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fragment

54 Ash02 
波紋

 ――おかしなものだ。  あんなに嫌いだったのに。憎かったのに。  消えてしまえばいいと、そう思っていたのに。  だが、いざ傷つけてみたら、心が軋む。  罪悪感。 (……所詮、人間は、心なき化物にはなれない……か)  ステンドグラスが変質させた、色鮮やかな朝日が差す教会。神官服はそのままに、白い帽子を脱いだイソナは、祭壇の正面にいた。  いつもは自分が立つ祭壇。だが、こうして見てみると、その場所は、今更ながらひどく聖なるものに見えた。  他人には、自分は冷たい人間に見られているかもしれない。そう思われても仕方ない職にいるのも確かだ。真面目すぎるというのも報われないものだ。  違うのはそれだけで、人並みに感情だってあるし、怒りもすれば悲しみもする。しかし、神官というのは、すべての人間に分け隔てなく接する者。 (……私は、神官失格だな……)  そう思って、イソナは小さく嘆息した。  気持ちをコントロールできないなんて、神官失格以前に、人として未熟だ。なんて幼稚なんだろう。  祭壇の奥の、ステンドグラスを見上げる。その青緑の瞳は、窓の、ずっと、ずっと遠くを、見るように。 「……神よ、貴方は、私を罰するでしょう。私が、神官として、してはならない行動をしただけでなく…………私は……」  ……と、そこで。  かすかに耳朶を叩いた音。人の声が聞こえた気がして、イソナは口を閉ざした。注意深く、ゆっくり教会内を見渡してみるが、自分以外には誰もいない。教会の扉も、奥へ続くドアも開いておらず、音源らしきものは見当たらない。  空耳かと思った時。さっきより少し大きくなった声を、今度は確実に捉えた。 『……んで…………てく……よ!!』 『任……し、……気にな…こと言っ……ら』 『なら、……で行…よ!』 『ボク……覚が、鋭くないから』 『ああぁあくそっ、何でこーなるんだッ!!』  誰かの話し声。それがどんどん音量を増してきたかと思ったら。  バシュッ!と、教会の中央、イソナの背後で閃光が弾けた。驚きつつも、イソナはとっさに顔を背けて視界が焼かれるのを防ぐ。  光は一瞬。すぐに後ろを振り向くと、いつの間にかそこに、二人の人影があって、 「いってええぇーーーッッ!!!!」  細長い絨毯の敷かれた通路に座り込んだ黒い服を着た者が、漆黒の頭を両手で抱えて、天井に叫んでいた。その声は、大きな礼拝堂にエコーして響く。その声音と体格から、少年だと見分けた。  大きく仰け反って声を張り上げてから、黒い少年は、食らいつく勢いで、もう一人の人物に言った。 「おいまたヴィエルミスったぞ!! イスの角に頭ぶつけたじゃねーか!モロに入った!てめぇのせいだ!つーか何でお前は普通に着地してんだよ!」  無様な着地を自分で明かしながら、そう言う少年。その黒い少年の隣、ちょこんと座り込む白いドレスを着た少女が、少し悩むように間を置いてから。 「……日頃の行いがいいから?」 「これの何処がだっ!!」  ……何だコイツらは。  呆然とそのやり取りを見ていたイソナは、やっとのことで、そう思った。  いきなり現れた二人。彼らは会話で、転移ヴィエルと言った。ということは、よくわからないがワープでもしてきたらしい。にわかには信じられないが、とりあえずそういうことにしておく。 「……何だ、お前達は」  ようやく二人に声をかけると、二人同時にこちらを向いた。  肌が浅黒い少年。純白の髪の少女。おかしなことに、二人とも、耳があるべき場所から、耳の代わりに羽のようなものが生えていた。少年は固そうな深い黒の羽、少女はぱたぱた動く淡い黄の羽。  ――人間では、ない?  イソナが少し警戒しながら、そう思っていると。黒い少年――セルクは、はっと、ここに来た理由を思い出した。 