人として
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raison d'etre

63人と神様

 私は、神子。  私は、破壊者。  私は……ルナさんの複写。  過去を見た今ならわかる。カルマさんがよそよそしかったこと、イソナさんが私を嫌っていたこと。  私が、ルナさんの存在を蝕む存在だから。  イソナさんなんて特にそうだろう。義妹さんの複写だなんて、本当は嫌で仕方なかったに違いない。  でも…… 「……私……もう一度、イソナさんと話してみたいです」  目の前まで近付いたタミア村。無意識に足を止めた私は、少し先を歩いていたノストさんの背にそう言った。  ユグドラシルから帰って来てから。私達は、遠かったけど、とりあえずタミア村に戻ってきた。あの辺は何もないし、いても仕方ないしね……。  元々、私達は、ルナさんのお義姉さんに……イソナさんに、会いにタミア村に来た。カルマさん曰く、彼女なら、すべてを話してくれるって。  そして私は……壊れかけちゃったり、いろいろあったけど、この地で【真実】を知った。  だから、もう用事は済んだ。あとは、ウォムストラルの最後のカケラを探すことだけ。  だけど……その前に。  ノストさんが肩越しに私を見て、一言。 「トドメ刺されて終わりだな」 「うっ……!ひ、否定し切れないのが悲しいんですがっ……大丈夫ですよ!私だって負けませんっ!」 「馬鹿が言うと根拠の塵もないな」 「カケラじゃなくて塵ですかっ!? ってことは塵以下ってことですか?! う、うう~……じゃあっ、その塵以下を積んでやります!きっと、塵以下が積もれば塵になりますよ!」 「つまりお前が求めてるのは、風が吹けば吹き飛ぶ程度の根拠っつーことか」 「……ま、参りました……」  そ、そんな根拠じゃダメだよ……くそぉ、ノストさんに負けない!って宣言してから、早速負けてるッ……!  確かに私は、まだイソナさんが怖い。だから、前以上にグサって来ること言われたら、本当にトドメ刺されちゃうかも。壊れちゃうかも。  でも……村を去る前に、もう一度だけ、彼女と話してみたい。  私の元になった人の、お義姉さんなのに。こんな微妙な関係で別れるなんて……嫌だから。  要するに、この気持ちにケリをつけたい。 「自惚れんな」 「え?」  振り返っていたノストさんが言った言葉に、私は首を傾げる。私が神子で、破壊者で、複写であるってことを全部知ったノストさんは、言う。 「いつも力がはたらくと思うなよ」  考えていたことを見透かされた気がして、ドキっとした。  ……想えばはたらく力。だから、どんなに危なくても、想えばなんとかなるんじゃないかって、何処かで思ってる。  でも、そうじゃないんだ。今までのは、すべてまぐれ。次があるとは限らない……特に、クロムエラトをちゃんと制御できてない今は。 「……わかってる、つもりです。でもやっぱり、イソナさんとちゃんと話したいです。危険は……承知の上です。だから……行きます」 「………………」  私の言葉を聞いてから、ノストさんはしばらくじっと私を見ていた。……で、だんだんと気恥ずかしくなってくる私。わ、わかってるんだけどさ……ノストさん、凝視する癖(?)があるって。わかってるんだけどさ……!  ふと、視線が私から逸れた。ちょっとホッとする私の見る前で、ノストさんは後ろを向く。彼の意識が、なんとなく村の方に向いている気がした。  どうしたんだろ?と思って彼の隣に並ぶと、正面の方から歩いてくる影が見えた。 「二人とも、帰ってきたんだね」  近付いてきていたのは、エメラルドグリーンの髪の人……サリカさんだった。彼は「よかったよかった」と笑いながらやって来る。 「少し前から姿が見当たらなかったから、どうしたのかと思ったよ。ナシア=パントに行ってたんだねぇ」 「あ……ご、ごめんなさい、何も言わずに……」 「ま、ノストが一緒なら大丈夫かなって軽く考えてたんだけどね」  ってことは、心配してくれなかったの!? な、なんだかちょっと寂しい……。  