光波の導き
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sister

24すべてを知る者

 混沌神語は、実はいろいろなところで使われている。  例えば、セントラクス。<気高き聖地>っていう意味がある。これは、セントラクスが今は亡きアルトミセア教国の首都だった時の名残だ。  アルトミセア教国は、少し昔に存在した、グレイヴ教団を軸とした国。国名の由来は、初代セフィスの名から。  前にも言ったけど、実質的には、セントラクスの司教さんが教団を仕切っている。実はアレにはまだ続きがあって、その司教さんより上に立つ……つまり、教団の頂点に立つ存在がいる。  それは、セフィスっていう名の役職。教皇というのが慣例の呼び名だけど、歴代セフィスは女性ばかりだから一般的には聖女と呼ばれている。  昔、グレイヴ教と教国を発足させたアルトミセア=イデア=ルオフシル様っていう女の人がいて、その人は物凄く神秘的な人だったって話。  そしてセフィスは、教団の頂点に立つと同時に、彼女の後継ぎということらしい。ちなみに、血縁関係で選ばれるわけじゃないそうだ。  そのセフィスは基本的に、シャルティアの取締役。シャルティアの国政に意見することができる人だ。  そこまでグレイヴ教が影響力を持つのは、アルトミセア教国が関係してるんだけど……それはまた今度。とにかく、セフィスは頂点に立ってはいるけど、教団にはあまり関わることがない。 「光……?」 「そう」  ロン豆っていう、今が旬の豆と貝のスープが入ったカップを持ちながら言ったサリカさんの言葉を復唱すると、彼女は頷いてスープを飲んだ。正面の私もなんだか納得しながら、いろいろ混ぜて炒めたご飯を食べる。  カノンさんが消えた途端、霧は晴れ、時間が戻ってきたみたいに街は賑やかになった。聖堂で立ち尽くしていた魂さんも、当たり前のように両手を組んで祈り始めた。  ……みんな、自分達が魂だけになっていたっていうことを知らないみたいだった。助けてくれとか言ってたのにね。でも、消えちゃった人達は……やっぱり、帰って来てないみたいだった。  にしても……また結局、謎ばっかり残っちゃった。  カノンさんが、一体何者だったのか。それと、私のお姉ちゃんって、どういう意味なのか。スロウさんのこともあって、なんだか最近謎ばっかりで頭パンクしそうだよ~、はぁ……。  とりあえずお昼だから、私達は聖堂の奥の厨房でご飯を作って食べている最中。メニューは寂しいけど2つだけ。意外と利用する人が多いのか、厨房の隅に真四角のテーブルがあったから、そこで食べてます。 「光とか、光輝とか、煌きとか。そういう関係の意味があるんだ。名前からもわかる通り、彼女は、望まれて生まれてきたんだ。だから姿を嘆くことは、母親に失礼なのさ」 「そういう意味だったんですか……」   『誰でも、生まれたからにはその姿で生きるしかないんだ。生い立ちや容姿を嘆くのは、時間の無駄だと思うけどねぇ?』  数時間前、カノンさんに向かってサリカさんが言った言葉。その意味がようやくわかった。  サリカさんが言うには、カノンさんの「カノン」っていうのは意味のある混沌神語で、大体「光」って意味らしい。そんな名前をつける母親が、カノンさんを望んでいなかったとは思えない。だから、胸を張れって……そう言いたかったんだ。   『【真実】を知った時、アンタはきっと壊れてしまう』  カノンさん……たくさんの謎を残して、消えてしまった。彼女の正体、私と彼女の関係、そして……【真実】。  【真実】……【真実】ってなんだろう。漠然としすぎてて、何のことなんだか……。 「―――【真実】は、ルナ関係のことだよ」 「……え?」  顔を上げた。いきなり、私の心を読んだかのようにそう言ってきたのは、無論サリカさん。サリカさんは口元に笑みを浮かべて、私を見ていた。  ……見逃していた。気付かされた、最後の謎。  サリカさんは、何者なのか。 「……どうして……サリカさんが、そんなこと……」 「フフ、何でだろうね」  私が呆然と聞いてみるけど、サリカさんはその笑みのまま、さらりと受け流した。  カノンさんが帰る場所を知っていたり、今みたいに【真実】について知っていたり。……サリカさんも、謎が多すぎる。