→→ Sanctus 9

 白刃で塗り潰された視界。真っ白だった世界に、


「ぶごぁッ!!?」


 ゴッ!!!と固い物がぶつかる音と、物凄い悲鳴が響いた。
 気が付くと、白刃は目の前から消えていて、ただ曇り空だけが見えた。


「……え?」
「よーしっ、ストライ〜クッ!!」


 ――死んだと思った。槍を振り下ろされ、回避できないと感じたのに。
 全然状況が理解できず、目を瞬く六香の耳に、誰かの楽しそうな声がした。
 後ろを振り向いてみると、さっき切りかかってこようとした男が地面に伸びていた。その頭の横には……ボウガンが落ちていた。どうやらコレが頭にヒットしたらしい。いやしかし、ただのボウガンであんな固い音が出るものなのか?
 しかもこのボウガン……


「ボウガンは投げる武器じゃねぇだろ……」
「でも重いし、十分鈍器にはなるよ♪」
「アレを軽々ブン投げれるお前の腕力って……」
「……!!」


 近付いてくる、誰かの話し声。
 声。
 ……すぐ、横の方から。


「ふふ、君は僕のボウガン持てないもんね〜。もしかしたら、僕の方が腕力は上かもよ?帰ったら腕相撲してみよっか〜」
「ぜってぇ勝つ」
「それはどうかな〜?」


 その会話の声が真横で聞こえたと思った直後。ぽん、と頭の上に何かが触れた。
 ほぼ反射的に、見上げる。セルリアンブルーの髪と、紫の瞳。よく見知った顔が、静かに微笑んでいた。


「久しぶり、六香。大丈夫だった?」
「…………と……冬芽、兄……?」
「六香、お前、何でココにいんだよ。死ぬ気か?」


 呆然と兄の名を紡ぐ六香の後ろの方から、ぶっきらぼうな声がした。首だけで見ると、緑青の髪と海色の瞳を持つ、やはり知った顔の青年が、呆れた顔で立っていた。


 ―――――……これは……現実?


「は……春霞……兄……」
「おう。久しぶりだな。で、何でココにいんだよ」
「…………そ、それはコッチのセリフでしょっ!!? な、なんでっ?どーなってるの?! 兄達、生きてたの!? ってゆーか、コレって現実なの?! 今まで、何処にっ……」


 いきなり目の前に現れた、死んだと思っていた兄達。なのに本人達と来たら、いつもの調子で話し掛けてくる。
 実はさっきすでに死んでいて、ココは天国なのか?それともやっぱり現実なのか?
 混乱して、わけがわからないまま叫んだ六香の声が、不意に途絶えた。二人が不思議そうに六香を見ると、彼女は突っ立ったまま、声もなく大粒の涙をこぼしていた。
 それを見て。


「ったく……だから会いたくなかったんだ」
「ごめんね、六香。ずっと一人にさせて」


 春霞は居心地悪そうに頭を掻き、冬芽は申し訳なさそうな顔で微笑んだ。
 ――よく知っている、二人の反応。これは現実だと、ようやく認めることができた。


「…………ば……バカバカっ!!! 兄達のバカッ!! アタシ、ずっと、死んじゃったって思ってたのに……!」


 掠れた声で叫びながら、六香は近かった冬芽にポカポカ殴りかかった。「うわわっ」と冬芽が腕でガードする。
 その光景を見ていた春霞が、自分の横――そこに立ったままだった昴を指差して言う。


「俺らがあんな奴に負けるわけねーだろ」
「春霞兄はもっとバカッ!!」
「んだと?! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!!」


 びしっ!と、振り返った六香に指差された春霞が物凄く低レベルな反論をする。六香は「うるさいバカ兄っ!!」と言い返し、


「生きてたなら、生きてたって言ってよ!! 心配かけてっ……!!」
「…………悪かった」


 自分達でも思っていたことを指摘され、ようやく春霞の口から謝罪の言葉が出た。
 生きていたのに、1年も連絡の1つもしなかったのだ。できない理由があったとは言え、六香に自分達が死んだと思わせるのには十分すぎた。