そうだよね、私達、何も言わずに出てきちゃったんだ。あんなに長い距離歩くと思わなかったからね!準備もなしに野宿させられたんだよ!  ……あれ?でも……、 「どうしてノストさんが一緒ってわかったんですか?」 「そりゃ、二人とも、同じ時間にいなかったからさ。それに、言い出したのはどっちだか知らないけど、もしステラが一人で外行こうとしても、何だかんだ言ってノストがほっとくわけないだろ?」 「………………へ??」  当然のように言ったサリカさんの言葉の最後。ほっとくわけないって……心配して?  途端に目付きが怖くなったノストさんを見ながら、そうさせたサリカさんが笑いながら言う。 「あはは、怖いなぁ。何か言うことは?」 「失せろ」 「はいはい」 「あっ、サリカさん!」  ノストさんに短くそう言われ、ひらひら手を振って素直に立ち去ろうとするサリカさん。聞きたいことがあった私は、慌てて彼を呼び止めた。振り向いたサリカさんに、私は少し息を吸ってから尋ねた。 「イソナさんは……教会に、いますか?」 「そりゃレセルだからね、常駐するのが原則さ。……もしかして、会う気かい?」 「……はい」 「……そっか。あ、でも今は……」 「今は?何かまずいんですか?」 「フフ、何でもないよ」  ふと何かを思い出した様子のサリカさんにそれを聞くけど、サリカさんは意味ありげに小さく笑っただけで、何も言わなかった。……なんだろ? 「イソナもそれなりに反省してるみたいだから、きっと、あれ以上、ひどいことは言わないよ。思う存分、話しておいで」 「はいっ……ありがとうございます!」  私を元気づけるようにそう言ってくれたサリカさんに、私は笑顔でお礼を言った。うん、よし、元気湧いてきた。サリカさんありがとうです!  少し前にいるノストさんが、低い声で言う。 「さっさと消えろ」 「それじゃ私は、怖いお兄さんが消えろって急かすから退散するよ」 「あ、はい……」  ノストさんに結構ひどい言葉でそう言われたのに、サリカさんは機嫌を悪くすることもなく、ただ面白そうに笑いながら立ち去った。 「……ノストさん、ちょっとひどいんじゃないですか?」 「やかましい能天気女」 「えっ!? な、名前また増えた……でも能天気って、どういうことですか?」 「能天気の意味もわからねぇ時点で能天気だ」 「い、いやわかってますけど!? っていうか、ノストさん、なんか怒ってません?」  さっき、サリカさんに言った時の声も低かったし、ちょっと怒ってるみたい。なんで??  私がノストさんの顔を覗き込みながらそう聞くと、ノストさんは私を避けて先を歩いていくから、もー仕方ないなー!って私は追いかける。 「怒ってますよね??」 「馬鹿の判断はおかしいらしい」 「いーえッ!! 絶対っ、ちょっと怒ってます!目付きの角度が違います!!」 「はぁ?」 「普段のノストさんの目付きは、もっとこう……なだらかなんですよ!」 「……お前、馬鹿だろ?」 「うっ……な、なんかそれ、久しぶりに言われました……」  とかなんとか話しながら、教会へ向かう。イソナさんと……ちゃんと、話すために。   //////////////////  タミア村の人達に軽蔑の目を向けられながら、私達は、教会の正面……礼拝堂から中に入った。ステンドグラスが相変わらず綺麗です。  その礼拝堂の右奥、小さなドア。そこの前に立って、ドアを開けようとして。……ちょっと不安になって、私は、少し後ろにいるノストさんを見た。 「何だ」 「……えっと、ノストさん……つ、ついて来てくれる気、ないですか?」 「はぁ?」 「や、やっぱりちょっと怖い……っていうか……ノストさんがいてくれたら、心強いなーなんて……」  あ、あはは~……と渇いた笑いをする。ここまでは何も言わなくてもついて来てくれたけど、さすがにこれ以上はついて来てくれない……よね。ノストさんだし……。  とか思って言ったら、不意に、ノストさんの目付きが怖くなったよう……な……?! 「……てめぇ……」 「は、はいいっ!? な、なんで怒ってるんですか?! 私、何か悪いこと言いました!?」 