まるで……すべてを知っていて、それを傍観しているような、そんな感じ。  わからないことだらけだ。この間はスロウさんについて悩まされたかと思ったら、今度はカノンさんやサリカさん……ノストさんは、最初っからだからいいとして。  ロン豆と貝の温かいスープを飲む。口に入ってきたロン豆を噛みながらカップを置いて、ふと、頬杖をついたノストさんがこちらを見ていることに気付いた。一人一辺って感じで座っていたから、彼は私の辺と垂直関係にあるところにいる。  ノストさんも、私が見られていたことに気付いたってわかったらしく、私に一言。 「立ち直りは早いな」 「え? ……あ、はい」  一瞬、何のことかわからなくてキョトンとしてから、すぐに心当たりを見つけて気の抜けた返事をした。その返答でよかったのか、ノストさんは私から視線を外す。  ……もしかして、私が悲しんでたから、心配してくれたのかな。カノンさんが消えて、まだ少ししか経ってないから。実際、ご飯を食べる前まではずっと引きずってたし。心配してたかどうだか分かんないけど……ま、そう思っておこっと。 「あ……そういえばノストさん、スプーン持てたんですね」  ノストさんの右腕……裂かれた服の下から覗く白い包帯を見て、私は言った。  包帯を巻いたのは私。なんたって、私のせいでノストさんは傷を負ったんだし……。  見かけ以上に結構深くて、よくこれで剣が持てたなぁ……もしかして根性で(というかプライドが)離さなかった?とか思った。でも、根性いるわけでもないスプーンが持てるってことは、本人はそんなに苦痛じゃなかったのかな……? 「でもさすがに、いつもより動作がぎこちなかったね」 「ええっ??」 「あれ、気付かなかった?フフフ」  不敵に笑いながら言うサリカさん。う、うそ……ぎこちなかった!? あのノストさんが!? あ、でも……い、言われてみれば、1回くらい食器の音したかも……。   『ノスト君は自尊心が高いから、自分のことで他人に迷惑がかかるのが許せないんだ』  ……ふと、ミカちゃんの言葉が蘇った。確かにそうだ。だって、まさに今がそれだから。  ノストさんは、自分のことは自分できっちりこなしてるから、隙がないんだ。他人を頼らずに、自分の力で解決する。それは、とっても凄いと思う。でもそれって……他人は信用してない、ってことと同じ。  苦しかったり、難しかったり、自分の力が及ばない時くらい、頼ってほしい。今だって、本当は厳しかったはずなのに。何か一言、言ってくれればいいのに。  なんだか寂しい気分でスプーンを持ち、ノストさんの手元のお皿を見ると、もう空だった。はっとサリカさんのお皿を見ると、彼女は炒めたご飯があと半分くらい。私は……盛った時とほとんど変わらない。 「う、ううっ……ま、待ってて下さいね!? 史上最速で食べて見せます!」 「期待はしねぇぞ」 「そ、そう言わずにっ!」 「普通に食えやかましい」 「あ……はい……」  だるそうにノストさんは言い、お皿とカップを重ねて邪魔にならないところに寄せ、テーブルに伏せた。  あれれ……?こういう時って、大体私のノリに乗ってきてくれるんだけどな……まさか気を遣ってくれてる?さっきまで落ち込んでたから……。  伏せたノストさんの頭を呆然と見つめていると、サリカさんがクスクス笑って言った。 「素直じゃないねぇ。眠いって言えばいいのに」 「えっ!?」  な、なにーっ!? びっくりしてノストさんの近くで耳を澄ませてみると、確かに規則正しい息遣いが……。  ……さっきのは、ただ眠かったから相手にしたくなかっただけか!? お、思わせぶりなっ……!期待した分ショックが大きいよ!そういえばノストさん、前の晩も寝てないんだった! 「もういいですっ、史上最低速度で食べてやります!」 「まぁしばらく起きないと思うし、ゆっくり食べなよ」  そういう意味じゃなかったんだけど、炒めご飯を食べ終わったところのサリカさんはそう言って席を立ち、自分のお皿とノストさんのお皿をすぐ隣の流し台のところに置く。 「さてと……」  お皿を置いたサリカさんは、息を吐いてから厨房の作業台を振り返った。私がいるテーブルよりも、もっと大きな作業台の上には……青い身の剣。無論、カノンさんが持っていたもの。 「最初見た時から思ってたけど、この剣、アルカだね」 「え!? そ、そうなんですか?」 