→→ Requiem 1

 昔、母親に、白い石をもらった。
 その辺りの川原に落ちていそうな軽石とはまた違って、琥珀のように透き通っていて、微弱ながら白い光を放つ不思議な石。
 子供の頃に見つけて、それ以来ずっと一緒だったそうだ。大事なお守りだと言っていた。

 それを娘の自分に渡し——、赤い華に彩られた母は、目の前で息絶えた。


「………………」


 ガラスも張られていない、吹き抜けの腰窓の下に据えられたベッドの上。逆光の関係で、窓の周辺は暗い。その窓の横に寄りかかって座る少女は、回想から緩やかに目覚めた。
 うつむいていた顔を上げた動作に追従して、肩の辺りで切り揃えられた髪も揺れる。視線は正面に投げられていたが、視界に映るものを見て、、はいなかった。
 ——外に気配。知っている者だ。


「やっほー、逢花オウカ〜!!」


 そう分析し終わるのと時を同じくして、窓の下の方から声がした。2階のこの部屋から下方を見下ろそうと、少女——更凌季逢花サラシノギ オウカは、日の差す窓の外に顔を向ける。
 陽光の下、露になった少女の肌は褐色。灰色の髪の両側から、横に長い耳が伸びていた。光に眩しげに伏せられた桃色の瞳が、手を振る幼馴染の少女の姿を捉えた。


「……深則ミノリ
「おっはよー!今日はいい天気だね!ちなみに、本日の深則ちゃん天気予報!今日は1日中、快晴なのです!ふふん♪」


 と、元気いっぱいに話しかけてくる少女。赤みを帯びた橙色のサイドテールは、彼女のチャームポイントだ。その快活さとは裏腹の、落ち着いた淡い紫の瞳が楽しそうに笑っていた。彼女もまた、逢花と似て長い耳と褐色の肌を持つ少女だった。
 ——魔族。二人とも、数十年前から減少し始めている一族の者だった。

 灰色のマントの上にカバンを背負った格好の深則は、両手で大事そうに持っていた四角い箱を見せて、にぱっと笑った。


「逢花、今日、誕生日だったよねっ?ケーキ焼いてきたんだ!一緒に食べよ♪」
「あ……」


 満面の笑顔で言われて初めて気が付いた逢花は、ポカンと小さく声を上げていた。
 確かに今日は、15年前、自分が生まれた日だ。早々と15歳になっていた深則と、ようやく並んだことになる。





 1階に下り、逢花は深則を家の中に招いた。背の低いテーブルの前に正座で座る逢花の向かいで、テーブルの真ん中にケーキ箱を置いた深則は、灰色のマントを脱ぐ。マントの下はエプロン姿だった。
 それから深則は、背負っていたカバンをゴソゴソとあさり、ケーキ箱の隣に、いつも通りいいにおいのする弁当と、赤い液体の入ったビンを置いた。


「あ、お酒じゃないよ?? 深則ちゃん特製アムリジュースだからねっ?」
「うん、わかってる。……深則、アムリの実、好きだから。自分が飲みたかったんでしょ?」
「へっへー、バレちゃーしょうがない!深則がケーキ食べたかったから作ったのよ〜ん♪ まっ、でも、誕生日おめでと!15歳だねっ!」


 逢花がほんの少し笑って言うと、深則は調子よさげにケーキの箱のフタを取った。シンプルな淡い黄色の、厚みがある円型のケーキが姿を現す。当然純白のものだと思っていた逢花は、それを見て少し驚いた顔をした。


「……チーズケーキ?」
「うん!深則は、生クリームでもりもりコーティングしたケーキが食べたかったんだけどね〜、逢花はあんまり好きじゃなかったなーって思って。さすがにチーズケーキは初めてだったけど、愛を込めて作りましたっ!チーズケーキ、好きだったよね?」
「……うん……深則、ありがとう」
「ふふーん、どーいたしまして!あ、でも口に合うかはわかんないよ!」
「大丈夫だよ。深則の作るものは、みんなおいしいから」


