書き直さなくていいかなと思ったんです。
手が回らないし、当時のままに残しておくのもありかなと。
ただ、書き直そうとしたものが出てきてちと悩んでる。
序章overtureで、もっと倒れる前のいゆについて掘り下げられたらなって思ったんですね。そうやって書いたものが出てきた。
ちなみに作者は君笑も大好きなんで、定期的に君笑最高では…???ってゲンドウポーズとることある_(:3 」∠)_
せっかくなんで公開します。(
書き直し…3章くらいまでやってあとはママ、とかでもいいかなぁ〜
———-overture
ついに、来たる日は来てしまったのだ。
一体、ここは何処なのだろう。
刹那に浮かんだ淡い疑問は、瞬く間に意識の外へと押し流される。
何かを思考することさえ許されない。悲鳴を上げる身体が生体を維持することに手一杯で、それ以外の刺激をすべて拒絶していた。
身体中に刻まれた無数の浅い擦り傷、切り傷がここまでの道のりを物語る。
頭上には、透明な藍色の天球。そこに浮かぶ月星が、夜闇に潜む自分を見下ろしている。
深い森の中、ひたすら道なき道を駆けて、駆けて、一体どれほど経っただろう。
「あっ…!」
上げたつもりの脚。その足の甲に不意に固いものが触れた。
張り詰めた緊張感が動かしていた体だった。途端に投じられた異変に対応できず、無様に前のめりに転がる。
ひんやりとした草原に投げ出された火照った身体。横倒しの視界と、頰に触れる柔らかい土と香り。忙しない自分の呼吸が、心音が、耳の奥で響く。
「……逃げ……なきゃ……」
うわ言のように空ろに呟くが、それだけ。
鍛えられていない身体は、とっくに限界を超えていた。全身を襲う倦怠感、筋肉の痛み。ずっと騙し続けてきた体が、求めていた休息にやっとありついた。逃げなくてはとぼんやり思う頭とは裏腹に、重力に縫いとめられたように、身体はぴくりとも動かない。もうそこから起き上がる力は残されていなかった。
ほら、陰から近づいてきてる。
このままでは捕まってしまう。そして自分は、道具のように手段として使われるのだ。
ずっと前から知っていたはずだった。こんな境遇に生まれた自分は、いつか、己の平穏を壊す日が来るのだと。
……ぎゅっと、拳を握った。
追っ手に捕まってはいけない。それはここまで逃がしてくれた人々への裏切りであり、そして世界にとっての最悪の結末だ。
逃げるか、追っ手をどうにかするかしかない。
追っ手に太刀打ちできるような力を持たぬ自分に、ほかに選択肢はない。
だから、私は……
倒れ込んだまま、少女は微笑んだ。
その空色の双眸から、涙を流しながら。
決意するとともに、別れを悟って。
……ずっと、平穏な日々が続くと思っていたのに。世界はあまりにも残酷だ。
「……ごめんね……さよなら、私」
死にゆく自分へ、少女は囁いた。
その夜、冴えるような銀色の光が夜天を衝いた。