「うん。一見、普通の剣だけど……」  ご飯を食べながら私がサリカさんに聞くと、彼女は頷いて作業台に近付いた。青い剣を手にとり、切っ先を天井に向けて持つ。  近くでよく見ると、身の模様が綺麗な剣だった。青い刃に波のような白い紋様が描いてある。刃の長さは、ジクルドと同じくらいかな。 「こうして近くで見ると、よくわかる。アルカはすべて、オース……あ、混沌時代に溢れてた神の力のこと。それでできているんだ。私のユスカルラも、スロウのラミアスト=レギオルドもね。大体、現代の技術で、こんなに綺麗な剣が作れると思うかい?フフ、さしずめ名前はカノンフィリカかな?」 「カノンフィリカ……どういう意味なんですか?」 「直訳で、光波コウハ……かな。元はカノンのものだからね。まぁ、アルカに命名することができるのは、フィレイア様かアノセルス司教なんだけどね」 「アノスさんはわかりますけど……フィレイア様って誰ですか?」  青い剣……カノンフィリカの切っ先を下ろして言ったサリカさんに、残りはスープだけになった私はなんとなく聞いてみた。っていうか、サリカさんが「様」付けするのって初めて聞いた気がする。  聞かれたサリカさんは、目を瞬いてから、天井に目をやってアゴに手を当てて考え始めた。そしてすぐ、手を下ろして説明してくれた。 「前に、教団の階級の話をしたよね?じゃあ、教団の頂点に立つのは?」 「セフィス……ですよね?」 「正解。その現セフィスが、フィレイア様さ。まぁセフィスはあまり教団に関わらないから、教団に入らないと知らないと思うよ」 「へぇ~……」  聖女様って、フィレイア様って言うんだ……やった、1つ物知りになったぞっ。しかも、ノストさんも知らないかもしれない情報だし!ふふふ、優越感。  サリカさんはカノンフィリカを片手に引っ提げたまま、厨房を出る方向へ歩き始める。 「私は、コイツのことをフィレイア様に報告しなきゃなんないから、ちょっと行ってくるよ。あ、って言っても、鳩飛ばすだけだから」 「あ、はい。いってらっしゃいです~」  伝書鳩、飛ばすんだ……見たことないから、ちょっと見たかったかも。  スープを飲み終わった私は、去り行くサリカさんの背中にそう言ってカップをテーブルに置いた。コツン、と静かに底が鳴る。  隣には、喋らないノストさん。口を開けば毒舌ばっかだけど……なんか、喋らないのも喋らないで寂しいな。  私は自分のお皿を持ってイスを立ち、サリカさん同様、流し台にお皿を置いた。よし、お皿洗いしなきゃな。  蛇口に手を伸ばしかけて、私はふとテーブルを振り向いた。ノストさんは、相変わらず伏せて寝ている。 「………………」  ……何かかけてあげた方、いいかな。いいよね。風邪引くかもしれないし。  って、ちょっと待て!ノストさんが寝てる=無防備!こ、これは……チャンスだ!!  シャキーン!とスカートのポケットから櫛を取り出し、そろーりとノストさんに忍び寄る私!ターゲットは……動かない!  そして…………   ////////////////// 「気安く触ってんじゃねぇぞ」 「なな、何がですか?」  とある一軒家の前で、ノストさんが唐突にそう言ったから、横の私はどきーん!としてトボけた……けど、声が裏返った。 「位置が違う」 「……そ、そうなんですか……」  ……ノストさんが寝てる間に勝手に髪を結い直したこと、なんだかバレバレみたいだったから、私はしらを切るのをやめて認めた。でもでも、楽しかったなぁ~♪サラサラしてて、結いがいがあるっていうか!  ノストさんが起きるのを待って、私達は聖堂を出た。このオルセスに来た、本来の目的のためにね!  私も忘れかけてたんだけど、私達は元々、ルナさんの知り合いだっていう人に会いにここへ来た。オルセスの現状調査はオマケだったんだ。そっちの方がメインになっちゃったけど……。  そして今、その人の家の前。先頭に立つのは、やっぱりサリカさんだ。その右肩に紐で担がれている、庶民の私が言えるセリフなのかわかんないけど、薄手の安っぽい布でぐるぐる巻きにされた細長いもの。わかんないだろうけど、カノンフィリカだ。なんだかあの剣、鞘がないらしくて、危険だからってぐるぐる巻きにされてる。  サリカさんはアゴに手を当てて、「うーん……」と困った声を上げた。 