第8話  食事中の幸運

 レナは、実は自分ととてもよく似ている。
 両親を亡くし、親しい人に裏切られ、塞ぎ込んでしまった少女。
 両親を亡くし、面倒を見てくれた人を最低な女に殺された自分。
 ……いや、自分はまだマシかもしれない。信じていた人には裏切られていないのだから。
 そう考えると、レナは自分よりもずっとずっと傷付いている。





 やはり人なら誰でも、おいしい物を食べている時は幸せの絶頂にいる。
 ズルズルと麺をすすり、ズズズっとスープを飲み干し、キルアはプハーっと満足そうに息を吐き出した。満面の笑みできゅっと手の甲で口元を拭いて、そのままシュタッ!と挙手して。
「おじちゃーん、おかわり〜!!」
「……お前、ホントよく食うな〜……」
 元気なキルアの声とは正反対に、正面からゼルスの疲れたような声がする。彼女の脇に積まれているどんぶりを見て、もはや驚きを通り越し呆れた顔をしている。
 11皿目のおかわりを頼んだ自覚なき大食い魔人は、キョトンとする。ゼルスが驚くのも無理なく、彼から見ると、大して食べるスピードが速いわけでもないが、なぜだかいつの間にか1皿完食しているのだ。脅威である。
 二人は、セルリアはルプエナ国内にはいないだろうと踏んで、手始めにリギストに移動してきた。そこでひとまず、お腹が空いたので腹ごしらえ中。

 箸で切り取った焼き魚の身を食べたゼルスが、ふと口を開いた。
「ところでお前、自分のサイフのこと考えてるんだろーな?」
「へ?」
「…………まさかお前、考えてなかった〜なんて言わないよな?」
 運ばれてきた味噌ラーメンの麺に食らいついた格好で箸を止め、キルアは目を瞬いた。嫌な予感を禁じえないゼルスが、片手に白飯のお茶碗を持ったまま停止してから小さくそう聞くと、彼女はにっこり微笑んで。
「うーんとね、お金間に合わないよ♪」
「結局考えてねぇんじゃねーかよ!!」
「エ?だって、『考えてなかったーなんて言わないだろーな?』って言うから……」
「アホか!こーゆー時だけ無駄に頭使うな!」
 遠回しに言った言葉を真に受けていたキルアに言ってから、ゼルスは大きな溜息を吐いて彼女の皿を見た。ラーメンがいつの間にか半分まで減っている……。
 一般的に、所持金が間に合わなかった場合、その料金分その店で働かされる。現時点ですでに、1皿約500円×11皿は払わなければならない。コイツ、そんなに金持っているんだろうか。
 オシャレな店内は、凝ったデザインの照明に照らされて埃1つない床が光っていた。1つ不愉快なのは、同じ店内だということを良いことに、飛族の自分をジロジロ見てくる奴らがいることくらいか。悲しいが、こればかりはどうにもならない。

 小さく息を吐くと、ふと正面から視線を感じた。目線を上げ、ゼルスはぎょっと身を引いた。ラーメンを食べる手を休め、キルアがニコニコこちらを見ていたからである。
「えへへー♪」
「……な、何だよ」
「ボクさー、少し前から思ってたんだけど〜」
「はいはい……何?」
「誰かと一緒に食べると、ご飯っておいしーね☆」
 それは、言外で「今まで一人でご飯を食べてきた」と言っているようなもので、しかもキルアのことを何も知らない自分は何も言えず。ただ沈黙するが、彼女は気にせず続ける。
「ゼルスはー、家族いるの?」
「……義理ならいる」
「いーなぁ〜、いい家族なんだろーなぁ〜」
「まだ何も言ってねぇぞ……」
「『家族』、って認められるってコトはいい人たちなんデショ??」
「………………」
 もちろん世話になった義理の家族は、『家族』だ。論理的だから言い返せないと同時に、この先の話を大よそ把握してしまう。
 黒瞳を伏せて、赤茶色のラーメンの水面を見下ろし、キルアは言う。店内を満たす喧騒が遠く感じた。
「ボクもね、一応いるんだよ。義理の家族。でもね、『家族』じゃないから」
「………………」
「ボクを拾ってくれたのは義父さんなんだけど、義父さん病気で死んじゃってね、そしたら……ボクを嫌ってた娘さんが」
「いい。大体わかったから」
 話すのは本人もつらいはずだろうから。ゼルスが静かに制すと、キルアは「そぉ?」と首を傾げてから、羨望の眼差しで溜息を吐く。
 実にあっけらかんとした口調で、しかし笑うこともなく怒ることもなく、ただ真剣な顔で。
「いーなぁ、ゼルス楽しそうで。竜族と鳥族の差なのかなー?『ボクらと違って、竜族は郷がまだあるデショ』?」
「………………」
「鳥族はね、みんな竜族キライなんだ。でもゼルス見てると、竜族は鳥族のコト、何とも思ってないみたいー?それってひどいなーって」