「相変わらず物分りが悪い馬鹿に嫌気が差した。それに凡人の記憶容量がかなり少ないことにイライラする。それから勝手に先走って押し付けて何もわかってないのがムカつく。大体、信用しろっつったのはてめぇだろうがふざけんなこの口先女」 「か、勝手に動いたことは謝ったじゃないですかっ!しかもまた名前が~ッ!! ……って、え??」  すっごい長々と、しかも区切れなしに文句を言われて、さすがにちょっとへこみそうになった。だ、だって全部事実だから……!  でも、最後の言葉だけ、妙に耳に残った。   『大体、信用しろっつったのはてめぇだろうがふざけんなこの口先女』  信用しろって言ったのは私なのに、口先女……。  ノストさんは、ちょっと私を信用してくれたみたいだった。じゃあ、それってつまり……私が、ノストさんを信用してないってこと?うそ?? そんなことないと思うけど……。 「何も言ってねぇだろうが」 「え?」 「さっさと行け」 「あ、はい……」  不機嫌なノストさんの声に言われるまま、私はドアを開く。チラっと背後を見ると、ノストさんも当然のように礼拝堂から出てきていた。  そういえば、ノストさん、ずっと前に、勝手についていくみたいなこと言ってたっけ。でも、こういう個人的なことについて来てくれると思わなかった。自分至高主義さんだし。  ……あ……もしかして、このことかな。  「ノストさんはこんな人」って、私が勝手に作り上げてるんだ。だから、こうはしてくれないだろうって思う。  今も、ノストさんは自分主義だから、ついて来てくれないと思った。だけど実際は、彼は最初からついて来てくれるつもりだった……みたい。  ……ノストさん、私が思ってるほど、私のこと、「他人」って思ってないのかな……。  でも、そうだよね、言った私が信じなきゃダメだよね。私は……ノストさんが迷子なんて有り得ないんだけど、もしそうなったら絶対探しに行く。  そんな感じで……もう少し、信じてもいいのかな。もし私が迷子になったら、ノストさん、探しに来てくれるって。……うーん、想像つかないや。 「いるな」 「……はい」  すぐ近くにあったドア……イソナさんの部屋の前に立って、私は頷いた。が、「違ぇよ」と、ノストさんは廊下の先へ視線を向けた。  へ?と奥を見ると、1箇所だけ、開いているドアがあった。……何で気付かなかったんだ私……。  ゆっくり近付いていって、恐る恐る部屋の中を覗くと、そこは厨房だった。そこにあった食卓に、コチラを向いて座る青髪の女性……イソナさん。神官服は着ていたけど、帽子は珍しく取られていた。  その彼女の青緑の瞳と、ばっちり目が合った。  ぎゃー!!と思って頭を引っ込めたけど、もうバレちゃってるから、きっとかなりマヌケだったに違いない。あーもう何やってんの私~!! 「……何か用か?」  ドアの縁の影で、恥ずかしさと緊張で頭を抱えていた私に、イソナさんが静かに問い掛けてきた。どっきーん!と固まる私。何か煮ているのか、グツグツという沸騰する音が聞こえた。  こ、これ以上、マヌケなことはしたくないっ……!でも、オカゲで(?)ちょっと恐怖が薄らいだ……よし、バレちゃったし、えーいこうなったら!  と、私は、部屋の入口の真正面に立った。イソナさんも、イスに座ったまま私を見る。厳しいその眼にたじろぎながら、私は声を出した。 「……お……お話、しに来ましたっ」 「何の話だ?」 「えっ? ……あ、えっと……せ、世間話……?」 「………………」  ……イソナさんは、呆れたように黙り込んだ。た、確かに……何話すとか考えてなかった!ああどうしよう~~!!  頭の中パニックな私とは裏腹に、イソナさんは、テーブルの上にあったティーポットを手に取って、言った。 「まずは、座れ」 「……へっ?」 「座れ。その方が話しやすいだろう」 「あ、そう……ですね」  そう言いながら、イソナさんはティーカップを取りに席を立つ。私が困惑した顔でノストさんを見ると、ノストさんは目で『行け』って言ってきた。ちょっと背中を押された私は、厨房に入って、テーブルの手前の席につく。ノストさんも隣に座ってくれた。  