「やっぱり……いないみたいだねぇ」 「へ?いないって……」  サリカさんが言っていることの意味がわからなくて、私はその家をもう一度見た。玄関の両サイドには、長方形の植木鉢に植えられた花が咲いている。ちゃんと人は住んでるのに……どういうことだろ?  私達を振り返って、サリカさんは溜息を吐いた。 「何処かに引っ越ししちゃったみたいだ。あの人は、花を愛でる趣味なんてないからねぇ。あはは、真っ先に枯らしそうだ」 「そ、そうなんですか……何処かって、何処ですか?」 「さぁ?」 「さ、さぁって……」  なんとも無責任な言葉に、私は愕然とした。……こ、ここまで来てそれですか~!? 私の苦労は一体っ! 「とりあえず、訪ねてみるだけ訪ねてみましょうっ!もしかしたら、前に住んでいた人の引っ越し先を知っているかもしれません!」 「それもそうだな……」  無駄足だったっていうのが嫌で、私はそう言って足掻いた。それにはサリカさんも納得して、その家の玄関に近付き、ドアの真ん中らへんにぶら下がっている鉄の輪を鳴らした。返事があってから少しして、ドアが半分くらいに開いた。  私達を出迎えたのは、髪の長い、若い女の人だった。訪問者が知らない人だと見ると、女の人は不思議そうに問う。 「どちら様でしょう?」 「以前、この家に住んでいた者の知り合いです。失礼ですが、彼が何処へ引っ越したのかご存知ですか?」  女の人の問いに、レストランの給仕さんも顔負けの爽やか笑顔で、サリカさんは丁寧にそう言った。うわぁ……化けてるよ、この人……。  そんな笑顔に、女の人はなぜか少し恥ずかしそうな顔をして、問われたことに答える。 「カルマさんなら……フェルシエラに行くって言ってました。それ以上は、よくわからないんですけど……」 「それだけで十分です。どうも失礼しました」 「い、いいえっ、そんな……!」  女の人は、何処となく赤い顔でそう言いながら首を横に振って、それから。 「あの……よ、よかったら、お茶でもどうですか?」 「厚意だけ受けとっておきます。私は急ぐ身なので」 「そ、そうですか……引きとめたりして、すみません。それでは、お気をつけて……」  やんわりとお茶を断られた女の人は、残念そうに一礼して、パタンとドアを閉めた。別に急いでいるわけでもないし、せっかくの誘いをどうして断ったのか納得が行かなくてちょっと聞いてみる。 「お茶、付き合っちゃえばよかったんじゃないですか?お友達になれるかもしれませんし。どうして断ったんですか?」 「……この詐欺師が」 「フフ、私のせいじゃないよ?」 「……??」  ノストさんのそんな一言に、サリカさんは振り向かずに肩を竦めてトボける動作をした。……な、なに、この言わずとも通じ合ってるみたいな!? 私は蚊帳の外か~っ!  サリカさんは私とノストさんを振り返って、頭に手を当てて笑った。 「ま、とりあえず、あっさり居場所がわかったね~。やってみるもんだなぁ、ははっ」 「聞いてみて正解だったでしょうっ?じゃあ次は、フェルシエラに行くんですね!」  自分でも凄くわくわくしてるなって思った。なんだか、新しい場所へ行くのが凄く楽しみ。見たことのないものばかり見れるから!  しかもフェルシエラっていうと、アルフィン村から2つ川を越えた先にある貴族の都。割と近いけど、行ったことはなかった。ここからだと結構遠いかな。はぁ、綺麗なんだろうなぁ~。  って、あれ……ノストさん、なんか……物凄く嫌そうな顔してるんですけど。な、何でだろ……行きたくないのかな?  でもノストさんは何も言わないから、サリカさんは気付かずに話を続ける。 「うん、そうだけど、もしよかったらミディアに寄りたいんだけど、いいかな?」 「ミディア……?」 「はぁ?潰す手間が増える。一人で行け」 「つ、潰す手間って!?」 「山道のことかい?そんなに気にすることでもないだろ?」 「え?え、え?? さ、山道……?」  もう丸っきりついていけていない私。その理由に予想がついたらしくて、ノストさんは溜息1つ、サリカさんは苦笑い。  ……ミディアって、初めて聞いたんだもん。場所なんて知らないよ。うーん、よく地図見てたから、シャルティアの地理にはちょっと詳しい自信があったんだけどな……何処にあるんだろ? 「これだから馬鹿は」 「す、すみませんでしたねっ!