 まっすぐにそう言って、逢花は微笑んだ。その微笑を見て、深則も安心したように笑い、「さ、ご飯食っべよー!」と、今度は弁当のフタを開ける。

 ——女手1つで自分を育ててくれた母が殺されたのは、1年前。ずっと昔から呪いのように行われている、魔族内での殺し合いに巻き込まれた。
 以前は父と母とで暮らしていたのだが、他の魔族に見つかった。父は、後で落ち合うと言って、母と自分を逃がしてくれた。その場所が、この樹海内にある誰かが住んでいたらしい古家だったのだが、彼は3年経ってもやって来ない。
 そして1年前、同族狩りをしているらしい魔族に、ついに見つかった。母も対抗したが、敵わなかった。自分は家の中の板と板との隙間から、動けもせず、その光景をただ見ていた。
 死神が立ち去った後、震える足で母に駆け寄り……彼女は、自分の大事なものを、大事な娘の自分に渡した。
 そしてまるで、その大事なものが母の命であったように、彼女はそれを手放すと息を引き取った。

 それ以来、家の外に出るのが怖い。自分が離れた隙に、すべてなくなってしまうような気がした。大事な人の命そのもののようなお守りを抱いて、過ごす日々。
 不安に押し潰されそうになった頃、こんな深い森の奥に、一人の少女が訪ねて来た。それが、幼馴染の御槌深則ミヅチ ミノリだった。


「……深則は……変わってるよね」
「んん?? ほお?んぐっ……ん〜、まぁひっじょーにテンションがウザイってとこは変わってるかなあ〜」


 弁当の中から小皿に取り分けた魚の揚げ物に手をつけていない逢花が、フォークを咥えていた深則に言うと、彼女は口の中の焼いた鶏肉を飲み込んで頭を掻いた。


「そうじゃないよ。……深則、こんな奥まで、毎日来てくれるから」
「そっりゃ〜、幼馴染ちゃんがこんな奥に一人じゃ、寂しいでしょ?しかも、おうちの外に怖くて出られない!なーんてさ。落ち込んでないかな〜とか、ちゃんと食べてるかな〜とか、いろいろ心配だもん」


 コップに注いだアムリジュースを飲んで、深則は一人で納得したように、深々と頷く。

 深則はこの樹海の外、山の中に住んでいる。彼女には父がおり、他の魔族に警戒しながら生活している。逢花に両親がいた頃、近くに住んでいた関係で仲良くなった。
 その山から、樹海の奥にあるこの家まで。相当遠いはずだった。それなのに深則は、毎日何か料理を持って、遊びに来てくれる。


「でも……危なくない?」
「だーいじょうぶー。頭はフード、体はマントで完全防備してるから!変な人だけどね!それに、深則が好きで来てるんだから、逢花は気にしなーい!あ、逢花、包丁借りるよ!」


 深則は、自分の着ていた灰色の服をひらひらと見せてから、フォークを置いて立ち上がった。この家の台所に行って、慣れた様子で包丁を持ってくる。そして熟練した手つきで、ケーキを切り分けにかかった。
 パワフルで明るい深則と話していると、心が軽くなる。逢花は小さく笑って、皿の上にのったケーキを受け取った。

 まずは一口。フォークで切り取って、ぱくっと食べてみる。ふわりとほのかに甘い、まろやかで深いコクのある味が口の中に広がった。


「……おいしい。凄く」
「おっ、ホント!? 逢花から花丸が出れば、だいじょーぶだね♪ はむっ……んおお!うま!我ながら最高の出来!味見してなかったから不安だったんだー!」
「ふふ……」


 自分のケーキを食べて嬉しそうな深則の顔に、逢花もつられて微笑んだ。
 かすかに甘い、優しい味のケーキをもう一口食べて、逢花は顔を上げた。向かいで幸せそうにケーキを食べる深則に、静かな決意を込めて口を開いた。


「深則……いつもありがとう。私……深則が友達でよかった」
「なーに今更!って、ケーキのうまさに感動して、勢い余って言ったんじゃないの!?」
「それを抜きにしても、だよ。……私、いつか……自分から、深則の家に行くから」
「ほんとーに!? 逢花、頑張っちゃう?? 逢花が訪ねて来たらびっくりだなあ〜!へへへっ、待ってるね!」


 無邪気な笑顔で、深則は笑う。嘘などカケラもない、屈託のない表情。

 いつか、自分の足で外に出られたら、真っ先に深則の家に行こう。
 深則みたいに、料理もお菓子も持っていけないけれど。
 抜き打ちで行って、驚かせてみせる。



 いつか……きっと……










 —————そして、世界が遠のいた。










(え……?)