 もし彼女の人生が、そのせいで狂ったのならば。
 その補償は誰がする?どう贖罪する?
 なぜなら、たった6年前にできたばかりの大きな溝を、埋めるはずの当事者はすでにいないのだ。



 一体、何が原因だったのか今ではもうわからない。
 6年前、竜族が鳥族の集落を滅ぼした。鳥族は散り散りになって逃げ、今では消息不明だ。
 その後、頭が冷えたらしい竜族は、自分達の犯した過ちに恥じ、当事者の同族たちを粛清した。そのせいか竜族では、あの事件は解決したと思っている気がある。
 しかし鳥族は、今目の前で悲しげに訴える彼女のように、決して忘れてはいない。許してはいない。

 この痛みは、今後ずっとついて回るのだろう。
 たとえ自分が直接関わっていなくとも、同じ翼を持つ者の罪は自分たちの罪でもある。
 当事者は後始末をせずに、さっさと逝ってしまった。いや、逝かされたというべきか。
 残されたのは、残滓と言えど、決して軽くはない残滓だけ。

「別にゼルスは悪くないよっ?でも、忘れないでね。そーゆー事件があったって」
「………………」

 「忘れない」、だけでいいのだろうか。
 そもそも、「忘れない」などできるのだろうか。
 無関心な自分に。
 一族との縁を切った自分に。

 どうも棘のようなものが引っかかる。
 ゼルスが答えずにいると、キルアは了承だと受け取ったらしい。休めていた手を再び動かし始め、ズルズルとラーメンを吸い込んでいく。ゼルスは逆流する黄色い滝をぼんやり見つめる。



「——そういやさ、フェリアスを中心に荒らし回ってる、ヘルメアっていう盗賊団がいるだろう?」
「あぁ、盗賊団にしちゃ、随分と血の気の多い奴らっていう」
「ちょっと噂で聞いたんだけど、そのヘルメアのリーダー、団員の男達より若い、超強い凄腕剣士なんだってさ」

 自分の手元に視線を移すと、冷めかけのご飯が少し残っていた。それを何気なく口に運んで、モグモグ噛む。正面からは、ガッチャンと固いものがぶつかり合う音がして、「おじちゃーん、もっかいおかわりー!」とか元気な声がする。

「え、ヘルメアのリーダーって、あのザインだろ?」
「それがさ、半年くらい前に、その剣士に代わったんだと。ザインは団員になっちまったって」
「へぇ〜、あのザインを越える若い剣士ねぇ」
「体つきのいいザインと違って、見た目から強そうな戦士ってわけでもないんだよ。何て言うか、気迫が圧力的で強そうなんだ」

 食後の紅茶にスティックシュガーを加えて、スプーンで静かにかき混ぜる。

「気迫で強そうって、お前、本人見たのか?」
「たまたま遠くから見えたんだ。巨漢のザインと並べて見ると小さく見えるが、背は高い。蒼い髪だったな。何つったかな……あ、そう、セルリアだ!セルリアって言ってたな!」

「——その話」

 コツンと、テーブルに響く小さな音。会話していた二人の男が振り向くと、いつの間にか傍に立っている竜族がいた。飲み干した紅茶のカップを、隣席だった男達のテーブルに置いたゼルスは、彼らを見据えた。
「詳しく聞かせてもらおーか」



 ——セルリアは、レナを傷付けて立ち去った。
 本人がもしそれを忘れていなくても、このままなんて自分が許さない。
 そうでなければ、レナの傷は誰が引き受ける?
 同じように。竜族が鳥族を傷付けたのならば、その傷は誰が引き受ける?
 「忘れない」だけでいいのか?