「……水を差すようで悪いが、お前達、ココは戦場だぞ」


 ずっとこの場に居合わせていた昴が、静かに言った。春霞と冬芽が彼を振り返り、六香も涙を拭いながら見る。
 昴は、双子の二人の腕に巻かれている緑色の腕章を見てから、周囲に目を走らせた。確かに、いつの間にか、軍服を着たフェルベス軍の中に、二人と同じ緑の腕章をつけた者が数名混ざっている。


「……お前達がここに来たということは、イースルシア軍は完全には壊滅していないのか?」
「いや、軍は死んだ。イースルシア勢はもう俺らだけだ」
「でも、さすがにバルディアと張り合うだけの戦力はないからね〜。それに、君のことだから知ってるだろうけど、王女が要求に応じたから、もうバルディアはイースルシアに手を出してこない。氷室将軍をご丁寧にパセラまで送ってくれるくらいだから、とりあえずは信じていいと思うよ。一応、守りは固めてあるけどね。だから、フェルベス軍の助勢に来たんだ」
「そこまでフェルベスに肩入れする必要があるのか?」
「好きでやってるわけじゃねぇよ。けど、二国共同の組織なんだから仕方ねーだろ」
「え、え?? なに?どーゆーこと……?」


 三人が話す内容が理解できない。というか、1年前、二人は昴からどうにか逃げおおせたようだが、今はどうなのか?昴は自分達を殺そうとしてくるのではないのか?
 という六香の混乱を読み取ったらしい昴が、説明してくれた。


「手短に説明するが、まず、俺はお前達を殺さない。そんな場合でもないからな」
「ど、どーして……?」
「お前の兄達は今、イースルシア側の追行庇護バルジアーに所属している。俺も少し前に聞いたばかりだが」
「…………え、ええッ!!? ウソ?!」
「うんうん、僕が副官で、春霞が幹部」
「えええっ?!!」


 自分、春霞の順で指差す冬芽に、六香はさらに仰天。ということは、鈴桜と海凪、二人と同じ階級というわけで。


「じゃ、じゃあ、今までイースルシアにいたってこと!?」
「あぁ。このバカ将軍に顔見られたし、フェルベスじゃ動きづらかったからな」
「ってゆーか、将軍から逃げ切ったの!?」
「……そうだ。憔悴しているはずのコイツらを追跡させたが、ことごとく撒かれた。完全に逃げ切られた」
「で、でも、バルディア人だし、追行庇護バルジアーは他国の人ダメって言われなかったの?!」
追行庇護バルジアーって、実力がある人は誰でも採用するんだよ。国家組織だから待遇いいし、辞める人もいないんだ」


 次々に湧き上がる自分の疑問を、次々と氷解させていく、1年前、同じ場所に立ち会った三人。あの時は敵だったのに、今は協力し合う立場にあるなんて、つくづく人生とはわからないものだ。


「あっ、いたいた!よーやく見っけた!」
「六香さんっ!」
「え?」


 遠くから名前を呼ばれて、六香が振り返ると、フェルベス兵達が固まっているところから、夕鷹と梨音が飛び出してきた。その後には、水色の髪の少女と蒼い髪の青年も見えた。


「無事っ……みたい、ですね……」
「あ〜っ、よかった〜〜……」


 六香のもとに駆け寄ってきた二人は、六香がまったくケガを負っていないというのを見ると、二人同時に大きな安堵の息を吐いた。完全に息が上がっている梨音はともかく、スタミナはあるはずの夕鷹の肩が少し上下しているところを見ると、結構走り回って探してくれたらしい。
 嬉しいと思うと同時に、余計な手間をかけさせたことで申し訳なかった。六香は、屈み込んで息を整えている二人に、小さく謝る。