大体っ、シャルティアが大きすぎるんです!」 「馬鹿の言い訳ほど惨めなものはねぇな」 「うっ……そ、それもそうですね……じゃあ、あの、慈悲でも何でもいいので教えて下さい!」 「…………まぁいい」  ま、まぁいいって……!ノストさん、何か言おうとしたけど言わなかった!私に「慈悲」って言葉をとられたの、意外と結構こたえたっ!? 「ミディアは、イクスキュリアから少し西にある。ロウラ川が分岐する付近の街だ」 「お~、さすが、物知りだねぇ~。ミディアとフェルシエラの間にはマオ山脈があるけど、山道越えればすぐ着くから」  じゃあ……アルフィン村やフェルシエラから見れば、ミディアは、マオ山脈を挟んで向こう側……ってことか。意外と近いとこにあるんだ……知らなかった。 「そ、それはわかりましたけど……潰す手間って、どういうことですか?」  それから私は、さっきノストさんが言った言葉が気になって聞いてみた。さっきサリカさん、山道がどうって言ってたし、その山道、なんかやばいのかな!? 「あぁ、山道ってのは、基本的に何処も山賊の巣窟なんだよ。山を越えようとする旅人を襲って物を奪うんだ。それはともかく、山賊っていうのは常に金欠だからねぇ、賞金首の情報には耳が早いんだ」 「ってことは……!?」 「君らは襲われるね~」 「や、やっぱりそうなるんですか~!?」  そ、そういう意味だったのかぁあ~っ!! 確かにルナさんに激似な私とノストさんはやっばーい!危険地帯はアスラだけだと思ってたのに~! 「まぁでも、山賊なんて敵じゃないだろ?大将」 「面倒臭ぇ。却下。つーかお前が働け」 「そう言わずにさ~」 「知るか」  ……何様なんだ、この人。 「ところで、何でミディアに行きたいんですか?」 「ん、あぁ、コイツの件でちょっとね」  と、サリカさんは肩にかけた紐を持ち上げてカノンフィリカを示した。 「アルカは野放しにできないからねぇ。まぁつまり、仕事の用事ってことかな?」 「なら一人で行け」 「…………え、えっと……ノストさん、私……行きたいです」  確かにサリカさんのお仕事に、わざわざついていく必要もない。先にフェルシエラに行って待ってるっていう手もあったけど、私は行きたかった。ってことで、弱々しく抗議する。  だってカノンフィリカは、カノンさんの……お姉ちゃんの剣なんだよ。私、それが安全なところに運ばれるの、見届けたいよ……。 「カノンさんの剣が、私の知らないところで別のところに運ばれるなんて……なんか嫌なんです。だから……ノストさん、ミディアについてきてくれませんかっ?お願いします!」  ばっと頭を下げてお願いする私。なんか新しいところへ行く時って、いっつもノストさんにこうして頭下げてる気がする。そうじゃないと、ついてきてくれそうにないしなぁ……。  返答を待つ私。が、返答はなく、代わりに、  ガッ! 「あたぁっ!?」  ノストさんに向けていた頭の天辺を掴まれた!私が思わず頭に手を当てようと腕を上げるより先に、無理やり顔を上げさせられる。  私の頭が元の位置に戻るなり、ノストさんは頭の上から手を除けた。か、髪の根元痛い……!結構手荒かったから、髪が引っ張られて痛かったぁあっ! 「な、な、何するんですかっ!痛いですよ!!」 「この際言わせてもらうが」 「は、はい」  頭の天辺を押さえて文句を言う私を、ノストさんはギロッと睨んでそう言う。なんだかちょっとイラついているらしくて、いつもより怖かった。その迫力と口調に気圧されて、さっきまでの勢いは何処へやら、素直に返事をしてしまう私。 「俺は、グレイヴ=ジクルドが完成するのを防ぐために、てめぇに付いて歩いてる。石を持って勝手に歩かれると面倒だ。前も言ったが、てめぇから石を奪わないのは単なる慈悲だ」 「え……?ふ、防ぐため……なんですか?完成させるためじゃないんですか?!」 「はは、なるほどね」  珍しく饒舌になったノストさんは、今までなかなか教えてくれなかったことをサラリと言った。私はグレイヴ=ジクルドを完成させるためなのかと思ってたから、凄くびっくりして彼に問い返した。サリカさんは面白そうに笑う。 「スロウの目的は、グレイヴ=ジクルドを手にすることだからな」 「だから、完成させるわけにはいかない……か。