 二人の男は、真っ先にゼルスの背中の竜の翼が目に入ったらしく、驚いた顔をした。彼の後ろで、相変わらずズルズル元気な12杯目のラーメンを食べているキルアも見て目を丸くする。
「ヘルメアっつったな?何処に行けば会える?」
「……あんた、ヘルメアを狩るつもりかい?飛族たって限度があるだろう。無理だって、やめとけよ」
「いーから答えろ」
 刈り上げ頭の男の呆れた声に苛立ったゼルスが少し凄みをきかせた低音で言うと、男はビクッとして口を閉ざした。もう一人の短髪の男が、意外と親切な口調で語る。
「ヘルメアはフェリアスを荒らし回ってるから、きっとそのうち会えるよ」
「狙われやすそうな場所とかは?」
「ヘルメアは、食料目当てで襲ってくる場合が多いんだ。だから、例えばこういうレストランとかは、絶好の的……」
「お、おい!」
 先ほど口を閉ざした刈り上げ男が話に割り込んできた。ゼルスがいい加減、腹を立てて彼に一言言おうとした瞬間。

 突然、派手な木の悲鳴とともにレストランの木製ドアがぶち破られた!外にいた人々が悲鳴が上げて走っていき、店内にいた客達も声を上げて身を縮める。
「うるせえ!! 静かにしねぇと殺すぞ!!」
 途端、ピタっと喧騒が止む。叫んだのは、ドアを破ってきた体つきのいい大柄の男だった。手に持った斧を近くのテーブルの客達に突きつけながら、彼は後ろに控えていた数人の仲間達を呼び寄せる。
 皆が食事の手を止め、恐怖に身を硬直させる。家族は身を寄せ合って息を殺している。男達は厨房の方へと向かう。
 昼間とは思えないほど静まり返った店内。息をするのも恐ろしいような沈黙の中。ゼルスはつまらなさそうな目で男達を見てから、さっきまで話していた男に小声で問う。
「アイツらか?」
「あ……う、うん。先頭のデカイ男がザイン」
「いろいろサンキュー」
 あのデカ男がザインなら、話は早そうだ。アイツを一瞬で伸せば、他の男達は戦意喪失するだろう。相手するのもめんどいし、一網打尽にするならそれだ。
 誰も微動だにしない中、呑気に自分の席に戻るゼルスはいたく目立つ。しかしそれより目立っていた奴がいたので、因縁をつけられることはなかった。
 ゼルスがのんびり座った正面からする、ズズズーッという、麺をすする音。

「おい、そこの鳥族のガキ!! 何呑気にラーメン食ってやがる!!」
 片手に斧を持った男——ザインが、ラーメンをすすっているキルアを指差して叫んだ。その大きな声でようやく気付いたらしく、キルアはふと顔を上げて首を傾げる。
「あれれ、なんか静かになってない〜?」
「状況見ろよ……客だ」
「あ、ホントだ。ねぇねぇゼルス、このラーメンおいしーよ!何杯も行けちゃうよ☆」
「ってお前、俺がちょっと目を離した隙に、2杯食いやがったな!? あれで終わりっつったろ!」
「えー、あともーちょっと〜」
「とか言って2杯食う気だろ!それで終わりだ!おい、おっさん、もうラーメンいらねぇぞ!」
「ええ〜〜!? そんなぁ〜!」
「おいてめぇらぁぁああああ!!!! 無視してんじゃねえぞ!!」
 ゼルスが厨房に向かって声を張り上げ、キルアがこの世の終わりみたいなショックな表情をし、それより大きなザインの怒号が噴火したような勢いで響き渡った。ビリビリと空気が振動する大音声に、二人ではなく周囲の客たちが身を縮み上がらせる。
 つい注目されるようなことをしてしまったと内心で嘆くゼルス。ザインは斧で二人を差し、団員達に声を張り上げた。
「我慢ならねぇ!! 野郎ども、アイツらを潰すぞ!!」
「「「おう!!」」」
 同じく怒りを覚えていた団員達は、ザインの怒りに呼応して二人に迫ってきた!
 イスに横向きに座るゼルスは、近付いてくる男達を見た。当然、キルアはラーメンを食べながらだ。
「おい、お前とラーメンの責任だぞ」
「えーゼルスがなんとかしてよ〜!ボクはラーメン食べるのに忙しいっ☆」
「ぬぁああんで俺がお前の始末しなきゃならねーんだよ!!?」
「死ねェ!!」
 先頭を切ってやってきた男が剣を振り上げる。随分と古びた剣を相手に、ゼルスはテーブルの上にあったフォークで受け止めた。
 どうやら、フォークの方がずっと強度が高かったらしい。もしくは、錆びた剣の方が当たりどころが良すぎたか。剣はフォークにぶつかった直後、綺麗な断面を残してそこから上が吹っ飛んだ。
「んなーーー!!?」
「おいおい、フォークに押し負けて折れる剣なんて聞いたことねーぞ……商売道具ならちゃんと手入れしろよ」
「た、確かに脅すだけだし、剣って商売道具か……」
「ってお前ら、口だけの盗賊かよ?殺しはしないって?」
 何気なく話しかけたら、ポロリと相手の本音が出た。半ば呆れてゼルスが問うと、切りかかってきた男と後ろにいた二人がブンブンと首を振る。
「い、いやそのっ、俺は……」
「こ、殺すなんてできない、無理無理」
「お、俺も俺も」
「……俺は好感を持つべきなのか、憐れむべきなのか……」
 プロの泥棒は殺しはしないと言うが、コイツらはどう見たって素人だ。盗賊になったというのにそんなことを言っていていいのやら。
 ふと、男の一人が思いついたように声を上げた。
「あ、でもザインさんは……」

