正反対の表裏一体、
棘の章
第0話 世界一の嫌われ者
「どうして、闇は嫌われるのか……だって?」
白い神官服に身を包んだ老人は、首を傾げた。
「それは……闇が怖いからじゃろう。見通せない深淵……すべてを隠してしまう性質……人は、暗がりに恐怖を抱いてきたからの。その闇を、アスフィロス様が照らしてくださったから、今の現界は平和なのじゃよ」
ああ、その宗教話はもういい。聞き飽きた。
早々に話を切り上げ、立ち去った。
釈然としない想いを持て余しながら、通りを往く。
―――世界一の嫌われ者。
どうやらそれは、千年経っても変わらないらしい。
人々は、その名だけは悪いものとして受け継ぐ。
子孫は、何も知らずに『そいつ』を嫌う。
すべてを忘れ、なかったことにしようとしている世界。
ああ、腹が立つ。
『そいつ』のことも、理由も、何もかも忘れてしまう人々。
『自分は、ここにいるのに』。
………………