「って、こんなことしてる場合じゃねぇ!ステラは何処だ!?」  途端に焦りが浮かんだ顔でばっと立ち上がり、考えなしに駆け出そうとして。いや落ち着け自分と、立ち止まって、紺の瞳をいったん閉じる。 「……っ……こっちか!」  再び目を開くと同時に、セルクは、イソナの横を凄い勢いで通り過ぎていく。教会の奥へと続くドアを乱暴に開け放ち、廊下を走っていく黒い背中。  振り返り、その背を目で追っていたイソナは、驚愕に目を見開いた。なぜなら、彼が迷わず飛び込んだ部屋こそ、ステラが寝かされている場所だったから。  なぜ、わかった?  ただの勘じゃ済まされない。  何者?どうなってる?  なんて常識外れな…… 「―――常識って、何のことか知ってる?」  すぐ、近く。まるで心の中を読み取ったような、そんな言葉。  ぎょっとして、聞こえてきた少女の声に振り返ると、白い少女――ミカユが、すぐ隣にいた。  虚ろにも見える水色の瞳でイソナをまっすぐ見て、彼女は言う。 「常識って、要するに、自分の世界ってことなんだ。だから、自分の世界じゃ考えられないことは、常識外れって、そう呼ぶ。キミにとっては、セルクの感覚は常識外れ。でもボクらにとっては、これが常識なんだ」  そう言い捨てると、ミカユも、走るような速度で宙を滑って、開け放たれたままのドアを通り抜けていく。  イソナは、今度は白い背中を、呆然と見つめていた。   ////////////////// 「ステラッ!!!」  バァン!!と破らん勢いで開け放たれたドアとともに、切羽詰まった声が転がり込んできた。  ドアが開く一瞬前、誰かが廊下を走ってくる気配を察していたサリカだったが、その勢いと大声までは予測できなかった。ベッドの脇のイスに座る彼が、反応しきれずにぱちくり瞬きする目の前を、黒い少年が早足で通り過ぎる。  セルクは、ベッドの上に寝かされた、静かに目を閉じて眠る少女の顔を見て。欠けたその何か、、を感じ取り、くっと唇を噛んだ。 「っ……やっぱりかよ……!」  ステラの気配・・が弱まったと思ったから、嫌な予感がして飛んできた。そしたら……案の定、これだ。  ――ずかずかと部屋に入ってきた、この黒い少年。確か前、オルセスで会った。白い少女とセットで。ステラが無条件に信じていた人物。  今、彼が放った、『やっぱり』。予期していた物事が実際に起こった時に出る言葉。  つまり…… 「……セルク、君は、【真実】を知ってるんだね」  ベッドの傍に立ち尽くす彼に、サリカが静かに声をかけると、セルクは驚いた顔をしてこちらを振り向いた。 「あ、でも、君はスロウの部下だし、考えてみれば当然か。スロウも全部知ってるからね。……アイツは、全部知った上で、ヒースさんとゲームし始めたんだから」  と、そこで。無意識に声が暗くなっていたことに気付き、サリカはそこで言葉を切った。  一方セルクは、当然のようにそれを口にしたサリカに驚いていた。オルセスで会った時は、ただの神官としか思わなかったが……彼は、明らかに【真実】に詳しすぎる。  一介の神官が、なぜ―― 「何でお前が、そんなこと……」 「私は、教団でも上の方の者だし、何よりルナの関係者だからさ。その話はよく知ってるよ」  顔にそんな思いがありありと出ていたらしく、サリカの返答は早かった。  そこに、廊下から白い少女――ミカユが部屋に入ってきた。セルクと同じく、ベッドに横たわるステラを見て、変化に乏しいその顔を少し悲しげな色に変える。 「……セルク……やっぱり、何も聞こえない。ステラ君の『心』が、聞こえない……」  一目見れば、相手の記憶、思いなど、すべてを読み取るミカユ。それは、眠っている者に対しても変わらない。  そんな彼女が。ステラを見ても、何も読み取れなかった――。 【真実】を知ったら、壊れてしまう  【真実】を知る者たちが、口を揃えて言う言葉。  