「おい、このクソガキ!!! いつまでラーメン食ってやがる!!」
 その声は、本人の大声に押し潰された。全員がそちらを、ゼルスは背後を振り返る。
 そこには、キルアの頭スレスレに斧を突きつけているザインと、味噌ラーメンの汁をごっくごっくと飲んでいるキルア。
「…………お前らを相手するより、ラーメン食うことに忙しい、とさ」
 その肝の座り具合は、もはや感嘆に値する。そして行きすぎて結局呆れになる。
 ゼルスが呆れ果てた声でぼそりと言うと、ばんっと空になった器を置いて、幸せそうにキルアが笑顔で言う。
「ぷはー、おいしかったー♪」
 ブチッとザインの頭から小さな音が聞こえた。ゼルスが被害を受けるのを嫌い、席を立って二人から距離を置いた直後。



 風が唸る音とともに、甲高い音が響いた。
 寸前で手を引っ込めたキルアの目の前で、斧の重量と勢いでラーメンの器が粉々に砕け散ったのだ。
 眼前で形もなく崩れ去った器に呆然とするキルア。彼女の空気を読まない動作を止めたことに満足したザインが、小さく嘲笑し——

「食器になんてコトするんだぁあああーーーッッ!!!!!」

 ……ようとした直後。真下からキルアの拳が、華麗にザインのアゴにクリーンヒットした。
 食べ物と友人関係でもある食器をもてあそばれて、食べ物親善大使が黙っているはずがない。直前に器から手を引いたところを見ると、やっぱり一番は食べ物を味わえる自分自身のようだが。
 ザインはそのまま中空を舞い、頭から落下した。ゼルスが一応確認すると、ザインは完全に目を回していた。食べ物の……いや食器の恨みは怖い。
「ざ、ザインさん!!?」
「ザインさんが!? 嘘だろ!?」
「お、おい撤収するぞ!!」
 ザインをたった一人の少女に一撃で倒された男達は動揺にどよめきながら、ザインを運ぼうと倒れている彼のもとに慌てて群がる。ザインの傍らにしゃがんでいたゼルスはまるで無視だ。
「俺は眼中の外かよ……おい、てめぇら」
「は、はいぃ!?」
「な、何でしょうか!」
 不機嫌な様子も露にゼルスが低い声で言うと、男達は声を裏返しながら敬語でそう言った。床に転がっていたどんぶりの破片を悲しそうな顔で見つめているキルアを一瞥してから、ゼルスは彼らに問う。
「お前ら、ヘルメアって連中だな?親分って、セルリアって奴らしいな?」
「へ、へい。ザインさんより強い方で……へへ、セルリアさんの剣術は綺麗なんすよ」
「お頭になることを拒否しなかったのに、欲っていう欲もない、凄くいい頭なんです。なっ?」
「「おう!」」
「……ふーん」
 セルリアの名前を出しただけで勝手に誇らしげに語り始めた二人の男。どうやらセルリアは彼らから好感を持たれているらしい。
「じゃあじゃあ、ボクら、そのセルリアってヒトに会いたいんだけどっ、会えるかなぁ?」
 さっきまでラーメンの器に黙祷をしていたキルアが、思い出したように話にも間にも割り込んできた。キルアの一言に、男達は目を見開いて困った顔をした。
「え、ええ!? セルリアさんにっすか?! う、うーん……」
「セルリアさん、前に何かあったみたいで、アジトの奥から出ようとしないんですよ」
「もし訪ねてきた人がいたら、追い返せって言われてて……なぁ?」
 一人の男が皆に同意を求めると全員が頷いた。どうやら現在は人との関わりを断っているようだ。
 自分達は、依頼を受けている。セルリアに会い、レナの屋敷へ帰るように説得しなくてはならないのだ。