 深則の笑顔が、急激に離れていく。思わず手を伸ばしたが、伸ばせなかった、、、、、、、
 いや、視界は確かに世界を映している。深則、料理、ケーキ。何もかもが、見えている。
 しかし……その情景は、ひどく遠い。
 まるで何重、何十重にも重ねたガラス越しに、世界を眺めている感覚。

 一体、何が起きたのかわからなかった。困惑していた逢花は、やがて——自分の内に、もう一人、誰かがいることを感じ取った。


(誰……?)


 身体を支配していた意識が、切り離された。意識はココに確かにあるのに、身体を支配しているのは……自分ではなく。
 この、もう一人の存在。


「逢花?どーしたの??」


 急に黙り込んだ自分を心配して、深則が不思議そうに聞いてくる。
 深則、私の中に誰かいる。……そう言おうと思ったのに、身体は別のことを口にした。


「……何でもない。ケーキ、おいしいね」
「うん、まぁそーだけど……大丈夫?」
「……大丈夫」
「……うーん……」


 何処かしっくりこなさそうな顔をした深則は、フォークを咥えて首を傾げた。その顔のまま、再びフォークでケーキを突付く。

 身体が、言うことを聞かない。突然、自分は、傍観者になってしまったかのようで。
 そして……自分の中にいる、不可思議な存在が、コチラに意識を向けるのが感じられた。


≪……初めまして。更凌季逢花……君は今から、僕という魂に、体を支配される≫


 ——知っていた。自分の内に『彼』が入り込んだからか、『彼』の今までの記憶、事情が手に取るようにわかる。

 『彼』が、太古の魔術師で、今はいないイーゲルセーマ族だったこと。
 フィルテリア動乱で、王国の最高指揮官を務め、大事な者達を亡くしたこと。
 とある目的のために、他人の意識を乗っ取りながら生き永らえていて……、そして自分は、その48人目だということ。


≪……恨むなら、恨んでくれていいよ。でも僕は……譲れない……例え、侵略者だとしても≫


 覚悟を決めたというより、諦観が混じったような声音。決意というより、否応なしに果たすべき使命を語るような口調。
 確かに、自分の前の47人は、ほとんどが『彼』に反抗している。意識の主導権を取り返そうと足掻き、『彼』と戦っていた。
 実質上、憑依された時点で、元の魂は殺されたようなものだ。突然の理不尽な死を、誰が受け入れるのか。

 ——しかし逢花は、そんなことよりも、別のことが気にかかった。
 47人分の生を生きてきた『彼』。ほとんどの記憶は、古ぼけてセピア色だったり、抜けていたり、つぎはぎだったり。過去に遡れば遡るほど、記憶は曖昧だ。
 その中で、一箇所だけ、すぎるまでに鮮明な記憶があった。
 フィルテリア動乱という、すでに歴史になりかけている過去の大戦。しかし『彼』の中では、その記憶は色褪せることなく、凄惨と言っていいほど鮮やかだった。


(………………貴方も……大事な人を亡くしたんだ)

≪……君も、みたいだね。僕と同じく、目の前で≫


 自分と同じように、『彼』もまた、自分の記憶や事情がわかるらしい。逢花は声に出したつもりだったが、相変わらず体は『彼』が支配しているせいで、唇は微動だにしなかった。しかし思念で伝わったらしく、返答があった。


≪……僕は、それから笑えてない。だから……笑い方さえ、忘れた≫

(そう……なんだ……。……私は……家から出られないんだ。ココから離れたら……全部、消えちゃうような気がして……)