「ご……ごめん、いきなり走り出したりして……」
「まったくね。こんなところで、一人だけ別行動なんて自殺行為よ?」
「あ……アンタ、確か……」
「お久しぶりね」


 挑発するような言葉でそう言ってきたのは、夕鷹と梨音の横から姿を見せた水色の髪の少女・舞歌。見たことのある顔に反応した六香に、舞歌は微笑んだ。それから、まだ息が落ち着かない梨音の傍にしゃがみ込んで、「大丈夫?」と問いかける。
 呼吸が整ったらしく体を起こす夕鷹の後ろから、蒼い髪の青年・詩嵐が、春霞と冬芽の緑色の腕章に着目した。


「……お前達も、追行庇護バルジアーか。しかも幹部だな」
「あ、本当だ。ってことは、お仲間さんだね。でも、そこの二人は、追行庇護バルジアーじゃないね。六香と言い、君達と言い、何でこんなとこにいるの?」


 詩嵐と同じように、彼と舞歌の腕章を見て言い、そして夕鷹と梨音の何もない腕を見て、冬芽が不思議そうに聞いた。
 さっきのやり取りから、この二人が今の六香の仲間だとは、聞かずともわかった。そういえば、六香がココにいる理由はまだ聞いていない。
 冬芽に言われてそれに気付いた昴が、厳しい口調で警告した。


「民間人は即刻立ち去れ。お前達の面倒を見るほど、前線に余裕はない」
「いーよ別に。自分の面倒くらい……自分で見なくてもいーんなら絶対そっち選ぶんだけど、自分で見るし」
「……戦場では、自分のことは自分でしないと死ぬよ、夕鷹」


 夕鷹の聞き捨てならないトンでもないセリフに、やっと息が落ち着いた梨音が小さく呆れた声で言った。

 夕鷹は、昴を見た。赤い縁取りのなされた、黒い軍服――フェルベス軍人だ。


「アンタ、フェルベス軍の将軍サンっしょ?金髪で右目隠してるって聞いたことあったから」
「……そうだ」
「バルディア軍って、やっぱ強い?俺ら、前線通りたいんだけど」


 という、あまりにもぶしつけな質問を投げかける夕鷹に反応したのは、問われた昴ではなく、春霞だった。その最後の言葉を聞き、信じられないという顔をして、


「はぁ?? お前……バカだろ?」
「筋肉馬鹿の春霞に馬鹿って言われるなんて、君、よっぽどだね〜」
「誰が筋肉バカだ!!」
「あーもー、そーゆー馬鹿やってる場合じゃないでしょーが!」
「……六香……お前もか……」
「ありゃりゃ、僕も馬鹿の仲間入りだ♪」


 相変わらずの空気の読めない二人の兄の会話に、六香は怒りつつも、懐かしいやり取りに笑顔が綻ぶのを感じた。
 その三人を横目に、梨音が夕鷹の言葉を説明しつつ、その後を引き継いだ。


「……とにかく、ボク達、どうしてもバルディアに入国したいんです。今、イースルシアの国境はバルディア軍に封鎖されていて、通れるのは前線だけなので。フェルベスの国境も、恐らくもうほとんどが戦場になっているでしょうし」
「……なるほどな。しかし、何の用があってバルディアに行く?フェルベス軍部の機密事項を漏らしに行くわけではないという証拠はないが」


 淡々と紡がれる、懐疑の言葉。あくまでも厳格な態度で昴が言うそれを、夕鷹は「あ〜……」と、頭を掻きながらゆっくり呑み込んで。


「……つまり俺ら、今度はバルディアのスパイじゃないかって疑われてるわけ?」
「……大正解。よくわかったね」
「そ、そうね〜……アタシなんか、生粋のバルディア人だし……説得力ないわよね……」


 二人の兄を静め、昴と夕鷹達の会話を聞いていた六香が、困ったように苦笑した。
 詩嵐と舞歌のおかげで、やっと前線へ行けるかもしれないと思ったら、今度は将軍の鋭い指摘を受けた。この様子だと、みすみす通してはくれないだろう。何か、彼の首を縦に振らせるようなことはないのか。


「うーん……信じてもらえないかもしんないけど、俺達は、椅遊を……イースルシア王女を助けに行くために、バルディアに行くんだ」
「助ける?今更、要求を覆すと言うのか?バルディアが黙っているとは思えないが」
「あ、それは考えてなかったなぁ……梨音、どーしよ?」