 それに——



「……キルア」
「んー?」
 視線を合わせられなかった。倒れているザインをぼんやり瞳に映したまま、ゼルスはキルアを呼ぶ。
 セルリアはレナの傷を引き受ける必要があると思った。
 だから自分も、鳥族の傷は引き受ける必要があるだろう。
 しかし、どうやってあがなえるのかなどまったく見当がつかないから——

「……少し……時間がほしい。事件について……もう一度、考えさせてくれ」
「んと……むむ?ボクは時間持ってないからあげれないよー?」
「あー……ちょっと考えるから、待ってろってことだ」
 なんとなく空振りしたような無念さを抱きつつ、ゼルスはサラっとそう言って流した。
 それから、話が見えずにキョトンとしている男達に視線を移し、笑った。……何処かニヤリと。
「で、セルリアが人付き合い断ってるって?なら強行突破だな。お前ら戦る気はあんのか?」
「え、えぇえええ!?!」
「いっいやいやいや!!!」
「貴方がたの不戦勝でどうぞ!!」
 口々に言って、三人揃って身を引いた。予想通りの従順な態度に、よしっとゼルスは満足げに頷いた。
「ってことで、お前らは今、俺らに負けた。そんじゃ、とっととセルリアのところに案内しろ」
「おおー!! ゼルス、悪党っぽーい!悪役悪役〜!」
「……嬉しくねぇ……」
「へい!こっちです!」
 そもそも盗賊の方が基本的に悪党のはずなのに、いつの間にか立場が逆転している。おかしい。

 小柄な男が店のドアを開き、大柄なザインを運ぶ残りの男達の手助けをする。店から出て行こうとする彼らの後に続きかけ、キルアが「あ!」と立ち止まって声を上げた。
「チョット待って!お金払んなきゃ!」
「あ〜、そーいや食い逃げするわけにもいかねーしな……っていうか、お前が払うのは金じゃなくて労働力だろ?」
「あ、そっか!よーっし、二人で頑張んなきゃね!」
「って何で俺まで数に入ってるんだよ!一人でやれ一人で!」
「ええー!? やだーっ!置いてかないでよぉ〜!!」
「やだーって……あー、わかったわかった。待ってるから元気に働いてこい」
 なんだかもう、丸っきり子供ガキだ。本当にお守りしているような気分になってくる。
 ヘルメアの男達には後で案内してもらうことにして、ゼルスが平坦な声で面倒臭そうにそう言った時。
「いやいやいや!!」
 厨房から飛び出してきたおじさんが、声を上げながら走ってきた。給仕スタッフと服装が違うところを見ると、店のオーナーらしい。
 鼻息の荒いオーナーは、きょとんとしているキルアの手を両手で掴んで、無駄に熱の入った声で言う。
「あの男達を追い払って下さって、感謝してもしきれません!お金はいりません!」
「へっ!? おじさん、いーの??」
「もちろんです!!」
「おっしゃ、ラッキー。お前がバカ食いしたから、どんだけ待たされるかと思った」
「バカ食いって何ーっ!!」
「まんまだろ」
 あれをバカ食いと言わずして何と呼ぶのか。結局、キルアは13杯と半分の味噌ラーメンを平らげた。さらに、満腹という気配がないから少し怖い。
 気分なのか、くる〜りと片足で回ってから、キルアはぐっと拳を突き上げて。
「じゃー、気を取り直してー!れっつご〜!」
「「「おおー!!」」」
「何気に仕切ってるし……」
 相変わらずの人懐こさで男達と打ち解けたキルアを一瞥し、ゼルスは、思考を妨げる『棘』を抜く方法を考え始めた。
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