3つのカップを用意して座り、そのうちの1つにオレンジ色の液体を注ぎながら、イソナさんが問う。 「リンカティーは好きか?」 「あ、はい!大好きですっ。おいしいですよね!」 「そうだな。私が一番好きな飲み物だ」  振られる言葉になんとか頑張って答えようと思って、元気に言う私。いつもの厳しい顔だからそうは見えないけど、イソナさんもそう言う。  3つのカップにオレンジ色の水面が張って、それぞれイソナさんが差し出してくれる。それにシュガーポットから砂糖を入れてから、私はリンカティーを飲んだ。ふ~……うん、おいしい。落ち着く味です。ノストさんも気に入ってくれたらしく、一気に飲んでいた。  ……さて、何を話そう。なんだか、レネさんの家に潜入した時を思い出す。  でも相手は、一度、私を壊しかけた人。未だに怖いから、何も話題が浮かんでこない。  私が困って、ただカップを両手で包んで、温かさを感じていたら、 「……神官とは、すべての者に対して平等であることが原則だ」  同じくカップを置いていたイソナさんが、呟くように語り出した。 「悪人も、善人も、関係なくだ。すべての者に、変わらぬ態度で接する。それが、神官にあるべき姿」 「………………」 「私もそうあるべきだと思い、そう接してきたつもりだった。……しかし……一人だけ、どうしても好きになれない者が現れた」 「…………はい」  ……当然、私のことだろう。思わず小さく返事をしてしまう。 「……人間は……所詮、人間だ。すべての者を慈しむような神にはなれない。そうしようと思っても、その感情だけは変わりようがない……」  自嘲するように言って、イソナさんはリンカティーを飲む。そんな彼女を見てから、私は手元のカップに視線を落とした。橙色の水面に、私の顔がぼんやり映る。  ……確かに。神様は、実際に話したけど、平等そうだった。慈悲深い……っていうのは、ちょっと違う気がするけど。とにかく、語る中、あの人の口調が変わったことは一度もなかった。  人間は、神様にはなれない。だからきっと、人の好き嫌いはなくならない。  だけど……それと同じで、神様は、人間にはなれない。だからきっと……人間にしかないものって、絶対あるはずで。  顔を上げた私は、イソナさんに微笑んで。カップから片手を離し、その手を彼女に向かって差し出した。 「……?」 「私が嫌いっていう気持ちは……変わらないと思います。私達は、神様じゃないですから。……私も……まだ、貴方が怖いです」  訝しげな顔をしてその手を見つめるイソナさんに、私は笑みを浮かべたまま、正直にそう言った。  きっとそれは、仕方のないことなんだ。私がイソナさんを今、怖いって思ってるように。イソナさんが私を今、嫌いって思ってるように。  でも、 「でも……好きになろうって、努力することはできるはずです」  嫌いな人がいても、それはきっと、その人のことをよく知らないだけなんだ。よく知らないと、一面しか見ないから、その面だけで相手を判断する。本当は、何か事情があるかもしれないのに。  イソナさんが私を嫌う理由は、知ってる。だから私は、怖いけど勇気を出して、今、また彼女の前にいる。きっと理由がわからなかったら、私はここにいなかった。  イソナさんも少し反省してるって聞いてたから、私が調子に乗ってそんなことを言うと、イソナさんは無言で視線を逸らした。  ……やっぱり、ダメかな……仲直りとまでは行かなくても、普通に話せるようになりたいんだけどな。  手を下ろす私の前で、イソナさんは何も言わずに席を立ち、背後にあった、火にかけているお鍋に近付いた。 「昼食は食べたのか?」 「……へっ?まだ、ですけど……」  突然な脈絡のない問いに、私が首を傾げながらそう答えると。……ぐるるーっとお腹が鳴った。はっとしてお腹を抱えるけど、時すでに遅し。  う……うわあすごい恥ずかしい……!! い、いやよく鳴るんだけども!いつも聞かれてるノストさんならともかく、イソナさんに聞かれた……!お腹の馬鹿~ッ!! 「……あ、あはは~……」  こちらを振り向いたイソナさんに、とりあえず私が苦笑いすると、イソナさんは口元を緩めて笑った。  ……え、今、笑った?イソナさんが……笑った!? そ、そういえば初めて見た……! 「パスタは食べれるか?」 「あ、はいっ、大好きです!」 「やはりそうか。ただの偶然だが、運が良かったな」 「え?『やはり』って……」  私の言葉は聞かないまま、イソナさんは、私の前に、お皿に盛られたナポリタンスパゲティを置く。おいしそう……!  って、い、いやそうじゃなくって!ノストさんの前にも同じものを置くイソナさんに、私は流されかけた言葉で聞いてみた。 「『やはり』って、どういうことですか?それに、これってイソナさんの昼食なんじゃないですか?」  まさか、私がパスタ好きだって知ってて、準備してたわけじゃないだろうし。大体、イソナさんは、私達がここに来るって知らなかったはず。ってことは、彼女は自分の分しか作ってないはずだ。……あれ、でもノストさんの分もあるから、一人分じゃない……? 「ただの余り物だ。あと二人分はあるから十分だ」 「あ、一気に全部ゆでちゃったってことですね……でも、どうして私がパスタ好きってわかったんですか?」  イソナさんは、後ろの問いには答えてくれた。でも私が一番気になってたのは前の問い。今度はちゃんと言葉に出して聞くと、イソナさんは淡々と。 「そんな気がしただけだ」  ……つまり、勘らしい。どんな気なんだ……。  釈然としないまま、私がフォークを持ったら、不意に隣のノストさんがガタっと腰を浮かした。何気なく、左の彼を振り向いた直後。  バキャアァァアッッ!!! と、凄い音が頭の後ろでした!  何の音~!?と私が、今度は反対の右を振り向くと、そこの壁が派手にぶっ壊れていた!さっきまで行儀よく縦に並んで壁を作っていた木板達が、真ん中から突き破られて無残に割れていた。  ふと気付くと、さっきまで左側にいたノストさんが、私の右側に立っていた。手にはフォークじゃなくて、ジクルドが握られている。  あ……もしかして、守ってくれた……のかな。飛んできた木の板から。……イスに座ってフォーク持って、食べる直前の格好の私を。う、うう……なんかマヌケすぎて申し訳ない……。 「ひゃ~っ、びっくりしたー!」  一体、何が起きたんだろ?と、人が通れそうな大きさの穴が空いた壁を見ると、向こうから女の人の声がした。  ……あれ?なんか、聞き覚えが……あるような……。  でも、なんだろう……聞き覚えが……ありすぎる?  誰だろ? 「まったくお前は、一体何をやったんだ……後で壁直すんだぞ」  イソナさんが呆れた声で言うと、壁の向こうの声の主は、穴から姿を見せた。  穴を通ってこっちの部屋に入ってきながら、片手で謝るポーズをした、その女の人は。 「ごめんイソナ姉!でも、コイツの力、わかったよ!」  聞き覚えがありすぎる声で、見覚えがありすぎる顔で、楽しそうに笑った。 「――――――――――……………あ…………」  ……声が、出なかった。  今まで何を考えていたかも、忘れた。  今の状況が、のみ込めない。でも、頭の何処かで理解してて、だから驚いてて。  ただ、目が大きく見開かれていくのだけがわかった。 「あれ、お客さん?あははっ、びっくりさせてごめんね! ……あれっ??」  彼女は笑いながら、立っていたノストさんにそう言って、それから、ノストさんの陰で唖然としている私を覗き込んで……気付いた。  私そっくりの顔でこちらを見て、私とは違うワインレッドの瞳を驚いたように見開いた、彼女は―― 「…………ルナ……さん……?」  気が付いたら、そんな呟きが唇からこぼれていた。  こちらを見る、驚いた瞳。  ――今、彼女は、何を考えているんだろう。  いろんな感情が混じり合う中、驚愕だけが強烈だった。  やがて、ルナさんは…………とても嬉しそうに、微笑んだ。 「あははっ……なんだか、不思議な気分。同じ顔してるのに、こうして顔合わせるのは、初めてなんだよね。……初めまして、ステラ。会いたかったよ」  私よりも大人びた綺麗な笑顔が、私よりも優しい落ち着いた声が、静かに染み入る。  ……………………