 夕鷹が素直に自分達の目的を話したが、昴はすかさずぴしゃりと反論する。その言葉でそれに気付かされた夕鷹は、参ったように隣の梨音を見た。アゴに手を当てていた梨音は、静かに言う。


「……それは、多分、なんとかできると思うよ」
「マジ?」
「……後で話すよ。どっちにしろ、貴方はフェルベス人なんですから、イースルシアのことにはあまり興味ないんじゃないですか?」


 イースルシア国民が聞いたら激怒していただろう言葉を、梨音が冷ややかに昴に言うと、昴は「それはその通りだがな」と、悪びれる様子もなくきっぱり肯定した。


「しかし、俺が今求めているのは、貴様らがバルディアのスパイではないという証拠だ」
「……な、ないわよね……猟犬ザイルハイドは、国籍ってあまり関係ないし……」
「……残念ながら、決定的なものは」
「あ〜、困ったなぁ……急いでるのに……」
「証拠がない以上は通せない。ココで見逃した貴様らが本当にスパイで、そのせいでフェルベスを潰されたとなったら取り返しがつかないからな」


 顔を見合わせて落胆する三人に、昴はそう言い切った。
 軍を束ねる以上、国を守るために、彼が厳しい態度をとらなければいけないのは至極当然だ。しかし、彼を口説けるほどの決定的証拠を、三人は持っていない。
 ――そうなると、取るべき行動は1つだ。


「将軍っ!!」


 彼の背後――前線がある方角から、昴を呼ぶ声が上がった。皆が振り返ると、一人のフェルベス兵が走ってきていた。さっき、昴が先に前線へ向かわせた一人だった。


「将軍!前線が飛空艇と戦車に苦戦中です!お急ぎ下さい!!」
「やべーな、兵器のダブルパンチか……冬芽、行くぞ!」
「はいはーい」


 それを聞いた春霞と冬芽が真っ先に駆け出すのを見て、三人は顔を見合わせると。
 一斉にその後を追って駆け出した!


「!?」


 昴が驚いて剣の柄に手をかけつつ、三人達を追おうと微動した時、梨音が先に詠唱していた『景の不動』の黒い針が、彼の影を縫い止めた。魔術について詳しく知らない昴は、今度は、いきなり言うことを聞かなくなった体に動揺する。
 呆然と見る正面で、走っていく三人のうち、紫色の頭が足を止めて振り返った。


「ごめん、将軍サン!けど俺ら、マジでバルディアのスパイじゃないから!信じていーよ!信じられないかもしれないけど、絶対に違うから!!」
「夕鷹っ、早く!」
「おうっ!」


 六香に声をかけられ、再び夕鷹は前を向いて、先を行く二人を追いかける。
 ――と、その隣に誰かが並列した。春霞と冬芽は先に行ったし、自分と並べるくらいの人物がいるのかと驚いて目を向けると、蒼い髪の青年が隣を駆けていた。


「へっ?シランサン??」
「バルディアに入るために前線を突破するなら、手伝ってやる。どちらにしろ、俺達は仕事上、行かなければならない。何より、お前らにはまだ、舞歌の目を覚まさせてくれた貸しを返してない」
『ふふっ、そういうことよ。わたしもアナタ達がスパイだなんて思えないし、手を貸してあげるわ』
「へ??」
「上だ」


 詩嵐の声を引き継ぐように、風に乗って舞歌の声が耳朶に触れた。しかし何処から聞こえたかわからずに目を瞬く夕鷹に、詩嵐が短く言う。
 言われた通り、曇天を仰いでみると、確かに、水色の髪の少女が空を駆けていた、、、、、。その名の通り、羽が舞うような軽やかさで宙を蹴り、ふわりと跳ぶ。その一歩で移動する距離は、こちらの十歩に匹敵するほどある。《風》を統べるクランネは、驚いた顔をしている夕鷹に、得意げに小さく笑って見せた。