 自分をせせら笑うような気配で、『彼』は言う。大事な感覚が欠如している『彼』に、大事な記憶に執着している逢花が言うと、『彼』は考え込むように短い間を置いて。


≪……笑えるだけ、羨ましいよ≫

(私は……家の外に出られる貴方が、羨ましいよ)


 何かが欠落した『彼』と、何かに依存する逢花。
 『彼』の声に逢花が跳ね返すように言うと、互いに黙り込んだ。——互いが、直感的に似た者同士だと感じていた。



「——ね、逢花。深則と逢花、友達だよね??」



 ……不意に、外界から、何処か不安げな深則の声がした。逢花と『彼』がそちらに意識を向けると、ケーキを半分残したまま、いつも笑顔の深則が少しだけ寂しげな顔をしていた。


(もちろんだよ……)


 つい答えようとしたが、自分は体を乗っ取られている身だった。残念に思った逢花が落ち込む前に、『彼』は口を開く。


「……もちろんだよ。むしろそれは、コッチのセリフ。……深則に迷惑かけてると思うから」

(あ……)


 自分の代わりに答えた、自分の声で紡がれる『彼』の言葉。その内容は、まさしく自分が今思ったことだった。体の中、逢花が驚くと、『彼』は言う。


≪……同じ中にいる以上、君の考えてることはわかる。同じように、君も僕の思ってることがわかるはずだよ。今、こうして話している『声』も思念だし≫

(え……?『声』は聞こえるけど……あとは、何も……聞こえないよ)

≪…………そっか。……仕方ないね。僕は元々、空洞だから≫


 ほんの少しだけ、寂しげな感情が、何処からか伝わってきた。何も聞こえてこないということは、『彼』自身の心が何も訴えていない、またはそれが微弱すぎるということだろう。それを察して、逢花も悲しく思った。

 半分ケーキを残した状態で、深則は皿の上にフォークを置く。そして、真剣な紫の瞳でコチラを見つめてきた。


「迷惑なんかじゃないから、気にしないで。……あのね、逢花」
「……何?」
「友達だって思ってるなら……悩みとかあったら、ちゃんと話してねっ?深則、一緒に考えるから!いい?約束!」
「……うん。約束」

(……深則……)


 深則が差し出してきた小指と、自分の体が小指を絡めて約束する様子を眺めて、逢花は胸が締め付けられるような想いを抱いた。

 こんなに自分を気にかけてくれる他人がいる。
 わざわざ毎日遊びに来て、好きでやってるから気にするなと笑う。
 自分は、何一つ、彼女に返していないのに。

 素直に嬉しくて。
 嬉しすぎて……


「……あれっ?逢花?ど、どーしたの!?」
「え……?」


 途端に深則が慌てた顔になったかと思うと、急に視界が滲んだ。ぽたっとテーブルの上に何かが落ちたのが見えて、うつむいたら、さらにこぼれ落ちていく。自分の手のひらが目元を拭う。


≪……いい友達だね≫

(…………うん……自慢の、親友だよっ……)

≪……親友、か……≫


 震える逢花の『声』が返ってくる。感動した逢花の魂が、『彼』が支配している身体に影響を与えた結果だった。

 外から、慌てる深則の声が聞こえる。それを耳にしながら、逢花はただ泣いた、、、





  ♪ * ♭ * ♪ * ♭ * ♪ * ♭ * ♪ * ♭ * ♪ * ♭ * ♪ * ♭ * ♪





 深則が帰った後、逢花は——逢花ではない『逢花』は、全身が映せる大きな鏡の前に立った。
 ゆっくり、自分の姿を確認していく。切り揃えられた灰色の髪、桃色の瞳。肌は褐色、耳は長い魔族。白い服を着ていた。15歳くらいの女の子。


「名前は、更凌季逢花……」


 小さく唇に言葉をのせられた名は、漢名。前に憑依していた者は、まだ前時代の名だったというのに。ここ数年で、世界は、人に漢名をつける流れに移り変わっていた。
 かつて、自分がある人物に授けた漢名が、よくわからないがブームでも生んだのか、世界規模に広がっている。不思議な気分だ。