彼らだけが知る、壊れたモノの正体。  心。  精神。  意識。  そういう言葉で括られる、「ステラ」という人格を構成する部分――。 「………………」  ――何も知らない者に、そのことが言えるはずがなかった。今、ここにいるメンバーで、【真実】を知らないのは……ノスト一人だけ。それでも彼も、本能的に、何かが足りないと感じているようだった。  そのことを伝えたら、どんな顔をするだろう。あの無表情が、少しは揺らぐだろうか。どちらにせよ、彼にはステラが必要だと、大した理由もわからないままそう思う。  ベッドの上、眠るステラ。こうして彼女が壊れた・・・ことで、ようやく気付いた。  すべての人間にありのままで接する彼女は、その地位にいるフィレイアさえも敬意を抱くほどに、まばゆい「太陽」だったということに。 「くそっ!! やっぱり、行かせなきゃよかった……!止めればよかった!」  どうして、あの時。声が出せなかったのだろう。セルクは力任せに拳をベッドに叩きつけ、声を荒げた。 『私は、自分で【真実】を知って、壊れた方がいい』  まっすぐな瞳で、そうとまで言ってのけたステラ。  フェルシエラに向かう途中、マオ山道で、力づくにでも止めるべきだった。こんなに後悔するくらいなら、止めればよかった。  あの時、喉は凍り付いていた。あの強い想いに、自分は及ばなくて。  自分が腹立たしい。――しかし、おかしなことに、そこまで悲しくはなかった。  「意識」、「心」が壊れたということは、「死」と同義と言ってもいい。それはわかっている。  だが、なぜだろう。ステラが、こうして目の前で眠っているように見えるからか……不思議と、彼女がすぐ傍にいるような気がして。  幻覚だとは、わかっているのに。  うなだれるセルクの後姿を見てから、ミカユはサリカを向いて口を開いた。 「……ステラ君に、【真実】を告げる権利を持つのは、あの人・・・と、イソナ君っていう人間だけ。教えたのは……イソナ君?」 「へぇ、それも知ってるんだ。ってことは……なんだ、全部知ってるわけか」  その問いに、サリカは驚いたように目を瞬いて、そして参ったように笑った。 「そう。昨日、ステラに【真実】を教えたのは、イソナさ。……まぁ……教えたというより、こぼしたって感じだったけど」 「こぼした……?」 「―――――吐け」  ……染み入るように。自然すぎるほど自然に、会話に割って入ってきた声。  開けっ放しのドア。三人が振り返るそこに、無表情のノストが立っていた。  いつも通りと言えば、いつも通りだ。しかし、少し見方を変えると、ひどく怒っているようにも見えた。さっきの声だって、思い出してみれば、氷のように鋭く。  ――ステラを探して運んできて、少しこの部屋にいた後、彼は姿を消していた。自分の部屋にいたのか、教会の外に出ていたのかは、この部屋にずっといたサリカにはわからない。何か、、が足りない、抜け殻のようなステラを見ていられなかった……のかもしれない。ノストの胸中は、自分にはわからない。  どっちにしろ、彼の逆鱗に触れたらしいことは確かだ。その心当たりも、大体予想がつく。 「……【真実】のこと、かな?」  サリカが、クイズの答えを当てるように、のん気な口調で聞いてみた。ノストの様子は全然変わらない。しかし、かすかに眉が寄ったのを、サリカは見逃さなかった。  ノストも、【真実】に関しては、当事者であるステラと同じようなものだ。……何も、知らない。  だからこそ、こう言っているのだろう。『【真実ソレ】を、洗いざらい吐け』と。  ステラを壊すと言われてきた【真実】。恐らく、それをイソナが教えたと話していた辺りは、完全に聞かれていた。さすがと言うか、まったく気配を掴めなかった。理解の早いノストのことだから、すでに、ステラが【真実】を聞かされたのと、彼女が今、昏睡している理由とは、切り離せない関係性があると見抜いているだろう。  