 先行していた二人は、自分よりも足は速くない。難無く追いつくと、梨音が首だけ動かして夕鷹が追いついたのを確認してから、言った。


「……夕鷹。さっきの、要求を覆されたら、バルディアがイースルシアに攻めるかもしれないっていう話だけど」
「ん?ぁあ、うん。それについて話してたんだ」
「うん、大体こーするって決まったから聞いて」
「おう、どーぞ」


 梨音と六香で、すでに話し合いをしていたらしい。二人は信用できるし、言われたことを素直にこなそうと思った。夕鷹が先を促すと、梨音が言う。


「……恐らく、椅遊さんの傍には、かなりの確率で玲哉さんがいる。だから、二人と会ったら、まず夕鷹と椅遊さんは距離を置いた方がいい。三人が同じ場所に居合わせるのは、一番最悪だと思う。本当は、玲哉さんがいなければ一番いいんだけど……」
「まず有り得ない、でしょ?それに、もしいなかったとしても、椅遊を助けてる間に来られたらおしまいよ。今のアンタじゃ、玲哉からは逃げ切れないだろーし……」
「ん〜……まぁね、うん」
「……だから、椅遊さんか夕鷹を、その場から離れさせるしかない。だけど、椅遊さんは玲哉さんの手中。……だからまず、夕鷹が離れるしかないんだ」
「……んッ!? ちょっと待てよ、それってつまり……」


 それまで黙って話を聞いていたが、「自分が離れる」と聞いて、夕鷹は慌てて声を割り込ませた。

 夕鷹、椅遊、玲哉。三人が同じ場所に居合わせたら、それは最悪の事態だ。玲哉は椅遊の前で夕鷹を殺そうとし、戒鎖ウィンデルの外せない夕鷹は恐らくすぐに負ける。すると椅遊の召喚が発動し――結局、玲哉の思惑通りだ。
 それを崩すためには、誰か一人でもいいから、その場から欠ければいい。椅遊は玲哉に捕まっているから身動きがとれないし、玲哉は恐らく椅遊の傍から離れないだろう。となると、必然的に、欠けることができるのは夕鷹のみだ。
 ――つまり、椅遊を助けに行く時、夕鷹はついてくるなと。梨音は、そう言っている。


「……だから、ボクと六香さんで、玲哉さんと対峙する」
「でも……そしたら今度は、お前らがやばいだろ?やめた方がいーって」


 玲哉の異常な強さは、夕鷹がそれこそ身を持って知っている。本気で命の危険を感じたのは、もう何百年もさまよってきた中で、物凄く久しぶりだった。戦いは命のやり取り。そんな単純なことすら、完全に忘れていたくらいに。
 そんなとんでもない奴には、自分もできれば会いたくないし、仲間にも会わせたくない。夕鷹が心配して言うと、梨音は少し頭の中で考えをまとめて言った。


「……面と向かって話したわけじゃないけど、今までの行動を見る限り、玲哉さんは聡い人だと思う。だから、問答無用で攻撃はしてこないと思うんだ。……万が一、してきても、『拒絶の守護』を張っていれば、玲哉さん相手でもそれなりには持つと思う……」
「確かに……アタシは一度だけ、プロテルシアで会ったけど……問答無用で攻撃はしてこなかったわ。ってゆーか……殺すまでもない、って感じだったわね……ムッカつくくらい、余裕綽々だった」


 梨音の隣を走る六香が、プロテルシアで対面した金眼者バルシーラの青年を思い出しながら言った。
 思い返してみれば、あれは恐らく、かなり見下されていたのだろう。確かに自分が玲哉に敵うとは思ってもいないが、今思うと、あれは腹が立つ態度だ。


「……だから、ボクらは大丈夫。それに、ボクが考えたこの作戦、一番危ないのは夕鷹だよ」
「へ?? 俺?何で?俺、行っちゃダメなんだろ?」
「まだ話の途中でしょっ。玲哉は、多分すぐには攻撃してこないわ。だから、それを利用して取引させるのよ!」
「……ちょっと強引だけどね」
「取引??」


 ぱちくりと金の瞳を瞬かせる夕鷹に、すでに二人で会議を終えていた六香と梨音は、同時に頷いた。






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