≪……そうだね。私のお母さんも……漢名じゃなかったから≫

「………………」


 ——そして、もう1つ。不思議なことがある。
 今まで憑依してきた者達の意識には、完全に自分の魂を上乗せしていた。下から響く抵抗の声さえ押し潰し、それでも時たま大きな抵抗と戦いながら身体を支配していた。
 しかし、今回憑依したこの少女は、まるで当然のように、自分の隣にいる、、、、、、、。『彼女』の上に乗り上がって支配しているというより、同じ高さの位置に座って、彼女の代わりに体を動かしているような感覚だ。こんなことは初めてだ。


≪きっと私が……抵抗してないから、じゃないかな≫

「……そうみたいだね……」


 内の『声』に、逢花は声を出して同意した。
 確かに、今までの被害者たちは皆、主導権を取り返そうと抵抗していた。しかし『彼女』には、それがない。むしろ、自分の存在を受け入れてしまっている。


  『……私、いつか……自分から、深則の家に行くから』


 『彼女』の記憶から、先ほど『彼女』が言った言葉を思い返す。
 家から出られない『彼女』の、第一の目標。

 ……逢花は、小さく首を振った。


「…………ごめん。行けない。……ボクは……行かなきゃならないから」

≪うん……いいよ。貴方に任せる≫


 その言葉を知っていたかのように、『彼女』はショックを受けることもなく、返答した。その冷静さに、逢花は無意識に口を閉ざしていた。
 ——己の目標を、自由を、奪われたというのに。『彼女』は悲しみに暮れることなく、落ち着いて自分を受け入れている。

 あまりに沈着な『彼女』に、逢花は思わず、胸に手を当てて……聞いていた。


「……キミはどうして、無抵抗なの?ボクが身体を支配していること……嫌じゃないの?」


 銀の鏡を見つめて、鏡の向こうのもう一人の自分に問う。自分と真逆の格好をとる自分、、
 『彼女』は、微笑むように答えた。


≪少しだけ、残念だけど……家を出られない私の代わりに、貴方が出てくれるなら、それでいいよ≫

「………………」

≪家から出たい。……私の望みは、それだけ≫


 ——『彼女』は、身体を乗っ取られたことを諦めたわけではなく、希望として受け取っていた。
 憑依されたことで、外へ出られるなら……それで十分だと、『彼女』は笑った。


≪貴方は……笑えないんだよね。じゃあ、ポケットに手を入れてみて≫


 ぼんやりしていた逢花は、『彼女』の指示を受けてから、少し遅れて動き出した。ズボンのポケットに手を差し入れると、指先に固い感触が当たる。引っ張り出すと、それは透き通る白い石だった。
 逢花は、『彼女』の記憶でそれを知っていた。『彼女』が昔、母親にもらったお守り。しかし、それを目の当たりにして、逢花は桃瞳をわずかに見開いた。


「……コレは……聖力の石だ」

≪え?≫

「……聖力魔力は、濃すぎると湯気のようなものとして目視できるようになる。それと似たようなもので、物凄い圧縮率で凝縮されてる」


 魔力が凝縮された石は見たことがあったが、聖力が凝縮された石は初めて見た。物珍しげに、逢花はそれを眺める。魔力の黒煌石はアルテスだから、この白輝石の名前は、さしずめラトナか。
 興味深げに、ラトナをアチコチから観察する逢花。まったくそういうものだと知らなかったらしい『彼女』は、しかしさして興味はないらしく、深く言うことはなかった。


≪そうなんだ。……それ、貴方にあげる≫

「……大事なものなんでしょ?」

≪うん。大事なお守り。凄く効くんだよ。だから、貴方が持ってて≫


 ラトナを手のひらの上に置き直し、訝しげに聞いてくる逢花に、『彼女』は微笑むように囁いた。



≪きっと、いつか、貴方が笑える日が来ますように———≫

「………………」






↑Top    Next→