睨みつけた詐欺師の顔。何処となく笑っているように見えて、またムカつく。  自分がいつになく、ひどく苛立っていることをぼんやり感じた。理由はわからない。ただ、すべてに苛立ちを感じる。  ステラが起きないこと。  その理由を知っている連中。  何もできない自分。  【真実】を知っている奴が、こんなにたくさんいること。  にもかかわらず、口にしようとしない彼ら。  ……挙げたらキリがないくらい。 「断る」  きっぱり答えたのは、サリカではなく、背中を向けているセルクだった。  ――刹那。  虚空から現れた銀色が、空間を裂いて、  ガギンッ!!  ……そして、鉄を殴ったような、妙な手応えがした。  どうやら思っていた以上に、自分は気が立っていたらしい。ノストは、返答を聞くと同時に、ほぼ反射的に切りかかっていた。 「………………」  いや……それよりも。  これは、どういうことだ?  切れぬものはない聖剣ジクルドの刃が。  目の前で、振り返り、おもむろに上げられたセルクの腕の甲・・・で止められている。  内心で驚愕したのは一瞬。セルクがもう片方の手を上げたのを見て、とっさに頭を横にずらした。その直後、音さえ無く、頭のすぐ脇を、視界を焼くほどのまぶしい閃光が通過した。遅れた銀の髪の毛先が、無残に焼き消える。  ――左の視力を焼かれた。光に眩んだままの視界で、ノストは無意識にセルクから距離を置いていた。視力はすぐに回復したが、その間隔を詰めて切りかかるようなことはしなかった。  間合いを気にするのは、相手が自分と同等、もしくはそれ以上の時。……かなり不服だが、認めざるを得なかった。  彼は、自分より上手だ。  軽くあしらわれた感覚。まるで、亡きヒースや、父のラスタを相手にしているようだ。……いや、もしかしたら、二人よりも上?  ――この少年、かなり強い。  自分の剣を、目も向けずに止めてみせたのだ。ヒースやラスタでさえも一瞥して防ぐ、それを。  剣を振り下ろした時に我に返って、刃が相手に触れる寸前に、急いで剣の腹に変えようとしたが、できなかった。しかし……刃は、セルクを貫かなかった。  なぜ、生身の腕で受け止められた?あの奇妙な手応えは、一体――― 「お前なら避けると思ったから、6割くらい本気で放った。無駄に長生きしてるわけじゃねぇぞ」  部屋での攻防だった故に、二人の距離はさほど広くない。微妙な間を置き、思考を巡らせているノストに、セルクが言う。ジクルドの刃を苦もなく止めた腕を腰に当て、 「言っとくが、ディアノスト、お前に俺は倒せない。ミカユもだ。まぁ、元から死ねる存在じゃねぇけどな……俺達は、人間じゃねぇから」  ふと、セルクの両耳――固体の黒い羽が目に入って。今更ながら、その違いを実感した。  自分は、時の流れはおかしくなっているが、基盤は人間だ。しかし、セルク、そしてミカユは……その基盤から、違う。  自分達とは、根から違う存在。  ……いや、それはわかっているが。  年下に見える少年に劣るということで、プライドが悲鳴を上げているというか。今度はまた別の意味で、セルクを睨みつけていた。  ジクルドを消してなお、非常に友好的ではないその視線を、セルクは紺の瞳で受け止めながら言う。 「で……話戻すけど、お前、【真実】を聞いてどうするつもりだよ?どうもできないだろ。なら、知らない方がいい」 『……だから……知らない方がよかった。何も知らない頃が、幸せだった……』  ――3年前の、ヒースの言葉が蘇った。  憶えている。あの言葉を否定した、自分の言葉を。 「いいから吐け」 「でも……」 「仕方ないねー、教えてあげるよ」  強いノストの声に困惑するミカユを遮って、サリカがわざとらしく声を上げた。勝手にそんなことを言ったサリカを、セルクが驚いて振り向く。サリカは「まぁ任せといて」と言い、エメラルドグリーンの髪を揺らしてイスから立った。