夜遅くまで続いた。