フフ、確かに、スロウの手に渡ったら危なそうだからねぇ」 「で、でも、ウォムストラルが集まっても、ジクルドの契約者はノストさんなんですしっ……」 「ジクルドは、前の契約者を殺せば、すぐに契約者になれる」 「だ、だったら尚更です!ノストさんが負けるわけっ……」  ……ないじゃないですか、って。そう言いかけて、私ははっと言葉を止めた。  頭を過ぎったのは、城でのスロウさんとの戦い。私がそれを思い出したのだとわかると、ノストさんは「そういうことだ」と言った。  ノストさんは……ちゃんと、わかってるんだ。今の自分は、ラミアスト=レギオルドを持つスロウさんには敵わないって。その上で、ちゃんと自分がすべきことをしてる……。 「……だから、私を……ウォムストラルを、監視してるってことですか。もしジクルドを奪われても……残りの石を集めなければ、グレイヴ=ジクルドは完成しない。だから……石は、自分の目の届くところに置いておいた方がいい、ってことですよね」 「あぁ」 「………………………ふふっ」 「……何だ」  こらえたつもりだけど、小さく笑いがこぼれた。純粋に、嬉しくて。ノストさんが訝しげにこちらを見るのがわかった。  あははっ、だって、ノストさんってば本当に素直じゃないっていうか……!頭を下げた私の顔を無理やり上げさせて、いきなりこれだもん! 「ってことは、結局ついてきてくれるんですよね?そういう理由があるから、頭を下げるなってことですよねっ?」 「見苦しいからな」 「わかりましたっ、もうしませんからね!」  笑いながら、私はそう言った。ノストさんは「ならいい」と、言いたいことが通じるなり口を閉ざす。  まぁ要するに、そういう理由があるから、イチイチ頭を下げる私がウザかったってことだ。「黙っててもついてってやるからもうすんな目障りだ」って感じ? 「あ、じゃあついでに山道の件も承諾頼むよ大将~」 「くどい詐欺師」 「仕方ないなぁ……、…………あ!じゃあ、こうしよう。山道を通る時に私が働くから、ミディアに寄ってくれない?」  流れに乗って頼んでみたけど、あっさり断られるサリカさん。頑なに自分の意見を変えようとしないノストさんに、困った顔をしていたサリカさんは、不意に思いついたように笑顔で言った。な、何だ今の切り替えの早さ……なんだか企みを感じるっ……!  そういえば、サリカさんが戦ってるところって見たことがないっけ。ちょうどいい機会かも。……って私、なんだか戦いっていうモノを軽く見すぎじゃない!? ノストさんなんていう激強な人が近くにいるから、感覚が麻痺してるみたい……。 「……ならいい」 「決定だね。なら早速、出発しようか?」 「はい!」  私が元気に返事をしたのを見て、サリカさんは1つ頷き、ノストさんを見て小さく笑った。 「フフ、行きたくないって雰囲気だね」 「………………」  クスクス笑いながらそう言うサリカさんを、ノストさんは不愉快そうに睨み返す。サリカさん、ノストさんがそういうオーラ出してるって気付いてたんだ……。  睨むノストさんと、笑うサリカさん。横の私は二人を宥めようと思ったけど、どうすればいいのかわからなくて結局何も言えなかった。 「…………てめぇ、何者だ。……何でそれを知ってる」  低い声音。アスラでのおっさん事件の、最初に見た感じと同じだ。触れられたくないモノに相手が気安く触れかけた時の……怒り。  対するサリカさんはまったく動じない笑顔で、ノストさんの目を見返す。 「さぁ、何ででしょう?とりあえず、すべてを知る者……とでも言っておこうか。ただし、私は何1つ見ていない。ただすべてを聞いただけさ」 「なら黙ってろ。癇に障る」 「それは、どうも申し訳ないねぇ」  最後のサリカさんの心のこもってないセリフは、結構来たんじゃないかな……ノストさん。  なんだかサリカさん、ノストさんのこと、いろいろ知ってるみたいだ。で、ノストさんはそれが気に入らない。……そんなふうに見えた。  話が終わっても、ノストさんはサリカさんを睨んだまま。物凄く信用してないっていうのが伝わってくる。サリカさんはサリカさんで、その反応を面白がっているみたいだし。……なんだか険悪ムードだ~!!  よ、よし、ここは私がっ、話題を明るく転換しなきゃ! 「と、とにかくっ、フェルシエラに行きましょう!いざ出発です!」 「先にミディアだよ?」 「あ……」  ……撃沈。