相手が詐欺師サリカだからか、彼を見るノストの目付きは厳しい。 「ノストは、言い出したら聞かないからねぇ。それにどうせ、そろそろ聞くことになるだろうし、問題ないでしょ。せっかくだから、私たち【真実】を知る者が、ステラにそれを喋れない理由から教えよう」  自分と同じくらいの高さにある、いつになく怖いダークブルーの瞳を見据えて、サリカはくすりと笑った。 「……『喋れない』?」 「お、さすが、よく聞いてるね。……そう、私達は、目に見えないモノに縛られてる」  そこまで言って、サリカはセルクに目を向けた。セルクは観念したように溜息を吐き、「言えばいいんだろ、ったく……」と、面倒臭げに漆黒の頭を掻いてからノストを見て、話を引き継いだ。 「……お前も聞いただろ。今、【真実】を語れるのは、二人だけだ。そいつらのことを告示者ノーディシルって呼ぶ。それ以外の奴が、そいつらより先に、ステラに【真実】を教えようとすると……『天罰』が発動するようになってる」 「……天罰?」  無意識に、眉が寄るのがわかった。  それは……なんて非現実な。天が下す罰――つまるところ、神罰ということか? 「ううん、違う。神が下すんじゃなくて、そうなるようにオースが導かれてるから」  ミカユの、心を見透かした言葉に、ノストはそのことを思い出した。そうだ、彼女は相手の心を読む――。  オースは、神の力の一部。希薄だが自我を持つものだ。  気まぐれなその力たちは、通常なら神しか導けないが、複雑なそれの性質や法則をよく理解すると、人の身でも導くことができる。それができたのは、初代セフィス・アルトミセア=イデア=ルオフシルだけだ。  3年前に発動させた、ヨルムデルでアルトミセア真言を唱えると転移する仕掛けがそうだ。アレは、アルトミセアが、後人達をグレイヴ=ジクルドがある場所へ導くために、オースを組んで作り上げた術式らしい。カルマは後でフィレイアから預言を聞いたが、ノストは知らぬままだった。  つまり――  権利を持つ二人のノーディシル以外の者が、ステラに向かって【真実】を口にしようとした途端、オースによって何かが引き起こされる。 「私は、記憶を消されるって聞いてる。その人の持つ、すべての記憶。言おうとした瞬間に記憶がなくなるなんて、割り合わなさすぎだろ?それだけ厳重に守られてるってことなんだけど。だから誰も口にしたがらないし、何より……言いたくないからね」  簡単な説明だけで呑み込んだらしいノストに、サリカが肩を竦めて言った。  オースを、導く。――詳しくは知らなくても、それがどれほど困難なことかは、すぐ予想がついた。何と言ったって、神の力を導くのだ。そう簡単に思い通りには行かないだろう。  アルトミセアが作った、転移の術式。それですら信じられないというのに、【真実】を封じる術式は、人の思考さえも読み取って発動するというのか?  一体、誰がそんなものを…… 「オースに詳しいのは、アルトミセアだけじゃないんだ」 「………………」 「……不愉快だったら、ごめん」  自分の思っていたことに答えるミカユに、ノストが思わず視線を向けると、彼女は申し訳なさそうな顔をしてうつむいた。勝手に心を読んでいることを言っているらしい。大したことは思っていないから、別に構わないが……口に出さなくても答えが返ってくるのは、便利なのか不便なのか。  ノストが理解しきってしまったのだと見ると、サリカは困った顔をした。 「じゃ、次はいよいよ、【真実】の内容について……か。うーん……」  サリカとしては、あまり喋りたくなかった。口に出してしまえば、それを認めざるを得ないようで怖い。例え、ステラはルナとはまったく違うのだと、わかっていても。  そんな想いが足を引っ張って、サリカが少し口を渋らせた時。  ―――見ていてイライラするわ―――  ……水面に雫が落ちて、溶けるように波紋が広がるような。  そんな「声」が、部屋に響き渡った。